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第3章
第386話 再会する父と子
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「そうよ。」
「アレックス・ラウマンと申します。突然押しかけてしまい申し訳ありません。」
「いいえ。こんなところに暮らしていると、お客様ほど嬉しいものはないのよ。よく来て下さったわね。どうぞゆっくしていらして。
普段は別の家に住んでいるから、あまりこちらの家の勝手はわからないのだけど。」
老婦人がすすめてくれた椅子に、僕とヒルデが腰掛ける。
ヒルデのお母さんがやって来て、丸テーブルの上にお茶を置いて去って行った。
「このあたりで採れるマリアカという花の紅茶なの。どうぞ、めしあがれ。」
「いただきます。」
口にした瞬間、鼻に抜ける爽やかな香り。
「……!とても美味しいです。」
「それは良かったわ。」
老婦人が嬉しそうに微笑む。
「手紙でも伝えたんだけど、うちのご先祖のものらしき物が見つかったの。
お祖母様に確認して欲しいんだけど。」
「まあまあ、何かしら。」
「こちらです。」
僕はアイテムボックスに移して置いた中身から、女性の肖像画と、紋章に✕の入ったマントを取り出して、老婦人に手渡した。
「これは……!」
老婦人がマントと肖像画を見つめて、ポロポロと涙をこぼした。ええっ!?
「これは、私の父と母のものに間違いありません。ようやく……。ようやく私のところに父が帰って来てくれたのですね……。」
そう、マントを抱きしめて嬉しそうに涙する老婦人に、
「ねえ、その✕はなんなの?」
とヒルデが尋ねる。
「──これは家族の誰にも話していないことなのだけれど。今から話すことは、ヒルデ、あなたもみんなに内緒にしてちょうだい。」
「いいけど……、どうしたの?お祖母様。」
「僕も構いません。」
僕らの言葉に老婦人がうなずく。
「……私の母はね、レグリオ王国の元王妃、フレシィティだったのよ。」
「王妃!?」
ヒルデが大きな声を出す。
フレシィティ王妃は僕も知ってる。美しい王妃を愛した当時の国王さまが、国の金貨にその美貌を刻ませたことで有名だね。
今では使われていない金貨だけど、収集家の間でかなりの高値をつけられていると聞いたことがあるよ。ヒルデがフレシィティ王妃の血縁者だったなんて。
「今の王様の父親よりも前の話よ。
母はイーニオ王国の王女だった。レグリオ王国に政略結婚で嫁いだけれど、そこで近衛に勤める父と出会ってしまったの。」
二匹の海龍が剣を取り囲んだような、レグリオ王国の紋章が、マントの背中に縫い付けられている。青色のマントは近衛騎士団だった筈。これはお父さんのマントなのか。
「……紋章に大きく✕が書かれているでしょう?騎士のマントの紋章に✕が入れられるというのは、騎士道を汚したということ。
父は母と姦淫をおかし、近衛騎士団を退団させられたそうよ。その時紋章に十字を刻まれてしまったの。父は母を連れて逃げたけれど、道中で殺されてしまったのですって。
母はなんとか逃げ延びて、この村にたどり着いたの。その時既に、私がお腹の中にいたのよ。……だけど見つかれば捕まってしまうから、母は私以外誰にも話せなかったの。」
老婦人は遠い目をしながらそう語る。
だからヒルデは平民なのに文字が読めたのか。きっとお祖母さまが母親である元王妃から教わって、それをヒルデに教えたんだ。
妙に言葉が丁寧なところがあるのも、その為なんだろうな。平民はお祖母さまなんて言わないもの。言葉遣いもきっと教えてもらったんだろう。とっさに出ちゃうんだろうな。
側妃にもしないで堂々と愛人を持つ王族も多いけど、それが王妃で相手が王宮勤めの人ってなると、さすがに問題になる国も多い。
それは主君に刃を向けるのと同じ扱いになってしまうから。王妃様はよくても、お父さんのほうは確実に駄目だ。……逃げたってことは、死罪が適用されたのかも知れないな。
これで相手が上位貴族なら、おめこぼしがある場合もあるけど。おそらくお父さんは下級貴族か平民だったんだと思う。
単に引き裂かれるのが嫌だっただけかも知れないけど、そこは当事者にしかわからないことだ。だけど一緒に手に手を取って逃げるくらい、お互い愛しあっていたんだろう。
「王族の名誉をけがしたのですもの。その子孫であっても執拗に追いかけている可能性だってあるわ。許してもらえるとは限らない。
だから私も誰にも話さなかったのよ。」
「そうだったのですね……。
僕が見つけたのはお父さまの遺品です。
その人とわかるものはそのマントと肖像画だけなのですが、すべてお渡し致しますので、どちらに運べばよいか教えてください。」
「私はこの2つだけでいいわ。私も、もうこの年齢だもの。この先もひっそりと暮らしていくし、イーニオ王国の血を引いていることを人に話すこともないでしょうし。
もしも父の血縁者に出会うことがあれば、残りはその人にお返しして下さい。出会わなければ、あなたの好きにして構わないわ。」
「わかりました、お預かりします。」
嬉しそうに、切なそうに、マントを見つめて涙を浮かべて微笑む老婦人
フレシィティ王妃との子どもを、見ることもなく死んでいった近衛兵は、ようやくその子どものところへ帰ることが出来たんだ。
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「アレックス・ラウマンと申します。突然押しかけてしまい申し訳ありません。」
「いいえ。こんなところに暮らしていると、お客様ほど嬉しいものはないのよ。よく来て下さったわね。どうぞゆっくしていらして。
普段は別の家に住んでいるから、あまりこちらの家の勝手はわからないのだけど。」
老婦人がすすめてくれた椅子に、僕とヒルデが腰掛ける。
ヒルデのお母さんがやって来て、丸テーブルの上にお茶を置いて去って行った。
「このあたりで採れるマリアカという花の紅茶なの。どうぞ、めしあがれ。」
「いただきます。」
口にした瞬間、鼻に抜ける爽やかな香り。
「……!とても美味しいです。」
「それは良かったわ。」
老婦人が嬉しそうに微笑む。
「手紙でも伝えたんだけど、うちのご先祖のものらしき物が見つかったの。
お祖母様に確認して欲しいんだけど。」
「まあまあ、何かしら。」
「こちらです。」
僕はアイテムボックスに移して置いた中身から、女性の肖像画と、紋章に✕の入ったマントを取り出して、老婦人に手渡した。
「これは……!」
老婦人がマントと肖像画を見つめて、ポロポロと涙をこぼした。ええっ!?
「これは、私の父と母のものに間違いありません。ようやく……。ようやく私のところに父が帰って来てくれたのですね……。」
そう、マントを抱きしめて嬉しそうに涙する老婦人に、
「ねえ、その✕はなんなの?」
とヒルデが尋ねる。
「──これは家族の誰にも話していないことなのだけれど。今から話すことは、ヒルデ、あなたもみんなに内緒にしてちょうだい。」
「いいけど……、どうしたの?お祖母様。」
「僕も構いません。」
僕らの言葉に老婦人がうなずく。
「……私の母はね、レグリオ王国の元王妃、フレシィティだったのよ。」
「王妃!?」
ヒルデが大きな声を出す。
フレシィティ王妃は僕も知ってる。美しい王妃を愛した当時の国王さまが、国の金貨にその美貌を刻ませたことで有名だね。
今では使われていない金貨だけど、収集家の間でかなりの高値をつけられていると聞いたことがあるよ。ヒルデがフレシィティ王妃の血縁者だったなんて。
「今の王様の父親よりも前の話よ。
母はイーニオ王国の王女だった。レグリオ王国に政略結婚で嫁いだけれど、そこで近衛に勤める父と出会ってしまったの。」
二匹の海龍が剣を取り囲んだような、レグリオ王国の紋章が、マントの背中に縫い付けられている。青色のマントは近衛騎士団だった筈。これはお父さんのマントなのか。
「……紋章に大きく✕が書かれているでしょう?騎士のマントの紋章に✕が入れられるというのは、騎士道を汚したということ。
父は母と姦淫をおかし、近衛騎士団を退団させられたそうよ。その時紋章に十字を刻まれてしまったの。父は母を連れて逃げたけれど、道中で殺されてしまったのですって。
母はなんとか逃げ延びて、この村にたどり着いたの。その時既に、私がお腹の中にいたのよ。……だけど見つかれば捕まってしまうから、母は私以外誰にも話せなかったの。」
老婦人は遠い目をしながらそう語る。
だからヒルデは平民なのに文字が読めたのか。きっとお祖母さまが母親である元王妃から教わって、それをヒルデに教えたんだ。
妙に言葉が丁寧なところがあるのも、その為なんだろうな。平民はお祖母さまなんて言わないもの。言葉遣いもきっと教えてもらったんだろう。とっさに出ちゃうんだろうな。
側妃にもしないで堂々と愛人を持つ王族も多いけど、それが王妃で相手が王宮勤めの人ってなると、さすがに問題になる国も多い。
それは主君に刃を向けるのと同じ扱いになってしまうから。王妃様はよくても、お父さんのほうは確実に駄目だ。……逃げたってことは、死罪が適用されたのかも知れないな。
これで相手が上位貴族なら、おめこぼしがある場合もあるけど。おそらくお父さんは下級貴族か平民だったんだと思う。
単に引き裂かれるのが嫌だっただけかも知れないけど、そこは当事者にしかわからないことだ。だけど一緒に手に手を取って逃げるくらい、お互い愛しあっていたんだろう。
「王族の名誉をけがしたのですもの。その子孫であっても執拗に追いかけている可能性だってあるわ。許してもらえるとは限らない。
だから私も誰にも話さなかったのよ。」
「そうだったのですね……。
僕が見つけたのはお父さまの遺品です。
その人とわかるものはそのマントと肖像画だけなのですが、すべてお渡し致しますので、どちらに運べばよいか教えてください。」
「私はこの2つだけでいいわ。私も、もうこの年齢だもの。この先もひっそりと暮らしていくし、イーニオ王国の血を引いていることを人に話すこともないでしょうし。
もしも父の血縁者に出会うことがあれば、残りはその人にお返しして下さい。出会わなければ、あなたの好きにして構わないわ。」
「わかりました、お預かりします。」
嬉しそうに、切なそうに、マントを見つめて涙を浮かべて微笑む老婦人
フレシィティ王妃との子どもを、見ることもなく死んでいった近衛兵は、ようやくその子どものところへ帰ることが出来たんだ。
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