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第3章

第369話 貴族と元貴族

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「あ……。久しぶり、だね。」
「ああ!?お久しぶりでございます、だろ?
 お前もう平民だろうが!」
「そうだそうだ!」

 サイラスが手下とともに煽ってくる。
 それを聞いた周囲のみんなが、ビクッとしてサイラスから少し距離を取った。

「フォークナー侯爵令息?学園は身分の差はなく学べる環境ですわ。王太子殿下ですら敬語を使われずに平民と接しているのですよ?
 無駄な威圧はおやめください。」

 クロエ嬢が冷徹な態度でサイラスをいさめている。こういうところは姉のグレースさんそっくりだなあ。無表情に冷静に対応するところ。代々従者家系なだけあるね。

「お……おお、クロエか。お前もいたのか。
 なに、ちょっと新入りに礼儀を教えてやってるだけだよ。」

 クロエ嬢が美人だから、サイラスが露骨に照れた感じに対応を変えてるね。
 わかりやすいなあ、昔っから。

「それはあなた様の役目ではないのでは?
 問題があるようであれば、教師が指導いたしましょう。大きな声をお出しになるから、皆が怯えておりますわ。」

「あ、ああ、それは悪かったよ。
 それで?お前文官科に入ったんだってな?
 キャベンディッシュ侯爵家の跡取りが、ずいぶんと落ちぶれたもんだぜ。」

 クロエ嬢に気を使いながらも、僕を貶めようとするのはやめようとしない。ブレないなあ。なんだか懐かしさすら感じるよ。

 僕がそう思って思わす笑みをこぼすと、
「お前!何笑ってんだ!」
「──フォークナー侯爵令息。」
「あ、はい、ごめんなさい。」

 再び怒鳴ってしまったことを注意されて、反射のようにそう答えるサイラスに、周囲のみんなが思わずクスクスと笑い出す。

 単にしつけられた犬みたいで、ちょっと可愛くもあったから、みんな笑ったんだと思うけど、サイラスは馬鹿にされたと思ったみたいで、カーッと顔を真赤にした。

「お前はもう跡取りじゃねえ。
 俺は3男とはいえ侯爵家令息のままだからな。これまでは跡取りのお前に水をあけられていたが、これからはそうはいかねえ。」

「そうだぞ!サイラスさまは、いずれ王族にもお入りになられるくらいのお方だからな!
 お前なんかとは立場が違うのだ!」
 サイラスの手下の言葉に僕は首を傾げる。

「王族に入る?王女さまが降嫁なされるのではなくて?王族は男系がほとんどだよ?」
「え?」

「王女さまと結婚したって、王族の仲間入りにはならないし、万が一誕生するとしたって女王さまでしょ?
 サイラスは関係なくないかな?」

 それを聞かされて、サイラスもサイラスの手下も真っ赤になる。
「うるさい!たかが商人のくせに!俺とはもう関わりのない人間なんだからな!」

「うん、そうだね。僕も今は商人として、キャベンディッシュ侯爵家に出入りしてるんだよ。だからこんなことでもなければ、君に会う機会はもうなかったと思うよ。」

「──キャベンディッシュ侯爵家に出入り?
 卸商人のお抱え商人にでもなれたのか。
 お前にしちゃ、まあまあ出世してんじゃねえか。まあ、商人にしてはだけどな。」

 サイラスの言葉に、僕の方が下だという自信を取り戻したのか、再び手下たちも、サイラスとともにニヤニヤとしだす。

「あ、ううん、そうじゃなくて、僕自身が卸商人になったんだよ。」
「は?お前が卸商人?」

「アレックス、お前、卸商人、……なの?
 卸商人ってアレだぞ?貴族と大商人複数名に認められなきゃいけなくて、商人ギルドのランクがSじゃないとなれないんだぞ?」

 ヒックスさんが変な汗をダラダラかきながら、両手を空中で掴むみたいに、僕のほうに向けてきながらそう尋ねてくる。

「あ、うん。僕、商人ギルドでSランクだから。先日王室御用達をいただいた兼ね合いでね。会頭としての仕事があるから、それで週に2日しか来られないんだ。」

「は、はああああ!?」
 サイラスが叫んだ。
 みんなが急にザワザワしだした。

「Sランクってあれだろ……。
 冒険者ギルドも商人ギルドも、年数に応じて叙爵があるっていう……。」

「じゃ、じゃあ、アレックスは貴族候補?」
「そうなるのかな?まあ、今のところはいただけても、叙爵を受けるつもりはないんだけどね。叔父さんも平民のままだし。」

「ラウマンって、セオドア・ラウマン卿の甥っ子だろ、Sランク冒険者の。」
「なら叔父さんが叙爵を受けたら、すぐにでも貴族に戻れる立場じゃんか。」

「それに侯爵家令息と貴族の当主じゃ、男爵だって令息よりも上だよな……。」
「ならラウマンさんのが結局上じゃん。」

 みんなが再びクスクスしだして、それがサイラスの怒髪天を衝いたみたいだ。
「アレックスぅううう~!!」
 ちょ、耳が痛いよ!

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