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第2章

第297話 “選ばれしもの”の訪問・その3

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 従者たちが“選ばれしもの”を先導しつつ、王宮内を進んでいく。彼らもまた誇らしげであった。一部の貴族出身の従者だけが、それを苦々しげに見つめている。

「“選ばれしもの”の皆さま方がお見えになりました。」
「通せ。」
 幼くも凛々しい声がそう告げる。

 うやうやしく開かれた扉の向こうに、幼い国王と傍らに白いドレス姿の少女がいた。少し離れたところに国王の従者とは思えない、少し粗野だが正装した男女の双子がいる。

「エザリス王国の太陽、ゴザ・ケイオス・バイツウェル3世さま、ご機嫌麗しゅう。
 アジャリべさまの祝福がありますよう。」

 “選ばれしもの”が全員、膝を軽く折って頭を垂れる。不可侵領域の“選ばれしもの”とはいえ、王族の前では礼儀を失してはならないことになっている。

 だが膝を折って頭を垂れてなお、“選ばれしもの”たちの荘厳な雰囲気は失われることはなかった。祝福を授けられる唯一の存在。それが全身からうかがえるかのようだった。

「うむ、おもてをあげよ。
 して、こたびの訪問理由はなんなるか。」
「敬愛なる王に、“選ばれしもの”より祝福を授けに参りました。」

「また、我々は、この地が託宣の地であると確信しております。」

「変動の時はきたれり。白は黒く染まるとも明星は変わらず。」

「黒は穢れとともに白く流れる。形なきものは形あるものへ。」

「ななつをすべしものが、恒久への道を指し示すであろう。」

「短期間に3つもの託宣が神よりもたらされました。我らはこれらがすべて、このエザリス王国をさしていると考えております。」

「なんと、3つもか。」
 ゴザ・ケイオス・バイツウェル3世が驚愕して目を見開いている。傍らの少女も、男女の双子も、この場にいる皆が驚いている。

 そのうちの1つ、ななつをすべしものに関してだけは、エザリス王国とは異なるが、3つも立て続けに託宣があったことにより、関連付けて考えるのは致し方ないことだろう。

「我らは託宣を受けるとほぼ同時に、全員がこの地より聖なる波動を感じました。」
「そしてこの地に近付くにつれ、この国全体が聖域であることを理解したのです。」

 誰ともなく、おお……、という感嘆の声が漏れる。ゴザ・ケイオス・バイツウェル3世だけが、専属占い師の占いの結果が、“選ばれしもの”に保証されたことにうなずいていた。

「このようなことは前代未聞です。我々はこの地に“ななつをすべしもの”がいると考えております。どなたか心当たりのある、お強い方はいらっしゃいませんでしょうか。」

「うむ。“選ばれしもの”が訪問してくる理由は、祝福の他は託宣の勇者もしくは、聖女を探しにくるものと決まっておる。」

 だが国交を断絶された我が国に、祝福に来るとは考えにくい、何かしらの託宣があったということであろうと考えていた、とゴザ・ケイオス・バイツウェル3世は告げた。

「この国を祝福に来たと言うのも、また本当なのです。聖なる波動を感じる土地が、忌み地でなどあろう筈もありません。」

「我ら“選ばれしもの”が7人全員訪問することで、この地が特別な存在であることを、各国に認識させる為に参ったのです。」

「おお。おお。それはまことに素晴らしいことだ。国民は今日という日を待っていた。
 この地が再び日の目を浴びることを。
 今日はまことに良き日だ。」

 そう言ったゴザ・ケイオス・バイツウェル3世は、男女の双子と、傍らの白いドレス姿の少女を紹介してきた。

「我が国でもっとも強い賢者かつ占い師と、弓使いと拳闘士だ。託宣の存在として可能性があるのは、この3人だな。」

「既にお心づもりいただいておりましたか。
 非常にありがたきこと。早速彼らがどのような存在であるのか、判定に移らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろん構わぬ。」
「ではまず、そちらの方からお願いいたします。我らの前にいらしてください。」

 そう言って目線を合わせたのは、白いドレス姿の少女だった。オズオズと、だが誇らしげでもある程度で、壇上から降りて“選ばれしもの”のほうへと近付いて行った。

 “選ばれしもの”の1人、最年長のオーディアが、両手の4本の指と親指で、三角を作るようにして、それを少女の額に向ける。

「……あなたさまは、賢者であらせられるのですね。賢神にはまだ遠く、ですが近くもある存在です。これはどうしたことでしょう。」
 オーディアが首を傾げる。

「英雄であれば、はじめから力ある者。
 ですがそれは我らの前にその身を現した時点での話です。賢神に近付こうとしている過程ということでしょうか。」
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