上 下
295 / 486
第2章

第350話 奴隷からの開放

しおりを挟む
「えっ、奴隷の取り消し……ですか?」
 奴隷商人から呼び出されて首を傾げながら店に行くと、ザックスさんが奴隷でなくなったという事実を、僕は突然知らされた。

 一緒に呼び出されたザックスさんも、混乱したように僕の顔を見てくる。僕はザックスさんと顔を見合わせた。

「はい。ザックス・ヴァーレンさんは犯罪奴隷でしたが、犯罪歴がこのたび間違いであったと正式に認められました。」

「犯罪奴隷でない……?今更……。」
 苦しめられた期間が長すぎて、ザックスはんはギュッと拳を握りしめてうつむいた。

「犯罪者でないのであれば、そもそも奴隷ではない、ということになりました。」
 なんか釈然としないけど……。

「その為国に支払った買い取り金額は、我々を通じて返却され、奴隷商人からザックス・ヴァーレンさんに全額返金となります。」

 そう言って、奴隷商人はお金の入った布袋をザックスさんに差し出した。僕がザックスさんを購入した金額は小白金貨2枚だったけど、奴隷商人が国からザックスさんを購入した金額が小白金貨1枚だったので、ザックスさんには小白金貨1枚が手渡された。

 なるほど……原価が半分なんだね。
 いや、ザックスさんだからなのかな?
 見た目でお高く売れそうということで。

「それとこちらは買い主さまへの、国からの補償金となります。おおさめください。
 間違って奴隷を購入し、損失された金額の補填ということになります。」

 そう言って、僕にも小白金貨2枚が差し戻されたよ。これって、逆に儲かっちゃったってことかな?
 ザックスさんも大金を手渡されたしね。

 彼が奪われた、国1番の料理人の称号も、彼の作り上げた店も、奴隷として過ごした年月も、その金額に見合うものとは僕には思えなかったけれど、それでもかなりの大金だ。

 ラナおばさんいわく、平民は月に中金貨1枚稼げればいいほうだと言うから、その100倍だと考えれば、多少は彼の失った年月と財産を埋めるものになるかも知れないね。

「今までのことを考えれば、良かったとは言えないかも知れませんけど、これで晴れてザックスさんは自由の身です。」
 ザックスさんがハッと顔を上げる。

「このまま僕の店に勤めてもいいですし、お国に帰られてまた店をやることだって出来ます。ザックスさんはどうされたいですか?」

「俺はもう、あんな国には帰りたくありませんよ。この国は食べたことのない料理を忌避しない。好奇心旺盛で、俺の料理を嬉しそうに食べてくれる人ばかりだ。」

 まあ、そうかもね。僕も生魚と聞いてだいじょうぶかな?と一瞬思ったけど、ザックスさんに自信たっぷりに出されると、あ、多分だいじょうぶなんだな、って思ったもの。

 そもそも生魚を食べる習慣がないのは、リシャーラ王国も同じだけど、魚自体がそんなに入ってこないから、食べ方が決まっているものだっていう認識がないんだよね。

 肉と同じで焼いて食べることが多いから、生で食べられないものとふんわり思っていたけど、食べられるんですよ、と言われれば、ああそうなんですね、って思うというか。

 そこらへんはおおらかな国民性かもねえ、リシャーラ王国って。
 新しもの好き、新技術大好き、なところがあるから、魔道具工房もたくさんあるしね。

 まあ、鍛冶師大国のナムチャベト王国ほどではないけど、他の国に比べたら、平民は変化を好む傾向にあると感じるかな。貴族は他の国同様、伝統を好む性質だけど。

「それに俺を救い出してくれたあんたに、恩もまだ返せていない。あんたが嫌だと言うまで、俺をあんたの店で働かせてくれ。」
 ザックスさんが胸に手をあてて言う。

「はい、もちろんです。すぐにでも国に帰りたいと言われたら、どうしようかと思いました。でも、長年慣れ親しんだ土地でしょうし、無理も言えなくて……。」

 でも、無理に引き止めることも出来ない。ザックスさんはもう自由なんだから。故郷に帰りたいなんて、当然の人としての感情だよ。……僕だってほんとは帰りたい。

「家族もいないし、犯罪奴隷にされたことで生まれ故郷に愛着もない。それに俺はあんたのそばで働きたい。この国に骨を埋めるつもりだ。これからもよろしく頼むよ。」

「はい、こちらそ。」
 良かった。ああは言ったけど、店も軌道に乗りだしたところだし、実際いなくなられたら困っちゃうからね。

 けど、恩かあ……。僕はスキルが必要でザックスさんを買っただけだから、そこまで感謝されると、ちょっとこそばゆいな。早くザックスさんが店を持てるよう頑張ろう。

 今までと何も変わらない。そう思っていたのに、突然僕のところに王宮の使者が尋ねてきたんだ。レグリオ王国が、ザックスさんを返せと言ってきているという書状とともに。

────────────────────

ちなみに犯罪奴隷は、国にもよりますが、基本国、または領主が売りに出します。

購入した人間がいた場合、それを被害の補填に当てたりもします。
ザックスさんは貴族に対する犯罪だった為、国の売値が高かったのですね。

購入する人が誰もいなかった場合、鉱山などでその金額相当分まで無償で仕事をさせられます。その間にかかる衣食住は、当然働いた分から差っ引かれます。

元冒険者などの動ける人間、見た目がいい人間などは、奴隷商人に買われて売りに出される為、鉱山よりもいいところに行ける場合もあれば、より酷い場所に行かされることもあります。

ザックスさんの奴隷商人の売り出し金額が高かったのは、完全に貴族ウケする見た目の為ですね。顔が良かったのももちろんですが、解体職人もやっているので、ザックスさんはガタイがいいのです。

主人公が奴隷商人に支払った金額はそのまま奴隷商人の懐へ。
奴隷商人が国に支払った購入代金が、返却されザックスさんへ。
それとは別に国から主人公に、奴隷商人に支払った額と同等の金額が支払われ、損をしたのはレグリオ王国だけという図式です。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。