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第1章

第124話 奴隷の毎日・その2

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 俺が奴隷になったのは、この国でご法度の生魚を貴族に提供したことがバレたからだ。
 他の国では普通に生魚を食べる国もある。

 確かに生魚には寄生虫ってものがいて、加熱したほうが安全なのは間違いないが、俺は生魚を安全に提供する方法を知っていた。

 だから厳密にはこれは生魚じゃないのだと説明したんだが、頭のお固い、知識のない役人たちに、それはまったく通じなかった。

 国1番の料理店のオーナー兼筆頭料理人。
 そんな称号はすぐさま剥奪され、俺は奴隷へと落とされることになった。有名人だった俺の転落を喜ぶ者たちも少なくなかった。

 檻に入れられた俺に、絡んでくる奴隷たちも少なくなかったことから、店は一応気を付けてくれてはいるようだ。

 なんとか俺を料理人か解体職人として、買ってくれるところがないかとも、はじめの頃こそ思っていたが、この国の犯罪者を買いたがる、この国の店は存在しなかった。

 だから呼ばれるのは、他の国の客の性奴隷候補としてだけ。俺の見た目は男女ともに貴族受けするんだそうだ。

 幸いまだ買われずに済んではいるが、見た目のいい奴隷が減ってきている。そろそろ俺の番だとしてもおかしくなかった。俺は戦々恐々として日々を過ごしていた。

「客だ。出ろ。」
 店員が呼びに来た。俺は重い腰を上げて立ち上がり、檻をくぐって外に出た。

 今日はどんな客だろうか。一緒に連れ出される奴の見た目で、ある程度予測はつく。
 中年女性受けしそうな黒髪の男だった。

 つまりは、貴族か大商人の中年女性が客ってことか……。どんな人間が相手でも、女なだけまだマシなほうだ。最悪性奴隷にされるのなら、そのほうがいい。

 そう思っていた俺の前に現れた客は、どう見ても貴族のお忍びにしか見えない、平民の服を着た顔のキレイな子どもだった。

 こんな子どもで性奴隷を買うだって!?
 どんなド変態なんだコイツは!!
「──性能をお確かめになりますか?」
 いつものように店員が客に聞いた。

「あ、はい。この場で出来ますか?」
 この場で、だと!?女性的な顔の子どもは爽やかな笑顔でサラッとそう言った。

 俺も黒髪の男も、それを聞いてビクリと体がはねた。ここで!?こいつと!?
 ──冗談じゃない!
 この先ずっとそうやって弄ばれるのだ。

 変態だ。コイツは間違いなくド変態だ。
 貴族の中には、奴隷同士を絡ませて、それを見て喜ぶてあいがいると言う。おそらくコイツもそういう変態の1人なんだろう。

「もし見れるなら、見せてもらえますか?
 それで判断したいので。
 それ次第で、どちらか、または2人とも買いたいと思っています。」

「──あなた自身がお使いに?」
「はい、僕が買うつもりです。」
 貴族の子どもはニッコリと微笑んだ。

「分かりました。聞いたな?お前たち。
 いつものように早く服を脱ぐんだ。」
 店員が俺たちにそう命令する。俺と黒髪の男は目配せをしてうなずき合った。
 
「おい、アレを持って来てくれ。」
 店員が店の奥にの奴に声をかけ、媚薬を取りに行く為に、俺たちから目を離した瞬間、俺たちは一斉に店の外に走り出した。

「い……、嫌だああぁ!!」
「逃げろ!逃げるんだ!!」
 後ろから、お前、何言ってんだ、と言いながら出て来た、別の店員の声がする。

 店の外に出る直前で、店の奥から出て来た店員が、後ろから俺たちにムチをふるった。
「ああっ!?」

 電撃ムチだ。痺れ効果のある魔道具で、店員が俺たちを従わせるのに使うものだ。
 2人同時にムチに打たれて、俺たちはバタリと床に倒れ込んだ。

 俺たちを連れて来た店員が、媚薬を取って来て、無理やり飲ませながら、服のボタンを外しだす。嫌だ、やめろ、やめてくれ……。

 だが、その子どもは、なんと解体職人を探しに来ていたのだった。ずっと待っていた、俺のスキルを求めてくれる雇い主。
 俺は思わず泣いた。

 そしてそれからも、次々に凄いことが起こった。まずは俺の部屋。まだ大したものがないが、清潔な俺だけの家だ。

 それだけでも奴隷に対する扱いとしては特別待遇だというのに、着る服はまあ分かるんだが、そいつは賃金まで支払うと言う。

「賃金は、解体職人さんはひと月、中金貨3枚と職人ギルドで聞きました。それで早くご自分の身分を買えるといいですね。」

 聞けば職人ギルドで元々人を雇うつもりだったのが、職人がいなくて奴隷市場にやって来たのだという。そう考えれば、生涯を買うと思えば安い値段だろうが……。

「はい、元々職人ギルドで紹介して貰うつもりでいたんですが、今はベテランがいないとのことだったのでここに。雇うつもりで来ているので、賃金は支払いますよ?」

 だとよ。世間知らずのお坊ちゃんなのか?
 そうなんだろうな、元貴族だと言うし。
 それかよほどのお人好しか、だ。

 奴隷なんて、本来買ったら終わりだ。ましてや俺は重犯罪奴隷。そこにこの見た目で、売れそうだと判断されて高値がついている。

 その分の金を支払って、更に賃金を支払うメリットが、こいつにはないのだ。その仕事もさせつつ夜も……ってのを、無賃金でやらせたとしても、元が取れるのか分からない。

 払った分を稼いで返して貰うんですから、それって実質タダ働きなのでは……?
 だとよ。賃金払うのあんただろ。

 そして、俺を普通に扱ってくれる。その元貴族のお坊ちゃんだけでなく、他の従業員までもが、だ。俺の技術をありがたがって、将来また店を出すなら援助するときた。

 なぜだ?……なぜこんなにも温かい……。
 独立……。自分の店……。それをまた夢見ることの出来る日が俺にくるなんて。

 だが俺はそれを断った。働くなら、あんたの下がいい。あんたのやる店なら、俺はいくらでも腕を振るう、と。

 なあ、頼むよ。俺の生涯は、あんたに恩を返すことに使わせくれ。もう一度仕事をする機会を、人間として生きる機会をくれた。あんたがいなきゃそれは叶わなかったんだ。

 もう生まれた国には戻らない。俺はここで骨を埋めよう。坊っちゃん、俺はあんたに生涯ついていくぜ。俺の生きる場所は、あんたの下だ。あんたを支える柱の1つになるよ。

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