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第3章
第403話 勇者と精霊
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「世界樹はその一本しかないでしょう?
どんな植物だって、他の木から受粉しなくては、実を結ぶことは出来ないわ。」
「あ……。」
そうか。当たり前だ、世界に1本しかない木がなんであれ、1本しかないんじゃ、次世代を作ることなんて不可能だよね。
そんなこと、僕が考えるまでもなく、過去の勇者さまと聖女さまたちも、みんな思いついたんだろうな。だけど、1本しかない世界樹からじゃ、種が取れなかったんだ。
「──おそらく瘴気は、魔王のエネルギーそのものなのだと思うわ。だから瘴気をすべて吸われてしまうと、魔王は弱体化して封印出来るということでしょうね。」
「瘴気を吸うだけで、封印出来るんですか?
弱体化したとしても、魔王そのものはそこに残るんじゃ?」
「……勇者の心臓を種として、発芽した世界樹は、魔王の体に取り付いて、瘴気を吸い続け、魔王の体そのものを吸収するのよ。
だから世界樹によって封印が可能なの。」
「魔王の体を吸収すると同時に、世界樹は枯れていく、ということでしょうか。
だから世界樹は初代聖女さまが育てたこの世に1本だけ、に毎回なってしまうと。」
いくら世界中の瘴気を薄く出来る世界樹とはいえ、世界中を瘴気で満たせるほどの魔王の瘴気を吸うことに、耐えられないのかな。
「ええ。世界を覆い尽くすほどの瘴気を放つ魔王のすべてを吸うことに、耐えられなくて枯れてしまうのでしょうね。」
やっぱりそうか……。
「ですが……。体が失われてしまうのに、魔王は何度も復活するということですか?」
「魔王は精神体をそこで分離しているということが、研究によってわかっているわ。」
「分離って、肉体が存在する次元から、別次元に移り存在するという説のことですよね。
それそのものがエネルギーであるとする。
魔法を使う元になるものだと。」
「そうね。それだけでも魔王は、私たちを攻撃してくることが可能だけれど、新たな肉体を得ることを優先して、眠りについてしまうの。その時に倒せれば、二度と復活させなくさせることが出来るのだけれど……。」
「魔王の肉体のみを倒すことを、封印と呼んでいるんですね。実際、力の一部を封印しているようなものだから……。」
「そうね、精神が抜け出て逃げているのだから、実際には完全に封印されている状態であるとは言えないわね。魔王が逃げてくれたというのが、正しいかも知れないわ。」
「だけどそれしか出来ないくらい強いから、精神体になった状態であっても、魔王を倒すことが出来ないということですね?」
「ええ。」
なんだか人数を揃えたとしても、魔王が倒せるかどうか不安になってくる話だね。だけど精神体になって逃げようとする魔王であれば、人数がいれば倒せるかも知れない。
問題は、魔王の体からエネルギーを吸収して弱らせる為には、世界樹の種が必要で、それは勇者の心臓にしか作られないということだ。……例えば叔父さんの心臓に。
そんなことはさせられないし、なにか別の方法を探さなくちゃならない。だけど他の方法が見つからなかったから、代々の英雄たちはその方法で魔王を封印したんだ。
──勇者さまと、聖女さまだけが知っていた、その唯一の方法で。
僕にそれが見つけられるだろうか?
いや、見つけるんだ、必ず。
「でも、初代聖女さまが、世界樹に特別な力を与えられる人だったことを、どうしてエリクソンさんはご存知なんでしょうか?
それも魔王が言っていたんですか?」
「いいえ、勇者を守護していた人が教えてくれたのよ。彼女は精霊だったの。精霊は私たちよりもはるか悠久の時を生きる存在。
その分たくさんのことを知っていたわ。」
「初代聖女さまの時代のことも、知っていたということですね。初代聖女さまだけが、枯れた世界樹をもとに戻せるほどの力を、与えられていたということも。」
「ええ。彼女はたくさんのことを話してくれた。だけど今の勇者の心臓も世界樹の種になっていたことは、教えてくれなかった……。
初代の話は教えてくれたけど。まさか代々そうだったなんてことは、後で結果だけ見て私たちが推測したに過ぎないわ。」
「目の前でまったく同じことが起きたら、そう思う他ないですよね。
……ひょっとして口止めされていたんでしょうか、勇者さまと聖女さまに。」
「そうかも知れないわね。
彼女は勇者を救おうとしていたわ。
勇者の為に、神をも籠絡しようとした。」
「──え?」
「精霊や妖精は、人間を誘惑して夢中にさせる力を持っているのよ。妖精のイタズラの話は、よく聞くでしょう?」
「はい、それは知ってますけど……。」
絵本にも出てくるしね。
「あれは神、とパルフェは言っていたわ。その神に勇者を助けさせようとしたのよ。」
「人間にするように、神さまに誘惑の力を使ったってことですか?神さまを誘惑して、勇者を助ける力をもらおうと?」
「パルフェはそのつもりだと言っていたわ。
彼女は勇者を守護する宝石の精霊だったのよ。勇者は彼女を愛していたわ。」
──宝石の精霊って、カナン!?
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どんな植物だって、他の木から受粉しなくては、実を結ぶことは出来ないわ。」
「あ……。」
そうか。当たり前だ、世界に1本しかない木がなんであれ、1本しかないんじゃ、次世代を作ることなんて不可能だよね。
そんなこと、僕が考えるまでもなく、過去の勇者さまと聖女さまたちも、みんな思いついたんだろうな。だけど、1本しかない世界樹からじゃ、種が取れなかったんだ。
「──おそらく瘴気は、魔王のエネルギーそのものなのだと思うわ。だから瘴気をすべて吸われてしまうと、魔王は弱体化して封印出来るということでしょうね。」
「瘴気を吸うだけで、封印出来るんですか?
弱体化したとしても、魔王そのものはそこに残るんじゃ?」
「……勇者の心臓を種として、発芽した世界樹は、魔王の体に取り付いて、瘴気を吸い続け、魔王の体そのものを吸収するのよ。
だから世界樹によって封印が可能なの。」
「魔王の体を吸収すると同時に、世界樹は枯れていく、ということでしょうか。
だから世界樹は初代聖女さまが育てたこの世に1本だけ、に毎回なってしまうと。」
いくら世界中の瘴気を薄く出来る世界樹とはいえ、世界中を瘴気で満たせるほどの魔王の瘴気を吸うことに、耐えられないのかな。
「ええ。世界を覆い尽くすほどの瘴気を放つ魔王のすべてを吸うことに、耐えられなくて枯れてしまうのでしょうね。」
やっぱりそうか……。
「ですが……。体が失われてしまうのに、魔王は何度も復活するということですか?」
「魔王は精神体をそこで分離しているということが、研究によってわかっているわ。」
「分離って、肉体が存在する次元から、別次元に移り存在するという説のことですよね。
それそのものがエネルギーであるとする。
魔法を使う元になるものだと。」
「そうね。それだけでも魔王は、私たちを攻撃してくることが可能だけれど、新たな肉体を得ることを優先して、眠りについてしまうの。その時に倒せれば、二度と復活させなくさせることが出来るのだけれど……。」
「魔王の肉体のみを倒すことを、封印と呼んでいるんですね。実際、力の一部を封印しているようなものだから……。」
「そうね、精神が抜け出て逃げているのだから、実際には完全に封印されている状態であるとは言えないわね。魔王が逃げてくれたというのが、正しいかも知れないわ。」
「だけどそれしか出来ないくらい強いから、精神体になった状態であっても、魔王を倒すことが出来ないということですね?」
「ええ。」
なんだか人数を揃えたとしても、魔王が倒せるかどうか不安になってくる話だね。だけど精神体になって逃げようとする魔王であれば、人数がいれば倒せるかも知れない。
問題は、魔王の体からエネルギーを吸収して弱らせる為には、世界樹の種が必要で、それは勇者の心臓にしか作られないということだ。……例えば叔父さんの心臓に。
そんなことはさせられないし、なにか別の方法を探さなくちゃならない。だけど他の方法が見つからなかったから、代々の英雄たちはその方法で魔王を封印したんだ。
──勇者さまと、聖女さまだけが知っていた、その唯一の方法で。
僕にそれが見つけられるだろうか?
いや、見つけるんだ、必ず。
「でも、初代聖女さまが、世界樹に特別な力を与えられる人だったことを、どうしてエリクソンさんはご存知なんでしょうか?
それも魔王が言っていたんですか?」
「いいえ、勇者を守護していた人が教えてくれたのよ。彼女は精霊だったの。精霊は私たちよりもはるか悠久の時を生きる存在。
その分たくさんのことを知っていたわ。」
「初代聖女さまの時代のことも、知っていたということですね。初代聖女さまだけが、枯れた世界樹をもとに戻せるほどの力を、与えられていたということも。」
「ええ。彼女はたくさんのことを話してくれた。だけど今の勇者の心臓も世界樹の種になっていたことは、教えてくれなかった……。
初代の話は教えてくれたけど。まさか代々そうだったなんてことは、後で結果だけ見て私たちが推測したに過ぎないわ。」
「目の前でまったく同じことが起きたら、そう思う他ないですよね。
……ひょっとして口止めされていたんでしょうか、勇者さまと聖女さまに。」
「そうかも知れないわね。
彼女は勇者を救おうとしていたわ。
勇者の為に、神をも籠絡しようとした。」
「──え?」
「精霊や妖精は、人間を誘惑して夢中にさせる力を持っているのよ。妖精のイタズラの話は、よく聞くでしょう?」
「はい、それは知ってますけど……。」
絵本にも出てくるしね。
「あれは神、とパルフェは言っていたわ。その神に勇者を助けさせようとしたのよ。」
「人間にするように、神さまに誘惑の力を使ったってことですか?神さまを誘惑して、勇者を助ける力をもらおうと?」
「パルフェはそのつもりだと言っていたわ。
彼女は勇者を守護する宝石の精霊だったのよ。勇者は彼女を愛していたわ。」
──宝石の精霊って、カナン!?
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