11 / 512
第1章
第11話 王家の影
しおりを挟む
──チリンチリン。オフィーリアが従者を呼び出す為のハンドベルを振って鳴らす。
「お呼びでしょうか、オフィーリアさま。」
執事が部屋に入り、恭しく頭をさげる。
「コバルトを。」
「──おそばに。」
どこから現れたのか、オフィーリア専属の影であるコバルトが、スッと絨毯の上にひざまずいた。
灰色の癖の付いた猫っ毛に大きな青い目。少年のような幼い体付き。だが、コバルトの本当の姿を知るものはいないという。
オフィーリアの大祖母は、先代の国王の母親である元王太后だ。
つまり今の王太子はハトコにあたる。
コバルトは大祖母から貰った誕生日プレゼントの内の1人で、王家の影としてつかえている人間だ。父親もこのことは知らない。
大祖母もオフィーリアが王家に嫁いでくる可能性を考えてのことだろう。ひと目見てこの子は狙われると判断をしたのだ。
実際王家の影がいなければ、さらわれてしまったであろう出来事も何度かあった。それくらいオフィーリアは目立つ存在であった。
「キャベンディッシュ家のアレックスさまの行方を探してちょうだい。そして見付け次第何ごともないよう、護衛を続けて。
連絡係はジャックにお願いするわ。」
ジャックと呼ばれた執事は、かしこまりました、と言った。ジャックは家令の補佐の立場だが、ほぼオフィーリア専属と言ってもいい役回りの人間だ。
「──御心のままに。」
そう言うと、コバルトは来たときと同じように、またスッと姿を消した。
「それと。お父さまにちょっと嫌がらせをしておいてちょうだい。毛虫がやたら首筋に落ちてくるだとか、美人の前でやたらとけつまずくだとか、そんなのでいいわ。」
「オフィーリアさまを怒らせるとは、旦那さまも身の程知らずですね。婿養子の立場だから、この家で唯一、王家と縁続きの血を持たないことが、後ろめたいのでしょうが。」
執事のジャックは元々伯爵家の三男坊で、オフィーリアの父親であるジェイコブとは、同じ学園で学んだ顔見知りの間柄だ。
「ご自分の発言権を強くしようと、オフィーリアさまのご友人関係や縁談に、クチバシを突っ込むたびに、オフィーリアさまの怒りを買っているというのに毎回飽きませんね。」
ジェイコブは同じく三男坊だったが、腐っても侯爵家の出だった為、家格を重んじる貴族同士の婚姻が結ばれたのだ。ちなみに子どもの頃から毛虫が大の苦手である。
「私を怒らせるたびに、首筋に毛虫が降ってくるのを、毎回なんだと思っているのかしらね。懲りないお父さまだこと。」
オフィーリアはそう言って紅茶を一口飲んで微笑んだ。ジェイコブがオフィーリアを怒らせるたび毛虫が降ってくるせいで、ジェイコブは貴族の女性たちからさけられていた。
「それはカナリーにやらせましょう。
──聞いていたな?カナリー。」
「かしこまりました。」
天井からそう声がすると、しばらくして遠くの方から、取ってくれ!取ってくれ!と、ジェイコブの悲鳴が聞こえてきた。
「相変わらず仕事が早いわね。」
「常にストックしているらしいですよ。
旦那さまは、あれですからね。」
こともなげに後ろ手に手を組んだまま、ジャックがそう言うと、オフィーリアはクスクスと拳を口元に当てて笑った。
「アレックスさま……。必ず探し出してみせますわ。すぐにおそばに参ります。
わたくしのいる場所は、生涯あなたのそばだけですもの。」
オフィーリアは服の下に隠していたペンダントトップを取り出して手に持ち、うっとりと目を細めて頬を染めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
バッカスの村は森を切り開いた新しい土地で、まだ住む人の少ない場所だった。畑ばかりで家がほとんど見えないや。
その中で遠くからでもわかる、ちょっと大きなレンガ造りの家と、その前に広がるたくさんの畑が、叔父さんの買った家と土地だった。叔父さんは玄関の前で待っててくれた。
父さまと似た顔立ちだけど、冒険者をやっていただけあって、精悍でたくましく、男らしい雰囲気で、とても格好いい。
「よう、アレックス、大きくなったな。」
「お久しぶりです。」
「オリビアの避暑の護衛について行って以来か。俺も歳を取るわけだ。」
母さまと唯一行った、レグリオ王国の海への旅行は、父さまが仕事でついて来られなかったので、当時現役の冒険者だった叔父さんに、依頼という形で同行を頼んだんだよね。
叔父さんと母さまと僕の3人だけという、他に護衛もつけない気楽な旅で、母さまもかなりリラックスして喜んでくれたんだ。
そんなことでもないと、平民になった叔父さんと関わることが出来ない。貴族と平民になった元貴族の関係ってそんな感じらしい。
正直寂しいけど、それが決まりなんだと言われたら仕方がないよね。
うちはまだそうやって、父さまが叔父さんと接する時間を作ってくれたほうだと思う。
母さまよりもエロイーズさんのことを大切にしてたのだけは納得いかないけど、叔父さんのことは好きだったんじゃないかなあ。
「お呼びでしょうか、オフィーリアさま。」
執事が部屋に入り、恭しく頭をさげる。
「コバルトを。」
「──おそばに。」
どこから現れたのか、オフィーリア専属の影であるコバルトが、スッと絨毯の上にひざまずいた。
灰色の癖の付いた猫っ毛に大きな青い目。少年のような幼い体付き。だが、コバルトの本当の姿を知るものはいないという。
オフィーリアの大祖母は、先代の国王の母親である元王太后だ。
つまり今の王太子はハトコにあたる。
コバルトは大祖母から貰った誕生日プレゼントの内の1人で、王家の影としてつかえている人間だ。父親もこのことは知らない。
大祖母もオフィーリアが王家に嫁いでくる可能性を考えてのことだろう。ひと目見てこの子は狙われると判断をしたのだ。
実際王家の影がいなければ、さらわれてしまったであろう出来事も何度かあった。それくらいオフィーリアは目立つ存在であった。
「キャベンディッシュ家のアレックスさまの行方を探してちょうだい。そして見付け次第何ごともないよう、護衛を続けて。
連絡係はジャックにお願いするわ。」
ジャックと呼ばれた執事は、かしこまりました、と言った。ジャックは家令の補佐の立場だが、ほぼオフィーリア専属と言ってもいい役回りの人間だ。
「──御心のままに。」
そう言うと、コバルトは来たときと同じように、またスッと姿を消した。
「それと。お父さまにちょっと嫌がらせをしておいてちょうだい。毛虫がやたら首筋に落ちてくるだとか、美人の前でやたらとけつまずくだとか、そんなのでいいわ。」
「オフィーリアさまを怒らせるとは、旦那さまも身の程知らずですね。婿養子の立場だから、この家で唯一、王家と縁続きの血を持たないことが、後ろめたいのでしょうが。」
執事のジャックは元々伯爵家の三男坊で、オフィーリアの父親であるジェイコブとは、同じ学園で学んだ顔見知りの間柄だ。
「ご自分の発言権を強くしようと、オフィーリアさまのご友人関係や縁談に、クチバシを突っ込むたびに、オフィーリアさまの怒りを買っているというのに毎回飽きませんね。」
ジェイコブは同じく三男坊だったが、腐っても侯爵家の出だった為、家格を重んじる貴族同士の婚姻が結ばれたのだ。ちなみに子どもの頃から毛虫が大の苦手である。
「私を怒らせるたびに、首筋に毛虫が降ってくるのを、毎回なんだと思っているのかしらね。懲りないお父さまだこと。」
オフィーリアはそう言って紅茶を一口飲んで微笑んだ。ジェイコブがオフィーリアを怒らせるたび毛虫が降ってくるせいで、ジェイコブは貴族の女性たちからさけられていた。
「それはカナリーにやらせましょう。
──聞いていたな?カナリー。」
「かしこまりました。」
天井からそう声がすると、しばらくして遠くの方から、取ってくれ!取ってくれ!と、ジェイコブの悲鳴が聞こえてきた。
「相変わらず仕事が早いわね。」
「常にストックしているらしいですよ。
旦那さまは、あれですからね。」
こともなげに後ろ手に手を組んだまま、ジャックがそう言うと、オフィーリアはクスクスと拳を口元に当てて笑った。
「アレックスさま……。必ず探し出してみせますわ。すぐにおそばに参ります。
わたくしのいる場所は、生涯あなたのそばだけですもの。」
オフィーリアは服の下に隠していたペンダントトップを取り出して手に持ち、うっとりと目を細めて頬を染めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
バッカスの村は森を切り開いた新しい土地で、まだ住む人の少ない場所だった。畑ばかりで家がほとんど見えないや。
その中で遠くからでもわかる、ちょっと大きなレンガ造りの家と、その前に広がるたくさんの畑が、叔父さんの買った家と土地だった。叔父さんは玄関の前で待っててくれた。
父さまと似た顔立ちだけど、冒険者をやっていただけあって、精悍でたくましく、男らしい雰囲気で、とても格好いい。
「よう、アレックス、大きくなったな。」
「お久しぶりです。」
「オリビアの避暑の護衛について行って以来か。俺も歳を取るわけだ。」
母さまと唯一行った、レグリオ王国の海への旅行は、父さまが仕事でついて来られなかったので、当時現役の冒険者だった叔父さんに、依頼という形で同行を頼んだんだよね。
叔父さんと母さまと僕の3人だけという、他に護衛もつけない気楽な旅で、母さまもかなりリラックスして喜んでくれたんだ。
そんなことでもないと、平民になった叔父さんと関わることが出来ない。貴族と平民になった元貴族の関係ってそんな感じらしい。
正直寂しいけど、それが決まりなんだと言われたら仕方がないよね。
うちはまだそうやって、父さまが叔父さんと接する時間を作ってくれたほうだと思う。
母さまよりもエロイーズさんのことを大切にしてたのだけは納得いかないけど、叔父さんのことは好きだったんじゃないかなあ。
901
お気に入りに追加
2,081
あなたにおすすめの小説
チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる