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第3章
第368話 懐かしい顔と嫌な顔
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「トレイを取って、好きなものを自分で取って食べるシステムなんだよ。食べ終わったらあそこにトレイごと返すんだ。フォークとかはあそこから好きなものを取るんだよ。」
「へええええ~!初めて見るよ。
斬新なやり方だね!」
給仕の人がいないレストランは初めてだ。
「あっ、ラウマンさんだ!」
たぶん同じクラスなのだろう丸眼鏡の女生徒が、僕に気がついて指を指してくる。
この子も平民なんだろうな。貴族が初対面の他人を指さしたりなんて、絶対しないものね。ちょっと慣れないことをされて、僕がびっくりして固まっていると、
「ねえ!一緒に食べない?」
「あ、僕は……。」
「この子も一緒に、ね!」
恥ずかしそうに頬を染めて、上目遣いになっている、一房の三つ編みをたらした、肩までの茶色い髪の女の子の腕に手を回す。
そこに別の女の子たちが走って来て、
「あっ!ずるい!
私たちが誘おうと思ってたのに!」
「そうよ!抜け駆け禁止でしょ!?」
なにそれ、いつ決まったの?
「──ちょっと貴方がた、もう少し静かになさったらどうなの。いくらおしゃべりが禁止されていない食堂とはいえ、少し騒がしすぎるわ。あと走るのは禁止でしょう。」
それをピシャリとやり込めるような言い方で、1人の女生徒がいさめた。
「お久しぶりですわね、アレックスさま。
今は家名がお変わりになられたのね。」
「クロエ嬢!お久しぶりです!」
僕に近付いて来たのは、背中までの少しウエービーな灰色の髪の毛に茶色の目をした、クロエ・トンプソン子爵令嬢だった。
僕の元婚約者のオフィーリア嬢とも親しい女の子で、何度かパーティーやお茶会で会ったことがあるんだ、懐かしいなあ。
「はい、弟が後継者になることになりましたので。今はラウマンです。」
「姉から聞き及んでおりますわ。
いつも姉がお世話になっております。」
「……お姉さん、ですか?」
「はい、姉はオフィーリア嬢の専属侍女をやらせていただいておりますの。」
クロエ嬢がニッコリと微笑む。
あれ?今何かを思い出しかけたような。
「その御縁で、わたくしもオフィーリア嬢とは親しくさせていただいておりました。
姉はグレースと申します。」
「ああ!グレースさんの!はい、グレースさんとはよくお会いしますよ。」
どこかで見たようなほほ笑みだと思ったけど、グレースさんと似ていたからか。
ということは、僕の婚約破棄の経緯とかも知ってるっていうことだね。
「グレースさんの妹さんとは知りませんでした。おっしゃってくださればいいのに。」
「姉は仕事でオフィーリア嬢についておりましたし、仕事中の姉の話を、その横でわたくしがするわけにはいきませんもの。」
まあ、それもそうかあ。妹が優雅にお茶会やパーティーに参加してる横で、お姉さんは従者として働いているんだものね。
従者の仕事を下に見るわけではないけど、貴族としては、貴族の従者として働いている家族のことを、社交の場であんまり口にはしないよね。上位貴族ならやらないことだし。
「え……?ラウマンって、貴族なの?」
ヒックスさんが驚いた表情で僕を見る。
「元ね。今は違うよ?」
「なんか俺たちと違うなって思ってたぜ。
元とはいえ、お貴族さまかあ……。
言葉遣いも丁寧だし……。」
「今は平民だし、あんまり気にしないでよ。
それより、クロエ嬢もランチにお誘いしてもいいかな?久しぶりに話したいし。
──クロエ嬢、お誘いしても?」
「ええ、構いませんわ。
わたくしも姉の話が伺いたく存じます。
離れて暮らしておりますので、手紙のやりとりくらいしかありませんので。」
「そ……、そちらの方、が、ご迷惑でなければ……。」
緊張した様子でヒックスさんが言う。
「ラウマンさん!酷いです!
私たちが先に誘ったのに!」
「私たちだって誘いたかったのに!」
女生徒たちが抗議の声をあげる。
「えと、申し訳ありません、複数の方からお声がけをいただきましたが、僕は了承しておりませんので……。
今回は旧知の友人と友好を深めるつもりでおりますので、ご遠慮ください。」
「でしたら、その方もご一緒に!」
「みんなで食べたらいいと思います!」
「それいい!ナイスアイデア!」
「ええ……。」
平民の女の子って、グイグイくるなあ。
普段はオフィーリア嬢が一緒にいたからかもだけど、貴族の女の子は、こんな風にやたらと一緒にいようとはしないものだけど。
「でしたら私も!」
「ぜひ私も!」
「俺も話を聞かせてくれ!」
みんなに囲まれて、抜け出せないよ!クロエ嬢も困ったように、人垣の外で僕を見つめている。ヒックスさんも助けてくれない!
「おい、ちょっとどけよ。」
その時、みんなを強引に押しのけて、無理矢理人垣の内側に入って来た人がいた。
「お前……、なんでここに……。」
その人物は僕を見て、嫌そうに顔を歪めつつ、僕を睨んでいた。僕が平民になるきっかけを作った、オフィーリア嬢の従兄弟、サイラス・フォークナー侯爵令息だった。
────────────────────
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「へええええ~!初めて見るよ。
斬新なやり方だね!」
給仕の人がいないレストランは初めてだ。
「あっ、ラウマンさんだ!」
たぶん同じクラスなのだろう丸眼鏡の女生徒が、僕に気がついて指を指してくる。
この子も平民なんだろうな。貴族が初対面の他人を指さしたりなんて、絶対しないものね。ちょっと慣れないことをされて、僕がびっくりして固まっていると、
「ねえ!一緒に食べない?」
「あ、僕は……。」
「この子も一緒に、ね!」
恥ずかしそうに頬を染めて、上目遣いになっている、一房の三つ編みをたらした、肩までの茶色い髪の女の子の腕に手を回す。
そこに別の女の子たちが走って来て、
「あっ!ずるい!
私たちが誘おうと思ってたのに!」
「そうよ!抜け駆け禁止でしょ!?」
なにそれ、いつ決まったの?
「──ちょっと貴方がた、もう少し静かになさったらどうなの。いくらおしゃべりが禁止されていない食堂とはいえ、少し騒がしすぎるわ。あと走るのは禁止でしょう。」
それをピシャリとやり込めるような言い方で、1人の女生徒がいさめた。
「お久しぶりですわね、アレックスさま。
今は家名がお変わりになられたのね。」
「クロエ嬢!お久しぶりです!」
僕に近付いて来たのは、背中までの少しウエービーな灰色の髪の毛に茶色の目をした、クロエ・トンプソン子爵令嬢だった。
僕の元婚約者のオフィーリア嬢とも親しい女の子で、何度かパーティーやお茶会で会ったことがあるんだ、懐かしいなあ。
「はい、弟が後継者になることになりましたので。今はラウマンです。」
「姉から聞き及んでおりますわ。
いつも姉がお世話になっております。」
「……お姉さん、ですか?」
「はい、姉はオフィーリア嬢の専属侍女をやらせていただいておりますの。」
クロエ嬢がニッコリと微笑む。
あれ?今何かを思い出しかけたような。
「その御縁で、わたくしもオフィーリア嬢とは親しくさせていただいておりました。
姉はグレースと申します。」
「ああ!グレースさんの!はい、グレースさんとはよくお会いしますよ。」
どこかで見たようなほほ笑みだと思ったけど、グレースさんと似ていたからか。
ということは、僕の婚約破棄の経緯とかも知ってるっていうことだね。
「グレースさんの妹さんとは知りませんでした。おっしゃってくださればいいのに。」
「姉は仕事でオフィーリア嬢についておりましたし、仕事中の姉の話を、その横でわたくしがするわけにはいきませんもの。」
まあ、それもそうかあ。妹が優雅にお茶会やパーティーに参加してる横で、お姉さんは従者として働いているんだものね。
従者の仕事を下に見るわけではないけど、貴族としては、貴族の従者として働いている家族のことを、社交の場であんまり口にはしないよね。上位貴族ならやらないことだし。
「え……?ラウマンって、貴族なの?」
ヒックスさんが驚いた表情で僕を見る。
「元ね。今は違うよ?」
「なんか俺たちと違うなって思ってたぜ。
元とはいえ、お貴族さまかあ……。
言葉遣いも丁寧だし……。」
「今は平民だし、あんまり気にしないでよ。
それより、クロエ嬢もランチにお誘いしてもいいかな?久しぶりに話したいし。
──クロエ嬢、お誘いしても?」
「ええ、構いませんわ。
わたくしも姉の話が伺いたく存じます。
離れて暮らしておりますので、手紙のやりとりくらいしかありませんので。」
「そ……、そちらの方、が、ご迷惑でなければ……。」
緊張した様子でヒックスさんが言う。
「ラウマンさん!酷いです!
私たちが先に誘ったのに!」
「私たちだって誘いたかったのに!」
女生徒たちが抗議の声をあげる。
「えと、申し訳ありません、複数の方からお声がけをいただきましたが、僕は了承しておりませんので……。
今回は旧知の友人と友好を深めるつもりでおりますので、ご遠慮ください。」
「でしたら、その方もご一緒に!」
「みんなで食べたらいいと思います!」
「それいい!ナイスアイデア!」
「ええ……。」
平民の女の子って、グイグイくるなあ。
普段はオフィーリア嬢が一緒にいたからかもだけど、貴族の女の子は、こんな風にやたらと一緒にいようとはしないものだけど。
「でしたら私も!」
「ぜひ私も!」
「俺も話を聞かせてくれ!」
みんなに囲まれて、抜け出せないよ!クロエ嬢も困ったように、人垣の外で僕を見つめている。ヒックスさんも助けてくれない!
「おい、ちょっとどけよ。」
その時、みんなを強引に押しのけて、無理矢理人垣の内側に入って来た人がいた。
「お前……、なんでここに……。」
その人物は僕を見て、嫌そうに顔を歪めつつ、僕を睨んでいた。僕が平民になるきっかけを作った、オフィーリア嬢の従兄弟、サイラス・フォークナー侯爵令息だった。
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