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第2章
第349話 加護の得られる店の秘密・その4
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「ラウマン卿の甥御殿である、アレックス・ラウマンという人物は、若くして卸商人の立場を得たようだ。彼は非常に良質の塩を手に入れるルートを持っているらしい。」
アーロン・キャベンディッシュ侯爵は3たび目を見開いた。塩を手に入れるルートは恐らく〈海〉のスキルによるものであろうが、卸商人になったという話は初耳だった。
貴族の屋敷にも出入りが可能で、他の商人や貴族、はたまた商人ギルドからの推薦も必要で、始めたての商人が簡単になれるものではない。すべての商人の目標と言ってもいいくらい、なることが難しいものと聞く。
それを、我が息子が卸商人になった……?
アーロン・キャベンディッシュ侯爵はにわかには信じられないでいた。
貴族の習わしで弟とは他人の関係を築いていることから、自身とのつながりを知られていないらしく、誰もアーロン・キャベンディッシュ侯爵に触れてこようとはしなかった。
「良質の塩、でございますか。」
「なんでも神の塩と呼ばれるものだそうだ。
神の塩はすべての塩の中で、最も価値の高いものだ。そうであったな?」
国王、エディンシウム・ラハル・リシャーラは、魔塔の賢者、リュミエール・ラウズブラス男爵を振り返って確認する。
「はい。神の塩がもたらされれば、通常の塩など、むしろ神の塩と引き換えに、大量に手に入ることでしょう。そのものに栄養価が豊富で、美味なるものとされています。」
大臣たちは元平民のリュミエール・ラウズブラス男爵が、国王に頼りにされていることに、少し気に入らなげな目線を向ける。
「それに、ザックス・ヴァーレン氏は、水魔法の新たな使い方を発見した功労者です。
魔塔直々に功績を認め、その使用方法の権利を保持するとしています。
薬師ギルド、錬金術師ギルドでも、その功績から客員になっているようですが、──それは魔塔とて同じこと。
魔塔の賢者の1人として、名を連ねるに等しい扱いをしているのです。
魔塔の賢者は不可侵領域。レグリオ王国があまりに強引な真似をして連れ戻し、ヴァーレン氏の権利を阻害するようであれば、魔塔も黙ってはおりますまい。」
「魔塔が介入してくると?」
「その可能性は大いにあるかと。」
宰相、マーシャル・エリンクス公爵の言葉に、ラウズブラス男爵がうなずいた。
「──リシャーラ王国が断っただと!?」
レグリオ王国国王にとっては青天の霹靂だった。友好国かつ、自国の塩を生命線としている国だ。よもや引き渡しを断るとは。
「……なれば塩を止める他ないであろうな。
一定数を引き渡す条約を結んではいるが、我が国の重要人物たる人間をさらった国ともなれば、その限りではない。
我が国の本気を知らせる他あるまいて。」
レグリオ王国は、静かなる塩戦争を、リシャーラ王国相手にしかけることを決定した。
だがすぐに音を上げると思われたリシャーラ王国側は、むしろ今後の塩の取引を一切拒絶して来たのだ。
「どういうことだ!?リシャーラ王国側から断ってくるなどと……。他の国より仕入れる算段がついたということか?」
「そうであれば、こちらの行っていることはとんでもない悪手です。
塩づくりを生業としている者たちから、塩が売れないと反発が起きております。」
「リシャーラ王国に売るものとして作っていた分は、他国に売る他ないであろうな。」
産業大臣がその言葉に首を振る。
「それが……。他国では現在、リシャーラ王国産の塩が人気の為、買い手が少なくなっているのです。それこそ今まで塩を購入していた他の国までもが購入を控えております。」
「リシャーラ王国産の塩だと!?あの国は海のない国だぞ?岩塩でも取れたというのか?
そのような話は聞かないが?」
「岩塩ではないようです。なんでも神の塩と呼ばれる質の高い塩を販売しているようなのです。神の塩は王侯貴族に人気の、栄養が豊富でそれそのものが美味な塩とされており、通常の塩と引き換えに販売されていると。」
「それにより、他国から大量に塩を購入しているということか!?」
「そのようです。」
「リシャーラ王国がどうやって……。」
「どうも、ザックス・ヴァーレンを奴隷として購入した主が、神の塩を手に入れるルートを持った、卸商人とのことです。」
「なんだと!?
だからあんなにもリシャーラ王国は強気なのか。神の塩を手に入れられる人間が、ザックス・ヴァーレンの引き渡しに拒絶をし、大量に神の塩を手配したということか!」
「それどころか、この先我が国では当分塩が売れぬことでしょう……。今まで我が国との取引があるからこそ、リシャーラ王国に塩を売ることを拒絶してきた国々が神の塩を手に入れる為に、こぞって塩をリシャーラ王国に渡しております。またリシャーラ王国を敵に回すことを恐れて、今までの取引先が、すべて他の国より塩を購入している状態です。」
「な、なんと……。」
「ザックス・ヴァーレンの雇い主に関する、詳しい情報を持たぬまま、塩戦争をしかけた我々の負けです、陛下。我が国も頭を下げて塩を買ってもらわねば、かなりの数の塩工房が路頭に迷うことでしょう。」
「陛下、ご決断を。」
国王、アイビス・ドゥ・マッカランはうなだれ、正式にザックス・ヴァーレンの確保は諦める旨を、大臣たちに告げたのであった。
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アーロン・キャベンディッシュ侯爵は3たび目を見開いた。塩を手に入れるルートは恐らく〈海〉のスキルによるものであろうが、卸商人になったという話は初耳だった。
貴族の屋敷にも出入りが可能で、他の商人や貴族、はたまた商人ギルドからの推薦も必要で、始めたての商人が簡単になれるものではない。すべての商人の目標と言ってもいいくらい、なることが難しいものと聞く。
それを、我が息子が卸商人になった……?
アーロン・キャベンディッシュ侯爵はにわかには信じられないでいた。
貴族の習わしで弟とは他人の関係を築いていることから、自身とのつながりを知られていないらしく、誰もアーロン・キャベンディッシュ侯爵に触れてこようとはしなかった。
「良質の塩、でございますか。」
「なんでも神の塩と呼ばれるものだそうだ。
神の塩はすべての塩の中で、最も価値の高いものだ。そうであったな?」
国王、エディンシウム・ラハル・リシャーラは、魔塔の賢者、リュミエール・ラウズブラス男爵を振り返って確認する。
「はい。神の塩がもたらされれば、通常の塩など、むしろ神の塩と引き換えに、大量に手に入ることでしょう。そのものに栄養価が豊富で、美味なるものとされています。」
大臣たちは元平民のリュミエール・ラウズブラス男爵が、国王に頼りにされていることに、少し気に入らなげな目線を向ける。
「それに、ザックス・ヴァーレン氏は、水魔法の新たな使い方を発見した功労者です。
魔塔直々に功績を認め、その使用方法の権利を保持するとしています。
薬師ギルド、錬金術師ギルドでも、その功績から客員になっているようですが、──それは魔塔とて同じこと。
魔塔の賢者の1人として、名を連ねるに等しい扱いをしているのです。
魔塔の賢者は不可侵領域。レグリオ王国があまりに強引な真似をして連れ戻し、ヴァーレン氏の権利を阻害するようであれば、魔塔も黙ってはおりますまい。」
「魔塔が介入してくると?」
「その可能性は大いにあるかと。」
宰相、マーシャル・エリンクス公爵の言葉に、ラウズブラス男爵がうなずいた。
「──リシャーラ王国が断っただと!?」
レグリオ王国国王にとっては青天の霹靂だった。友好国かつ、自国の塩を生命線としている国だ。よもや引き渡しを断るとは。
「……なれば塩を止める他ないであろうな。
一定数を引き渡す条約を結んではいるが、我が国の重要人物たる人間をさらった国ともなれば、その限りではない。
我が国の本気を知らせる他あるまいて。」
レグリオ王国は、静かなる塩戦争を、リシャーラ王国相手にしかけることを決定した。
だがすぐに音を上げると思われたリシャーラ王国側は、むしろ今後の塩の取引を一切拒絶して来たのだ。
「どういうことだ!?リシャーラ王国側から断ってくるなどと……。他の国より仕入れる算段がついたということか?」
「そうであれば、こちらの行っていることはとんでもない悪手です。
塩づくりを生業としている者たちから、塩が売れないと反発が起きております。」
「リシャーラ王国に売るものとして作っていた分は、他国に売る他ないであろうな。」
産業大臣がその言葉に首を振る。
「それが……。他国では現在、リシャーラ王国産の塩が人気の為、買い手が少なくなっているのです。それこそ今まで塩を購入していた他の国までもが購入を控えております。」
「リシャーラ王国産の塩だと!?あの国は海のない国だぞ?岩塩でも取れたというのか?
そのような話は聞かないが?」
「岩塩ではないようです。なんでも神の塩と呼ばれる質の高い塩を販売しているようなのです。神の塩は王侯貴族に人気の、栄養が豊富でそれそのものが美味な塩とされており、通常の塩と引き換えに販売されていると。」
「それにより、他国から大量に塩を購入しているということか!?」
「そのようです。」
「リシャーラ王国がどうやって……。」
「どうも、ザックス・ヴァーレンを奴隷として購入した主が、神の塩を手に入れるルートを持った、卸商人とのことです。」
「なんだと!?
だからあんなにもリシャーラ王国は強気なのか。神の塩を手に入れられる人間が、ザックス・ヴァーレンの引き渡しに拒絶をし、大量に神の塩を手配したということか!」
「それどころか、この先我が国では当分塩が売れぬことでしょう……。今まで我が国との取引があるからこそ、リシャーラ王国に塩を売ることを拒絶してきた国々が神の塩を手に入れる為に、こぞって塩をリシャーラ王国に渡しております。またリシャーラ王国を敵に回すことを恐れて、今までの取引先が、すべて他の国より塩を購入している状態です。」
「な、なんと……。」
「ザックス・ヴァーレンの雇い主に関する、詳しい情報を持たぬまま、塩戦争をしかけた我々の負けです、陛下。我が国も頭を下げて塩を買ってもらわねば、かなりの数の塩工房が路頭に迷うことでしょう。」
「陛下、ご決断を。」
国王、アイビス・ドゥ・マッカランはうなだれ、正式にザックス・ヴァーレンの確保は諦める旨を、大臣たちに告げたのであった。
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