スキル【海】ってなんですか？ 使えないと思っていたユニークスキルは、海にも他人のアイテムボックスにも入れる規格外の力でした。

第２章

第287話 店舗拡大

「アレックス！」
「アレックスさん！」
　僕はアタモの町の魚屋の様子を見に顔を出した。ルーベンさんたちが駆け寄って来る。

　僕の魚屋さんは、今はラナおばさんの息子さんである、ルーベンさんとコナーさんに任せてあるからね。来るのは久し振りなんだ。

「アレックス……。」
　クイッとズボンの裾を引っ張られて下を見ると、ルーク君が嬉しそうにこっちを見上げている。僕はルーク君の頭を撫でた。

「久し振りだね、ルーク君。」
「俺！頑張ったんだぞ！たくさん売った！」
「いっぱい貢献してくれたんだね、本当にありがとう。これからもよろしくね。」

　にっこり微笑むと、ルーク君は鼻の下を人差し指でこすりながら、へへへ、と笑った。
　ミアちゃんにもお礼を言った。

「しばらく様子を見に来ていなかったので、立ち寄ってみました。店はどうですか？」
「はい、預かった商品は順調にさばけています。売上の管理はベックさん頼りですが。」

　ベック・ロイズさんは、商人ギルドから派遣して貰った人で、売上の管理や商人ギルドへの申請諸々を任せている店長さんだ。

　そういうことには詳しくないから、人を頼むことにしたんだけど、さすが専門家だけあって頼りになるよね。ルーベンさんたちのことも商人として育成してくれてるみたいだ。

「ありがとうございます、ベックさん。」
「彼にもかなり助けて貰っていますよ。私がいなくてもいいくらいだ。さすがレグリオ王国の元一流店の経営者なだけあります。」

「いや、俺は今はただの奴隷ですので。」
　ザックスさんが照れている。ザックスさんはもともと自分でも店をやっていたんだものね。申請なんかは得意なんだろうな。

　でも僕としては、店のことに集中して欲しかったから、そのへんのことは他の人に任せたかったんだよね。もともと料理人だから、いずれは料理もして欲しかったし。

「アレックスが来てるんだって？」
「ラナおばさん！お久しぶりです！肉の焼串屋のほうはどうですか？」

「相変わらず稼がせて貰ってるよ！あんたの店も流行ってるみたいじゃないか！
　うちの息子たちは役に立ってるかい？」
　ラナおばさんがにっこり笑う。

「はい、しっかり店を守っていただいたみたいです。……ふぁ……あ。」
「なんだい？ずいぶんと眠そうだね？」
「あ、いえ、ちょっと、まあ……。」

　昨日、寝る時に、レンジアとキリカが、ベッドに潜り込んで来たんだよね。そこにミルドレッドさんが飛び込んで来て、もう寝るどころじゃなかったというか……。

　僕がレンジアに詳細を話したことで、レンジアも正式に英雄候補になったから、キリカをレンジアに紹介することにしたんだよね。

　レンジアは僕に似たキリカと僕を見比べてしばらく無表情にキョトンとしていた。今まで僕に妹なんていなかったことは、王家の影であるレンジアには筒抜けだからね。

　まあ、妹だと名乗るキリカに、隠し子だとでも思ったのか、とりあえず納得したみたいだった。そこで２人が妙に意気投合したというか、キリカがアドバイスを始めたんだ。

「人は近くにいる存在に親近感を覚えます。なので近くにいるレンジアさんは有利です。オニイチャンは接触に弱いですから、これからは毎晩体をくっつけて眠りましょう。」

　コクコクとうなずきながら、
「アレックスさま、接触に弱い。理解。」
　と真剣に言っているレンジア。

　僕の狭いベッドの両サイドに、僕の左にキリカ、右にレンジアが、それぞれ僕の腕を胸に抱いて、横になっている。

「レンジアに僕と接触させたいんだとして、どうしてキリカまで僕と寝るの！？
　キリカは精神をつなげてるだけなんだし、人造人間と意識を切ればいいんじゃ？」

　この家にキリカの部屋までは用意出来ないと叔父さんが言ったら、本体は神さまの国にあるから、寝る時は意識を人造人間から切れば問題ありません、と言ったのはキリカだ。

「だって今まで１度も兄妹として添い寝したことがないんですよ。私だって一緒に寝てもいいじゃないですか。オニイチャンは可愛い妹と添い寝したくないんですか？」

「ちっちゃい頃ならね！？ありえるけど！
　今更兄妹で添い寝するような年齢じゃないでしょ。キリカは大っきいんだし……。」

「私は生まれたばかりで、見た目通りの年齢じゃありませんから。お母さまが私を作ったのは、神の世界に戻ってからですよ？
　実際には小さいから問題ありません。」

「そ、そうなの？じゃあ問題……。」
　ムニッ。
「おおありだよ！これじゃ寝られない！」

「なんじゃ？楽しそうじゃの！わらわをのけ者にするでない！の、じゃー！！」
　無理やりドアを壊して入って来たミルドレッドさんが、笑顔でベッドにダイブする。

　そんなこんなで、ちっとも寝られなかったんだ……。おかげで眠い……。今日も昨日と同じだったらどうしよう。

────────────────────

久々に戦闘しない商人ターン。