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第3章

第400話 魔王の考え

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「これも魔塔で開発したんですか?」
「いいえ、これは錬金術師が作ったものよ。
 その結果魔塔に所属することになったけどね。魔法に影響のあるものだから。」

「そうなんですね、すごいな……。」
 お酒としても飲みやすくて、とっても美味しいよね。ほんのり甘くて、あんまり強くなくて。ステータスが上がる効果を除いても、普通のお酒として売れたんじゃないかな?

「……それで、勇者の話だったわね。」
 エリクソンさんのほうから切り出してくれる。はい、と僕はうなずいた。

「魔王は倒せない。封印することしか出来ない。だから定期的に勇者と聖女がつかわされる。異世界から来たり、この世界で誕生したりね。ここまでは知っているわよね?」

「はい、平民でもみな知っていることだと伺いました。」
「平民でも?あなたは違うの?」

「今は平民なのですが、もともとは貴族でした。家庭教師から僕は教わりました。」
「ああ、そうなのね。家督を継げない子どもだったということね。」

 正確には家督が継げる子どもだったけど、放逐されたってだけなんだけど、そこはあいまいにごまかして返事をした。話が込み入っちゃうし、僕の身の上話をしてもね。

「魔王が封印しか出来ないのは、強すぎるからよ。私も聞いてはいたけれど、実際戦ってみて驚いたわ……。魔族に加護を与える神が強いというのは聞いていたけれど……。」

「魔族は大陸統一を目指していて、定期的に襲ってくるものだと聞きました。」
「大陸統一というか、魔族や魔物に住みやすい世界にしようということね。」

「と言いますと?」
「瘴気の存在はなんだと思う?」
 存在?与える影響のことかな。

「動物や植物を魔物に変えるもとになるものですよね。人間も影響を受けて凶暴になったり、最悪グールになったりすると。」

「ええそうね。私は瘴気を、魔族や魔物にとっての酸素だと定義づけているわ。
 酸素が薄ければ苦しい。だから瘴気を濃くしてどこの世界でも住めるようにしたい。」

「でも、人間にとっては、瘴気はあるとおかしくなったり苦しくなったりするものですよね。だから争っているんですね。」
「魔王はそうは考えていないようなの。」

「──そう考えていない?
 魔王と話したんですか?」
 これは初めて聞く事実だよ!

「ええ、戦った時にね。やたらとおしゃべりで、勝手に色々話してくれたわ。」
「そうなんですね……。」

 僕らが話している横で、バウアーさんが無言で幸せそうに、グイグイとお酒を手酌でのみ続けていた。

 レンジアは任務中だと言って断ったのだけど、ステータス向上の貴重なお酒だから、任務の──英雄になるという目的の──為に飲んだほうがいいと思うと僕が言ったことで、黙ってお酒をちびちび飲んでいる。

「瘴気が満たされることで、すべての生きとしいけるものが魔物化する。そうすれば争うことなく平和な世界が築けると思っているようなの。魔物は上位種になれば魔族になることもあるから、そうやって暮らしていけばいいと本気で思っているみたいね。」

「人を、魔物に変えたいと思っているということですか。それが真の平和につながると。
 確かにどちらかによれば、すべての生き物にとって暮らしやすい世界にはなりますが。
 なりたいと思う人はいないかと……。」

「ええ。私たちも当然断ったわ。
 それが魔王には心底不思議だったみたい。
 平和を願って戦いを挑んでいるというのはさすがに驚いたけれどね。」

「魔王は平和を望んでいる……。」
 それは初めて知る事実だ。
 魔王って悪者だと聞かされていたし。

「もともとは、人間の側がしかけた争いだとも言っていたわ。争いを忌避するには、大陸統一しかないと判断したのだとね。」

「それはじゅうぶんありうる話ですね。」
 今でこそ、たくさんの国が不可侵条約を結んで、大国同士の戦争はなくなったけど、未だに侵略戦争をしかけている国だって多い。

 経済戦争ならいくらでもあるし、攻める為の大義名分さえあれば、いつでも動く国はたくさんある。リシャーラ王国に塩戦争をしかけてきた、レグリオ王国みたいにね。

 魔族の国に執拗に攻め入った人間の国が、たくさんあったとしてもおかしくない。
 だって魔物や魔族は、倒していいものとして、現代でも戦っているんだから。

 だけど人間が始めた戦いとはいえ、すべての生き物を魔族と魔物にするわけにはいかない。それぞれ自分の世界を発展させて、幸せを守るべきなんだ。

 もしもルリームゥの王様が、海中に攻め入ってくる相手がいるからと、世界に魚人と魚介類しかいない状態にしようとしてたら。

 魔王のやろうとしていることは、それと何も変わらないことだ。魔族にそれが受け入れられるかと言ったら無理だと思う。自分たちが無理なことを押し付けるのはおかしいよ。

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