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第1章

第7話 メイドのマーサ

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 スキルの使い方がわからず、慌てる僕。
 だけど、銀色の魚たちは、そんな僕を無視して、部屋の中を自由に泳ぎまわっている。

 やがて一瞬更に強く光って光が消え、目を開けると、そこには床の上ではねる、一匹の銀色の魚の姿が!……って、ええっ!?

 周囲を見渡せば、床の上でピチピチと苦しそうにはねている何匹もの銀色の魚たち。
 部屋の中が魚臭い!!ベッドの上にまでいるよ!ああ、シーツが……。

 えーと……、と、とりあえずこのままにしておけないし、籠を借りてきて料理長にでも渡しておくか……。

 僕はメイドのマーサを呼んで、籠を借りてきて貰うよう頼んだ。マーサはミーニャの母親で、僕の乳母でもあった人だ。ミーニャの髪色と目の色はマーサ譲りだ。

 籠を持ってきて、僕の部屋の中に入ったマーサは、床の上や机の上で跳ねる魚や、ベッドでぐったりしている魚を見て仰天すると、食べ物で遊ぶなんて!と僕を叱った。

 僕はそれを見て、申し訳ない気持ちと同時に、ちょっとニヤケてきてしまう。
「何を笑ってんです?坊っちゃん。」

「いや……。マーサにこうして叱られるのも久しぶりだなあって……。」
 へへ、と僕は笑った。

「坊っちゃん……。」
 マーサももう、僕が出ていくことになったのは知っている。僕にそう言われて、複雑そうな表情になった。

「成人したと言っても、まだまだ私からすると子どもですよ。いつでも叱って差し上げますから、安心して下さい。」

 そう言ってマーサは、ドン、と胸を拳で叩き、勢いあまってむせてしまい、慌てた僕に背中をさすられたのだった。

 マーサと一緒に銀色の魚を拾って籠に入れてゆく。すると、
 〈ロアーズ魚〉
 と頭の中に文字が浮かんだ。

「ロアーズ魚?」
「ああ、そうですよ。これはロアーズ魚というんです。煮ても焼いても美味しいですよ。
 魚なんて久しぶりだから、みんな喜びますね。タップリと身が付いて美味しそう。」

 我が家は父さまとエロイーズさんが肉好きだから、あんまり魚は出ないんだよね。
 でもいくらお高い肉だからって、毎日3食お肉ばっかりは飽きるよねえ。

 キャベンディッシュ侯爵家で働く人たちの為だけに、わざわざ魚を仕入れることはしないから、同じお肉屋さんから、金額の低い肉を仕入れてまかないにしてるんだよね。

 だからキャベンディッシュ侯爵家のまかないは、基本毎日お肉だ。肉好きな人からしたらそのほうが有り難いだろうけどね。

「家にも持って帰ってよ。
 ミーニャにも食べさせたいし。」
「まあ。ありがとうございます。」
 マーサはそう言って、魚がタップリ詰まった籠を運んで行った。

「──それにしても坊っちゃん、どうして部屋で魚なんかと戯れてたんです?」
 魚を料理長に届けたあと、僕のベッドのシーツを変えて、床を雑巾で拭きながら言う。

「その……。僕の貰ったスキルを試してたんだ。そしたら魚が本当に出てきて……。」
「スキル?」

「僕がギフトで貰ったのは、〈海〉っていうユニークスキルだったんだ。」
「〈海〉?聞いたことないですね。」

「うん。神父さまも知らないって言ってた。
 神父さまは、魔法を使うみたいに、イメージを強くすれば使えるかもっておっしゃったから、魚をイメージしたら……、ほんとに出ちゃったんだ。」

「あら!凄いじゃないですか!
 これで食いっぱぐれはありませんね!
 うちの国は海がないから、魚の需要は高いですよ!」
 と、マーサは嬉しそうに言った。

「うん……。これで商人として成功出来たらって思ってる……。それでね、もしも僕が稼げるようになったら、ミーニャを迎えに行きたいと思ってるんだけど……。どうかな?」

 マーサは僕をじっと見つめると、
「ふふ……。それは直接娘に言ってやって下さいな。でも、私は坊っちゃんの気持ちはわかってますよ。私は大歓迎です。」

「──!!ありがとう!」
 僕の初恋は、死んだ母さまとマーサだけが知っている。僕の婚約が決まった日も、マーサが仕方がありませんよと慰めてくれた。

 僕はここを去る前に、ミーニャに告白するつもりでいた。だけど成功するまでにどのくらいかかるか分からない。

 だってミーニャはあんなに可愛らしいんだもの。すぐに誰かに奪われてしまわないとも限らない。というか、それが怖い。

 だから、僕が結婚前提でいること、本気なんだということを、ミーニャの母親であるマーサに知っておいて欲しかったんだ。

 まあ……、僕が振られる可能性だってあるけどさ……。そこは今は考えないでおこう。
 でも最悪のことを考えて、ギリギリまで伝えないでおこう。……うん。
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