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第1章
第73話 貴族の決まりごと
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カーマン子爵とテイラー冒険者ギルド長と職員さんが、示し合わせたみたいに、同時に僕とオフィーリア嬢に深々とお辞儀をした。
「このたびは、我が領地の管理不足によりご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした。被害の程度をお伺いするのに、職員がこちらにお呼び立てしてしまったようで、重ね重ね申し訳ありません。」
僕はもう平民のつもりでいたから忘れてたけど、確かに規則とはいえ、平民が貴族を呼びつけるなんてありえないことだよなあ。
普通は貴族の側に行くものだものね。
貴族を呼びつけ出来るのなんて、上級貴族か王族くらいだもの。
オフィーリア嬢は気にしていないみたいだけど、確かに他の貴族に知られたら、間違いなくヒソヒソされちゃうだろうね。
だからあんなに焦っていたんだな。
職員さんたちからしたら分からないよね。
カーマン子爵の領地には、当然カーマン子爵しか貴族はいないから、今まで貴族と関わったことなんてなかっただろうしね。
いつも通り規則にのっとって、対処しただけなんだろうな。僕らを呼びに来た職員さんは、可哀想なくらいガタガタと震えてる。
カーマン子爵がチラリと僕らを見た。子爵の自分から声をかけられないからだろうね。
ご質問はなんでしょうか?とオフィーリア嬢が尋ねてようやく口を開いた。
「被害の程度を、まずはお聞かせいただけますでしょうか……?」
カーマン子爵も真っ青だった。
僕と叔父さんが討伐の様子と被害状況の説明を、オフィーリア嬢とグレースさんが自分たちの被害の状況を説明する間も、ずっとカーマン子爵は不安げな様子だった。
ああ、ひょっとしたら、あれかなあ。
昔、僕が小さい頃に、とある貴族の領地に王族が避暑に行った際に、刺客が現れて襲われた事件があったんだけど。
王族の安全を守る義務って、その領地の領主にも発生するんだよね。当然護衛騎士団を組織して、王族を護衛するんだけど。
刺客を遠ざけられずに、王族が怪我をしちゃって。その貴族は責任を取らされて、かなりの財産を没収、かつ、爵位を下げられたって父さまが話してたって。
自分と同等か上位の貴族が、自分の領地で怪我をしたり死んだ場合にも、それって起こりうることで、領主が財産で被害を補填しなくちゃならないのだそう。
ただし、先触れを出して、相手が了承していた場合に限りだけどね。その場合にだけ、護衛の義務と補填の義務が生じるんだ。
知らないうちに勝手に来て、勝手に怪我したり死んだ場合に、何も出来ないまま保証だけ求められても、相手も困っちゃうよね。
だから友人だとしても先触れを出さずに、他人の領地に気軽に行ってはいけないと、父さまから教わったっけなあ。
この場合オフィーリア嬢は、恐らくカーマン子爵に先触れを出してはいないだろう。それならまず、最初に僕のところに来る前に、カーマン子爵に挨拶に行かなくちゃだから。
だったら、そんなに財産没収を恐れなくてもよさそうなものだけどなあ……?と僕が思っていると。
「それでその……。
キャベンディッシュ侯爵家には、既にお知らせになられましたでしょうか……?」
とカーマン子爵が言ってきた。
──ああ!そっちか!
リシャーラ王国魔法省大臣である父さま。別に世襲制ってわけじゃないけど、普通に代々我が家が大臣を排出してきたんだよね。
つまりその息子である僕は、本来なら将来の大臣候補として見られてるってわけだ。
その僕に怪我なんてさせたら、キャベンディッシュ侯爵家が黙ってないからね。
先触れがないから金銭での保証は要求されなくても、子爵であるカーマン鄕は、貴族の世界でかなり生きにくくはなると思う。
本来なら、だけどね。
「あの、キャベンディッシュ侯爵家は弟のリアムが継ぐことになりまして。」
「え?そ、そうなのですか?」
やっぱり知らなかったみたいだね。まあ、そのうちおいおい、みんな知るだろうけど。
「今の僕は平民なんですよ。だから父さまのことは気にならさないで下さい。
何かを要求することはありませんので。」
そう言って僕はニッコリと笑ったけど、カーマン子爵は複雑なことを聞いてしまった、というのが露骨に顔に出てしまっていた。
悪い人じゃないんだと思うけど、な、なんかいたたまれないなあ……。
僕、別に気にしていないんだけど……。
「わたくしたちは、特に怪我もありませんし問題ありませんわ。先触れも出してはおりませんし、お構いなく。」
とオフィーリア嬢が言った。
「それよりも、わたくし、こちらに居を構えましたの。いずれご挨拶に伺わせていただきますので、後ほどカーマン子爵邸の場所を、従者にお知らせいただけますか?」
「こ、こ、こちらにですか?
別荘かなにかで?」
カーマン子爵が跳び上がる。
「いえ。こちらで暮らすつもりですわ。
オーウェンズ伯爵邸には戻りません。」
オフィーリア嬢がニッコリとカーマン子爵に微笑んだ。
「このたびは、我が領地の管理不足によりご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした。被害の程度をお伺いするのに、職員がこちらにお呼び立てしてしまったようで、重ね重ね申し訳ありません。」
僕はもう平民のつもりでいたから忘れてたけど、確かに規則とはいえ、平民が貴族を呼びつけるなんてありえないことだよなあ。
普通は貴族の側に行くものだものね。
貴族を呼びつけ出来るのなんて、上級貴族か王族くらいだもの。
オフィーリア嬢は気にしていないみたいだけど、確かに他の貴族に知られたら、間違いなくヒソヒソされちゃうだろうね。
だからあんなに焦っていたんだな。
職員さんたちからしたら分からないよね。
カーマン子爵の領地には、当然カーマン子爵しか貴族はいないから、今まで貴族と関わったことなんてなかっただろうしね。
いつも通り規則にのっとって、対処しただけなんだろうな。僕らを呼びに来た職員さんは、可哀想なくらいガタガタと震えてる。
カーマン子爵がチラリと僕らを見た。子爵の自分から声をかけられないからだろうね。
ご質問はなんでしょうか?とオフィーリア嬢が尋ねてようやく口を開いた。
「被害の程度を、まずはお聞かせいただけますでしょうか……?」
カーマン子爵も真っ青だった。
僕と叔父さんが討伐の様子と被害状況の説明を、オフィーリア嬢とグレースさんが自分たちの被害の状況を説明する間も、ずっとカーマン子爵は不安げな様子だった。
ああ、ひょっとしたら、あれかなあ。
昔、僕が小さい頃に、とある貴族の領地に王族が避暑に行った際に、刺客が現れて襲われた事件があったんだけど。
王族の安全を守る義務って、その領地の領主にも発生するんだよね。当然護衛騎士団を組織して、王族を護衛するんだけど。
刺客を遠ざけられずに、王族が怪我をしちゃって。その貴族は責任を取らされて、かなりの財産を没収、かつ、爵位を下げられたって父さまが話してたって。
自分と同等か上位の貴族が、自分の領地で怪我をしたり死んだ場合にも、それって起こりうることで、領主が財産で被害を補填しなくちゃならないのだそう。
ただし、先触れを出して、相手が了承していた場合に限りだけどね。その場合にだけ、護衛の義務と補填の義務が生じるんだ。
知らないうちに勝手に来て、勝手に怪我したり死んだ場合に、何も出来ないまま保証だけ求められても、相手も困っちゃうよね。
だから友人だとしても先触れを出さずに、他人の領地に気軽に行ってはいけないと、父さまから教わったっけなあ。
この場合オフィーリア嬢は、恐らくカーマン子爵に先触れを出してはいないだろう。それならまず、最初に僕のところに来る前に、カーマン子爵に挨拶に行かなくちゃだから。
だったら、そんなに財産没収を恐れなくてもよさそうなものだけどなあ……?と僕が思っていると。
「それでその……。
キャベンディッシュ侯爵家には、既にお知らせになられましたでしょうか……?」
とカーマン子爵が言ってきた。
──ああ!そっちか!
リシャーラ王国魔法省大臣である父さま。別に世襲制ってわけじゃないけど、普通に代々我が家が大臣を排出してきたんだよね。
つまりその息子である僕は、本来なら将来の大臣候補として見られてるってわけだ。
その僕に怪我なんてさせたら、キャベンディッシュ侯爵家が黙ってないからね。
先触れがないから金銭での保証は要求されなくても、子爵であるカーマン鄕は、貴族の世界でかなり生きにくくはなると思う。
本来なら、だけどね。
「あの、キャベンディッシュ侯爵家は弟のリアムが継ぐことになりまして。」
「え?そ、そうなのですか?」
やっぱり知らなかったみたいだね。まあ、そのうちおいおい、みんな知るだろうけど。
「今の僕は平民なんですよ。だから父さまのことは気にならさないで下さい。
何かを要求することはありませんので。」
そう言って僕はニッコリと笑ったけど、カーマン子爵は複雑なことを聞いてしまった、というのが露骨に顔に出てしまっていた。
悪い人じゃないんだと思うけど、な、なんかいたたまれないなあ……。
僕、別に気にしていないんだけど……。
「わたくしたちは、特に怪我もありませんし問題ありませんわ。先触れも出してはおりませんし、お構いなく。」
とオフィーリア嬢が言った。
「それよりも、わたくし、こちらに居を構えましたの。いずれご挨拶に伺わせていただきますので、後ほどカーマン子爵邸の場所を、従者にお知らせいただけますか?」
「こ、こ、こちらにですか?
別荘かなにかで?」
カーマン子爵が跳び上がる。
「いえ。こちらで暮らすつもりですわ。
オーウェンズ伯爵邸には戻りません。」
オフィーリア嬢がニッコリとカーマン子爵に微笑んだ。
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