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第2章
第182話 ペルトン工房の慌ただしい1日・その1
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「──これは本当のことなのか?」
ロイド・ペルトンは、娘婿である元王宮所属錬金術師、ハミルトン・レックスの検査結果をざっと眺めた後で顔を上げた。
「はい。もちろん、俺の腕を信じていただけるなら、の話ですが……。」
ハミルトンは控えめにそう言った。
「もちろん信じているさ。俺は何より、俺の娘の見る目を信じている。俺がここを継がせるのに出した条件はたった1つ。俺より腕の良い錬金術師を連れて来い、だ。」
ペルトン工房長は、娘婿のかたわらの娘をチラリと見る。娘のカリーナは、誇らしげに頬を染めて目線を下に落としていた。
「小さい頃から仕込んだ自慢の娘だ。男を見る目も、職人を見る目も確かだと自負しているよ。そして娘は確かにその条件を果たしてくれた。お前は最高の錬金術師さ。」
「ありがとうございます。」
「信じちゃいる。信じちゃいるが……。それでもにわかには信じがたい数字だな。」
「これを持って来たという錬金術師は、王宮所属の錬金術師に匹敵する、いえ、それ以上の天才です。俺がまだ王宮にいた頃に噂程度に聞いた流しの錬金術師かも知れません。」
「伝説の錬金術師の仕事、か。
あのお嬢ちゃんがねえ……。この素材サンプルの水自体も恐ろしいステータスだ。」
「お嬢ちゃん?若い女の子なんですか?」
「ああ。まだ成人したてってとこだろうな。
どう見ても20代ですらなかったよ。」
「ならさすがにありえないですね、俺がその噂を聞いたのは3年前のことですし。」
「その噂の流しの錬金術師とやらじゃなかったとしても、あのお嬢ちゃんは天才だ。
おそらくはお前以上のな。」
「はい……。それは間違いはないかと。」
「しかもコイツは仮で、実際工房が稼働するまでに、改良したもっと凄いやつを持ってまいりますわ!だとよ。末恐ろしいぜ。」
「それはまた……、強気ですね。」
「だが俺は、あのお嬢ちゃんなら出来ると思っている。コイツを全支工房で、月に10万作りたい。──出来るか?」
最後の言葉は統括部長である、娘のカリーナに向けたものだった。親のひいき目ではなく、じゅうぶんにその役目を果たしている。
「はい、あれから例の少年の意見を参考に、全工程スケジュールを組み立て直したので、多少作り始めた当初は残業続きになると思いますが、おそらく問題ないかと思います。」
ペルトン工房は、国内では数少ない、消耗品を加工する大手工房だ。国内で3万人を越える従業員を抱えている。
本店にしているアルムナイだけでも300人からの職人が所属しており、工房としても大手だが、消耗品工房としては最大手だ。
その全支工房で化粧品と髪の毛の溶剤を作ろうというのだ。特定の日数はそのレーンのみになるであろうし、人数の少ない工房であれば、他を差し込む隙がないかも知れない。
だが、今までやっている仕事を調整して、それが可能になったとカリーナ統括部長は言った。ペルトン工房長は、その答えにじゅうぶんに満足してうなずいた。
「分かった、それで行こう。」
ペルトン工房長はすぐに決断した。それはこの仕事の難易度を正しく認識しているからで、現場と一致しているなら問題はない。
この商品は確実に売れるだろう。後から急遽スケジュールを組み直すのは難しい。万が一売れなければ在庫を買い取る契約をしてもいい。それくらい確実に注文が来る。
依頼人の錬金術師は、外にレシピが流出しないよう、情報秘匿の魔法を使った契約を望んでいる。それを叶える為には、千ロットではこちらのリスクが大き過ぎる。
産業スパイらしき人間は、ペルトン工房にもよく潜り込んで来る。ペルトン工房でしか作れない契約を結んでいる製品も多いだけに尚更だ。守ってやりたい。この知的財産を。
統括部長のカリーナ、そして技術部長のハミルトンが、それを見て互いに頷きあう。
ペルトン工房長が依頼人に、10万なら引き受けると話をしに行った。
依頼人がそれを了承し、こうしてついに、ペルトン工房長主導による新事業、各支工房への、魔力を秘めた水を使った、化粧品作成の正式通達が為されたのだった。
一気に化粧品の量産体制を整える為、現時点で仕掛り中の他の製品を、予定より早く仕上げる必要があり、現場は騒然としていた。
班長が作業開始の指示を飛ばす。次の工程に移る為、素材を運び出す者、途中まで作業を行い次に回す者、次の作業の道具を整える者と、工房内は作業員が走り回っている。
「……当分残業だな。」
「まあでも、デカい仕事が来たからな!
そいつを順調に回せれば、臨時で特別手当が出るって話だぜ!頑張らねえとな!」
「──これは本当のことなのか?」
ロイド・ペルトンは、娘婿である元王宮所属錬金術師、ハミルトン・レックスの検査結果をざっと眺めた後で顔を上げた。
「はい。もちろん、俺の腕を信じていただけるなら、の話ですが……。」
ハミルトンは控えめにそう言った。
「もちろん信じているさ。俺は何より、俺の娘の見る目を信じている。俺がここを継がせるのに出した条件はたった1つ。俺より腕の良い錬金術師を連れて来い、だ。」
ペルトン工房長は、娘婿のかたわらの娘をチラリと見る。娘のカリーナは、誇らしげに頬を染めて目線を下に落としていた。
「小さい頃から仕込んだ自慢の娘だ。男を見る目も、職人を見る目も確かだと自負しているよ。そして娘は確かにその条件を果たしてくれた。お前は最高の錬金術師さ。」
「ありがとうございます。」
「信じちゃいる。信じちゃいるが……。それでもにわかには信じがたい数字だな。」
「これを持って来たという錬金術師は、王宮所属の錬金術師に匹敵する、いえ、それ以上の天才です。俺がまだ王宮にいた頃に噂程度に聞いた流しの錬金術師かも知れません。」
「伝説の錬金術師の仕事、か。
あのお嬢ちゃんがねえ……。この素材サンプルの水自体も恐ろしいステータスだ。」
「お嬢ちゃん?若い女の子なんですか?」
「ああ。まだ成人したてってとこだろうな。
どう見ても20代ですらなかったよ。」
「ならさすがにありえないですね、俺がその噂を聞いたのは3年前のことですし。」
「その噂の流しの錬金術師とやらじゃなかったとしても、あのお嬢ちゃんは天才だ。
おそらくはお前以上のな。」
「はい……。それは間違いはないかと。」
「しかもコイツは仮で、実際工房が稼働するまでに、改良したもっと凄いやつを持ってまいりますわ!だとよ。末恐ろしいぜ。」
「それはまた……、強気ですね。」
「だが俺は、あのお嬢ちゃんなら出来ると思っている。コイツを全支工房で、月に10万作りたい。──出来るか?」
最後の言葉は統括部長である、娘のカリーナに向けたものだった。親のひいき目ではなく、じゅうぶんにその役目を果たしている。
「はい、あれから例の少年の意見を参考に、全工程スケジュールを組み立て直したので、多少作り始めた当初は残業続きになると思いますが、おそらく問題ないかと思います。」
ペルトン工房は、国内では数少ない、消耗品を加工する大手工房だ。国内で3万人を越える従業員を抱えている。
本店にしているアルムナイだけでも300人からの職人が所属しており、工房としても大手だが、消耗品工房としては最大手だ。
その全支工房で化粧品と髪の毛の溶剤を作ろうというのだ。特定の日数はそのレーンのみになるであろうし、人数の少ない工房であれば、他を差し込む隙がないかも知れない。
だが、今までやっている仕事を調整して、それが可能になったとカリーナ統括部長は言った。ペルトン工房長は、その答えにじゅうぶんに満足してうなずいた。
「分かった、それで行こう。」
ペルトン工房長はすぐに決断した。それはこの仕事の難易度を正しく認識しているからで、現場と一致しているなら問題はない。
この商品は確実に売れるだろう。後から急遽スケジュールを組み直すのは難しい。万が一売れなければ在庫を買い取る契約をしてもいい。それくらい確実に注文が来る。
依頼人の錬金術師は、外にレシピが流出しないよう、情報秘匿の魔法を使った契約を望んでいる。それを叶える為には、千ロットではこちらのリスクが大き過ぎる。
産業スパイらしき人間は、ペルトン工房にもよく潜り込んで来る。ペルトン工房でしか作れない契約を結んでいる製品も多いだけに尚更だ。守ってやりたい。この知的財産を。
統括部長のカリーナ、そして技術部長のハミルトンが、それを見て互いに頷きあう。
ペルトン工房長が依頼人に、10万なら引き受けると話をしに行った。
依頼人がそれを了承し、こうしてついに、ペルトン工房長主導による新事業、各支工房への、魔力を秘めた水を使った、化粧品作成の正式通達が為されたのだった。
一気に化粧品の量産体制を整える為、現時点で仕掛り中の他の製品を、予定より早く仕上げる必要があり、現場は騒然としていた。
班長が作業開始の指示を飛ばす。次の工程に移る為、素材を運び出す者、途中まで作業を行い次に回す者、次の作業の道具を整える者と、工房内は作業員が走り回っている。
「……当分残業だな。」
「まあでも、デカい仕事が来たからな!
そいつを順調に回せれば、臨時で特別手当が出るって話だぜ!頑張らねえとな!」
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