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第1章
第134話 レンジアの消えた記憶
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おまけにスキルでレグリオ王国に移動したなんて、結構な特筆事項だと思うんだけど。
だけどレンジアは、船?と不思議そうな声で僕に聞いてくる。どうしたんだろう?
「……気付いたらここにいた。
その間のことは覚えてない。」
「どういうこと?」
「なぜか頭が真っ白になった。
アレックスさまを救った気がする。
でもそれがニナナイダンジョンの中だったのかすら、よく分からない。」
なにか特殊な攻撃を受けたってこと?
記憶が失われるほどの!?
ひょっとしてレンジアは僕を救うために、クラーケンの攻撃を受けていたのかな?
だとしたら僕のせいだ。
「レンジア、頭や体に怪我はない?」
「ない。」
「頭が真っ白になってから、変わったことやおかしく感じることはないかな?」
「ある。」
「それってどんなこと!?」
「アレックスさまを見ていると、時々頭が真っ白になる。」
「──え。」
「息苦しくて、なのにアレックスさまと話したくなる。たくさん関わりたくなる。
だけどそれをすると頭が真っ白になる。」
そ、それってどういう状態なんだろうか。
なんかの呪いとか?
クラーケンに呪いをかけられたってこと?
「ずっと確かめたいことがある。」
そう聞こえて、少ししたら、
──ドサッ。
「わっ!?」
突然レンジアが、ベッドの上の僕に覆いかぶさってきた。まるで天井から降ってきたみたいに感じたけど、当然そんなこと出来るわけないから、ドアから入って来たんだろう。
Sランク冒険者の叔父さんにも、気付かれないくらい気配を消せるレンジアに、そっと近付かれたら、僕にはまるでわからないし。
僕の両脇に腕をついて、上からじっと僕を見つめているレンジア。いつもの無表情で、一切動じていないレンジアを前に、僕のほうは動揺してドキドキして苦しかった。
「覚えてるのは、この記憶だけ。」
そう言って、レンジアが、ベッドの上で上半身を起こしている僕に抱きついてくる。
「レ、レンジア……。」
背中に手がまわって、レンジアの、大きくはないけど、しっかりと感触の伝わる柔らかい胸が、僕の胸に押し付けられる。
「アレックスさまを抱きとめた。
それは覚えてる。……だけどそれだけ。」
レンジアが悲しそうにつぶやいた。そしてその腕を僕から離して、胸に耳だけ当てる。
「アレックスさまを見てると。アレックスさまに触れると。アレックスさまのことを考えると。私は記憶をなくすのかも知れない。
もしもそうなら、もう護衛は出来ない。」
えと……。僕に抱きついて、頭が真っ白になっちゃったってこと?それって……。
僕は昔、エロイーズさんから言われた言葉を思い出していた。
「あの人の前にいると、時々頭が真っ白になるのよ。あの人もそうなんですって。あなたのお母さまにはそうならなかったのにね。」
と勝ち誇ったように笑うエロイーズさん。
つまり、大好きな人の前にいると、頭が真っ白になることがあるってことらしい。
僕に抱きついたことで、レンジアは頭が真っ白になっちゃったと言ってきた。
だからたぶん、レンジアが記憶をなくすきっかけが僕というのは、たぶんそういうことだ。レンジアは僕が思うよりも、たぶん、ずっと、僕のことを……。
僕の心臓が、レンジアが現れた時、抱きつかれた時、そして今、と、どんどん鼓動が早くなる。レンジアは僕の胸に耳を当てているから、その音を聞かれてしまっていた。
「──だからもっと、頭が真っ白になることをしたい。アレックスさまと。」
「あ、頭が真っ白になることって……。」
レンジアの、ベッドの上に置かれていた左手が、スルリと僕の右手をとらえて、指の間に指を絡めて、僕の手を持ち上げる。
「ずっと手を繋いでみたかった。──なぜ?
アレックスさまを見ていたい。──なぜ?
こんなにも、息が苦しいのに。」
「レンジア……。」
「もしも、この記憶を覚えていなかったら、私はアレックスさまの護衛でいられない。
けど、きっとまた忘れてしまう。
……さよなら、アレックスさま。」
そう言ったレンジアの右目から、ポロリと涙が落ちて、レンジアは右手でそれを不思議そうに手のひらで受け止めて見つめていた。
「だ……だめだよ!
僕はまだ、レンジアの夢すら聞いてない!
レンジアのやりたいこと、僕は一緒にかなえてあげたいって、そう思ってるのに!」
「一緒に……。」
思わず一緒と言ってしまって僕は慌てる。
「あ、いや、一緒でなくともいいんだけど。
レンジアにだって、夢はあるでしょう?」
「夢……?」
「そう。レンジアにだって、やりたいことはあるでしょう?王家の影は仕事なんだし。」
「考えたことがない。」
だけどレンジアは、船?と不思議そうな声で僕に聞いてくる。どうしたんだろう?
「……気付いたらここにいた。
その間のことは覚えてない。」
「どういうこと?」
「なぜか頭が真っ白になった。
アレックスさまを救った気がする。
でもそれがニナナイダンジョンの中だったのかすら、よく分からない。」
なにか特殊な攻撃を受けたってこと?
記憶が失われるほどの!?
ひょっとしてレンジアは僕を救うために、クラーケンの攻撃を受けていたのかな?
だとしたら僕のせいだ。
「レンジア、頭や体に怪我はない?」
「ない。」
「頭が真っ白になってから、変わったことやおかしく感じることはないかな?」
「ある。」
「それってどんなこと!?」
「アレックスさまを見ていると、時々頭が真っ白になる。」
「──え。」
「息苦しくて、なのにアレックスさまと話したくなる。たくさん関わりたくなる。
だけどそれをすると頭が真っ白になる。」
そ、それってどういう状態なんだろうか。
なんかの呪いとか?
クラーケンに呪いをかけられたってこと?
「ずっと確かめたいことがある。」
そう聞こえて、少ししたら、
──ドサッ。
「わっ!?」
突然レンジアが、ベッドの上の僕に覆いかぶさってきた。まるで天井から降ってきたみたいに感じたけど、当然そんなこと出来るわけないから、ドアから入って来たんだろう。
Sランク冒険者の叔父さんにも、気付かれないくらい気配を消せるレンジアに、そっと近付かれたら、僕にはまるでわからないし。
僕の両脇に腕をついて、上からじっと僕を見つめているレンジア。いつもの無表情で、一切動じていないレンジアを前に、僕のほうは動揺してドキドキして苦しかった。
「覚えてるのは、この記憶だけ。」
そう言って、レンジアが、ベッドの上で上半身を起こしている僕に抱きついてくる。
「レ、レンジア……。」
背中に手がまわって、レンジアの、大きくはないけど、しっかりと感触の伝わる柔らかい胸が、僕の胸に押し付けられる。
「アレックスさまを抱きとめた。
それは覚えてる。……だけどそれだけ。」
レンジアが悲しそうにつぶやいた。そしてその腕を僕から離して、胸に耳だけ当てる。
「アレックスさまを見てると。アレックスさまに触れると。アレックスさまのことを考えると。私は記憶をなくすのかも知れない。
もしもそうなら、もう護衛は出来ない。」
えと……。僕に抱きついて、頭が真っ白になっちゃったってこと?それって……。
僕は昔、エロイーズさんから言われた言葉を思い出していた。
「あの人の前にいると、時々頭が真っ白になるのよ。あの人もそうなんですって。あなたのお母さまにはそうならなかったのにね。」
と勝ち誇ったように笑うエロイーズさん。
つまり、大好きな人の前にいると、頭が真っ白になることがあるってことらしい。
僕に抱きついたことで、レンジアは頭が真っ白になっちゃったと言ってきた。
だからたぶん、レンジアが記憶をなくすきっかけが僕というのは、たぶんそういうことだ。レンジアは僕が思うよりも、たぶん、ずっと、僕のことを……。
僕の心臓が、レンジアが現れた時、抱きつかれた時、そして今、と、どんどん鼓動が早くなる。レンジアは僕の胸に耳を当てているから、その音を聞かれてしまっていた。
「──だからもっと、頭が真っ白になることをしたい。アレックスさまと。」
「あ、頭が真っ白になることって……。」
レンジアの、ベッドの上に置かれていた左手が、スルリと僕の右手をとらえて、指の間に指を絡めて、僕の手を持ち上げる。
「ずっと手を繋いでみたかった。──なぜ?
アレックスさまを見ていたい。──なぜ?
こんなにも、息が苦しいのに。」
「レンジア……。」
「もしも、この記憶を覚えていなかったら、私はアレックスさまの護衛でいられない。
けど、きっとまた忘れてしまう。
……さよなら、アレックスさま。」
そう言ったレンジアの右目から、ポロリと涙が落ちて、レンジアは右手でそれを不思議そうに手のひらで受け止めて見つめていた。
「だ……だめだよ!
僕はまだ、レンジアの夢すら聞いてない!
レンジアのやりたいこと、僕は一緒にかなえてあげたいって、そう思ってるのに!」
「一緒に……。」
思わず一緒と言ってしまって僕は慌てる。
「あ、いや、一緒でなくともいいんだけど。
レンジアにだって、夢はあるでしょう?」
「夢……?」
「そう。レンジアにだって、やりたいことはあるでしょう?王家の影は仕事なんだし。」
「考えたことがない。」
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