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第1章
第31話 セオドア・ラウマンになった日・その1
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
セオドア・ラウマン。リシャーラ王国、キャベンディッシュ侯爵家の次男だった俺が、国の法律にのっとり家を放逐された後で、貴族籍が抜けたのちに新しくつけた名前だ。
生まれた時から平民になることが決まっていたので、それにあわせた教育も施されていた為、多少は市井における知識は持ち合わせていたものの、やはり最初は大変だった。
貴族というものは、とにかく常識がない。
平民として暮らす為の、という意味だが、護衛がいる状態で生活することに慣れている為、危機管理能力が低いというのかな。
まず簡単なことで言うと、他人のいる前で財布を取り出す危険性に、気が付くことが出来ない。奪えそうな相手から奪おうとする人間がいるという発想がないからだ。
こういうのはだんだんと、肌感覚で学んでいくしかないんだが、狙う立場の人間からすれば、そういう無防備な子どもというのは、すぐにわかるんだろうな。
貴族の家から婚約を打診されなかった家の子どもたちは、どこかしらかに就職するか、冒険者の道を選ぶ。まれに商人になる子もいるが、親がそういう仕事をしている場合だ。
いちばんいいのは、貴族用の学園に通って王宮勤めをすることなんだが、わがキャベンディッシュ侯爵家の家訓は、不要なものには金をかけない。その分惜しまず使え、だ。
キャベンディッシュ侯爵家にとって不要なものというのは、魔法以外に相当する。優秀な魔法使いを排出してきた我が家では、魔法に関することにだけたくさんの金を使う。
そんな中、俺の授かったスキルは片手剣使いだった。当然家訓を重んじる当主さまである父は、剣術科のある貴族用の学園に、俺を入れてはくれなかった。
貴族用の学園に通えないとなると、必要な知識や経験が学べず、王宮やそれに近しい就職はほぼ不可能と言っていい。
子どもを就職させられるような商売もやってはいない。当然俺の選択肢は冒険者のみとなった。服も親からの貸与品であると法に定められていた為、持ち出せたものはわずか。
それにも関わらず、俺は悪い奴らからするといいカモに見えたのだろう。冒険者になってそうそう襲われた。何も持っていないと本当のことを言ったところで通じないのだ。
俺はダンジョンの奥へと逃げ込んだ。
逃げ足にだけは自信があった。息をできるだけ整え、呼吸音で気付かれないように息を殺しながら、奴らが諦めるのを待った。
ダンジョンの中で人を殺しても、ダンジョンが吸収するから死体が残らない。
だからこうして新人狩りが行われるということが、よくあるのだと言う。
俺の武器は安い片手剣ひとつ。盾もない。
手持ちの金で買えたのはそれだけだ。
万が一見つかったら、剣士の訓練を受けていない俺では、ひとたまりもないだろう。
せめてなにか見つけなくては。
薄暗いダンジョンの中は、ところどころ不思議なことに明かりがついている。
常設ダンジョンであれば冒険者ギルドが魔道具を使って明るくしていることもあるが、ここは石壁の一部が光っているのだ。
「ぎゃあああっ!」
突然男の人の悲鳴が聞こえてビクッと振り返り、石壁からほんの少し顔を出してあちら側を覗くと、明るいところで俺を追ってきた2人組が倒れている男性を見下ろしている。
「──ちっ、ろくなもん持ってねえな。邪魔な荷物になるもんばかりだ。なんでマジックバックがないどころか、普通のカバンにすら何もドロップ品が入ってやがらねえんだ?」
「こいつひょっとして、アイテムボックス持ちじゃねえのか?きっと集めたもんは、アイテムボックスの中にしまってやがったのさ。」
「ついてねえな。先に殺しちまったじゃねえか。中身を出させねえと、死んじまったらアイテムボックスの中身は取り出せねえのに。」
「さっきの子どもはどうする?
どっちに行ったのかわからねえから、とりあえずこっちに来たが……。」
「あの子どもも、正直ろくなモンを持っていなさそうだったしな。いいとこの子ぽかったから、なにか隠し持ってるんじゃねえかと思ったが……。深追いしても無駄足だ。」
「そうだな。他の獲物を探そうぜ。」
そう言って、男たちは去って行った。
姿が見えなくなってしばらくしてから、ようやく俺は大きくため息をついたのだった。
殺された男の人は、今まさに体がダンジョンに吸収されようとしていた。
ダンジョンで見つけた死体の持ち物は、奪ってもよいこととされている。
なぜなら放っておいても、こうして吸収されてしまうからだ。俺は死んだ男の人の服を脱がせて、装備や食べ物を奪った。
男たちは邪魔な荷物と言っていたが、死んだ男の人の持っていた武器は、俺の銀貨3枚で購入したショートソードより上等な物だった。だが、しかし。
「双剣……かあ……。」
武器の使い方をろくに知らない場合、武器そのものの攻撃力や、特性が戦闘に大きな影響を与える。当たれば死ぬのだからな。
それでも、俺のスキルとの相性は最悪だった。双剣に俺のスキルは発動しない。片手剣のスキルが成長することもない。
だがまったく剣を振ったことがないのだから、むしろいちから双剣を極めてみても良いかも知れない。少なくともこいつである程度の金が稼げればよい片手剣が買えるだろう。
「今日からお前が、俺の相棒だ!」
俺は帰りに早速、男性の服を売って、双剣を腰から下げる為のホルダーを購入した。
これがまさか、俺の人生を変えるなんて。
────────────────────
主人公がどうしてこういう性格なのか、他人の悪意に疎いのはなぜなのか、平民にとっての常識がないのか。
そこに違和感を感じる方たちもいらっしゃるようで、こちらのエピソードを追加しました。
また時系列に合わせて並び順を変更しました。
セオドア・ラウマン。リシャーラ王国、キャベンディッシュ侯爵家の次男だった俺が、国の法律にのっとり家を放逐された後で、貴族籍が抜けたのちに新しくつけた名前だ。
生まれた時から平民になることが決まっていたので、それにあわせた教育も施されていた為、多少は市井における知識は持ち合わせていたものの、やはり最初は大変だった。
貴族というものは、とにかく常識がない。
平民として暮らす為の、という意味だが、護衛がいる状態で生活することに慣れている為、危機管理能力が低いというのかな。
まず簡単なことで言うと、他人のいる前で財布を取り出す危険性に、気が付くことが出来ない。奪えそうな相手から奪おうとする人間がいるという発想がないからだ。
こういうのはだんだんと、肌感覚で学んでいくしかないんだが、狙う立場の人間からすれば、そういう無防備な子どもというのは、すぐにわかるんだろうな。
貴族の家から婚約を打診されなかった家の子どもたちは、どこかしらかに就職するか、冒険者の道を選ぶ。まれに商人になる子もいるが、親がそういう仕事をしている場合だ。
いちばんいいのは、貴族用の学園に通って王宮勤めをすることなんだが、わがキャベンディッシュ侯爵家の家訓は、不要なものには金をかけない。その分惜しまず使え、だ。
キャベンディッシュ侯爵家にとって不要なものというのは、魔法以外に相当する。優秀な魔法使いを排出してきた我が家では、魔法に関することにだけたくさんの金を使う。
そんな中、俺の授かったスキルは片手剣使いだった。当然家訓を重んじる当主さまである父は、剣術科のある貴族用の学園に、俺を入れてはくれなかった。
貴族用の学園に通えないとなると、必要な知識や経験が学べず、王宮やそれに近しい就職はほぼ不可能と言っていい。
子どもを就職させられるような商売もやってはいない。当然俺の選択肢は冒険者のみとなった。服も親からの貸与品であると法に定められていた為、持ち出せたものはわずか。
それにも関わらず、俺は悪い奴らからするといいカモに見えたのだろう。冒険者になってそうそう襲われた。何も持っていないと本当のことを言ったところで通じないのだ。
俺はダンジョンの奥へと逃げ込んだ。
逃げ足にだけは自信があった。息をできるだけ整え、呼吸音で気付かれないように息を殺しながら、奴らが諦めるのを待った。
ダンジョンの中で人を殺しても、ダンジョンが吸収するから死体が残らない。
だからこうして新人狩りが行われるということが、よくあるのだと言う。
俺の武器は安い片手剣ひとつ。盾もない。
手持ちの金で買えたのはそれだけだ。
万が一見つかったら、剣士の訓練を受けていない俺では、ひとたまりもないだろう。
せめてなにか見つけなくては。
薄暗いダンジョンの中は、ところどころ不思議なことに明かりがついている。
常設ダンジョンであれば冒険者ギルドが魔道具を使って明るくしていることもあるが、ここは石壁の一部が光っているのだ。
「ぎゃあああっ!」
突然男の人の悲鳴が聞こえてビクッと振り返り、石壁からほんの少し顔を出してあちら側を覗くと、明るいところで俺を追ってきた2人組が倒れている男性を見下ろしている。
「──ちっ、ろくなもん持ってねえな。邪魔な荷物になるもんばかりだ。なんでマジックバックがないどころか、普通のカバンにすら何もドロップ品が入ってやがらねえんだ?」
「こいつひょっとして、アイテムボックス持ちじゃねえのか?きっと集めたもんは、アイテムボックスの中にしまってやがったのさ。」
「ついてねえな。先に殺しちまったじゃねえか。中身を出させねえと、死んじまったらアイテムボックスの中身は取り出せねえのに。」
「さっきの子どもはどうする?
どっちに行ったのかわからねえから、とりあえずこっちに来たが……。」
「あの子どもも、正直ろくなモンを持っていなさそうだったしな。いいとこの子ぽかったから、なにか隠し持ってるんじゃねえかと思ったが……。深追いしても無駄足だ。」
「そうだな。他の獲物を探そうぜ。」
そう言って、男たちは去って行った。
姿が見えなくなってしばらくしてから、ようやく俺は大きくため息をついたのだった。
殺された男の人は、今まさに体がダンジョンに吸収されようとしていた。
ダンジョンで見つけた死体の持ち物は、奪ってもよいこととされている。
なぜなら放っておいても、こうして吸収されてしまうからだ。俺は死んだ男の人の服を脱がせて、装備や食べ物を奪った。
男たちは邪魔な荷物と言っていたが、死んだ男の人の持っていた武器は、俺の銀貨3枚で購入したショートソードより上等な物だった。だが、しかし。
「双剣……かあ……。」
武器の使い方をろくに知らない場合、武器そのものの攻撃力や、特性が戦闘に大きな影響を与える。当たれば死ぬのだからな。
それでも、俺のスキルとの相性は最悪だった。双剣に俺のスキルは発動しない。片手剣のスキルが成長することもない。
だがまったく剣を振ったことがないのだから、むしろいちから双剣を極めてみても良いかも知れない。少なくともこいつである程度の金が稼げればよい片手剣が買えるだろう。
「今日からお前が、俺の相棒だ!」
俺は帰りに早速、男性の服を売って、双剣を腰から下げる為のホルダーを購入した。
これがまさか、俺の人生を変えるなんて。
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主人公がどうしてこういう性格なのか、他人の悪意に疎いのはなぜなのか、平民にとっての常識がないのか。
そこに違和感を感じる方たちもいらっしゃるようで、こちらのエピソードを追加しました。
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