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第1章

第3話 スキル〈海〉

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 父さまの話によると、あの水晶玉こそが鑑定用の魔道具なのだそうだ。
 祭司様が大きな声でみんなに言った。
「さあ皆さん、順番に並んでください。」

 僕はミーニャとともに、最後尾に並ぶことにした。前を見ると、みんな緊張した様子で順番を待っている。

 前の子が水晶玉に触れると、青白い光が溢れ出し、祭司さまに自身が与えられた神さまからのギフトである、スキルの名前を祭司さまから告げられるのだ。

 ミーニャはなんと、料理人と、薬師と、弓使いのスキルの3つを与えられていた。
 どれも平民として働くのであれば、食いっぱぐれのないスキルばかりだ。

「……あ、ありがとうございます」
 祭司さまにお礼を言って、ペコリとお辞儀をするミーニャ。そして頭を上げると同時に今度は僕の方を見て壇上で手を振ってきた。

 もしも何かの魔法使いだったら、平民だったとしても、ミーニャを結婚相手に選べるのに……と、コッソリ考えたのはナイショだ。

 オーウェンズ伯爵家との婚約を破棄してまで、ミーニャを選べるわけじゃないからね。
 オフィーリアになんの落ち度もないのに、彼女を社交界で傷物にしてしまうし。

「──3つだなんて凄いじゃないか!
 3つまで貰えることがあると聞いてはいたけど、多くても2つで、1つの人がほとんどだっていうのに!」

 壇上から降りてきたミーニャに駆け寄りそう言うと、ミーニャはえへへ、と、嬉しそうな顔で照れくさそうに笑った。
 ……かあいい。

「はい、次の方どうぞ!」
 祭司様に呼ばれて、僕も階段を上がり、壇上にのぼると、水晶玉の前に向かった。

「はい、それでは水晶玉に触れてください。
 神があなたに与えたギフトを教えて下さいますからね。」

 そう言われて、そっと手をかざしてみた。
 すると──水晶玉の中に、小さな光が生まれた。祭司さまがそれを覗き込む。

「──え?、お、おかしい……。これはいったいどういうことでしょうか……?」
 戸惑ったような声を上げる祭司さま。

 祭司さまは他の祭司さまに声をかけ、別の祭司さまも水晶玉を覗き込んでいる。そうして次から次へと、別の祭司さまが祭壇の上に集まって、何やら話し合っていた。

 何が起こったのか分からず、他の子たちもざわついている。
 僕自身も困惑していた。

「──あなたのスキルは、〈海〉とだけ書かれています。」
 祭司さまが困り顔で言う。

 〈海〉ってなんだろ……。
 聞いたことのないスキルだった。
 皆一様に首を傾げているようだったので、仕方なく質問することにした。

 祭司様に訊ねる。
「〈海〉とはなんですか?」
 すると、祭司さまも不思議そうな顔をして答えてくれた。

「海というのは、リシャーラ王国のはるか南のレグリオ王国の先に広がる、広大な塩水のたまる場所のことです。遥か昔からそこに存在し続けていると言われていて、我々に魚や塩をもたらしてくれるものです。リシャーラ王国に住む人々はみな、海のことを親しみを込めて“母なる海”と呼んでいますよ。」

「いや、海の意味はわかるんです。僕のスキルが〈海〉ってどういうことでしょうか?」
 僕の問いかけに、祭司さまは困った顔を浮かべた。それから少し考えてから口を開く。

「おそらく、あなたは特殊なユニークスキルを持っているんだと思います。かつて聞いたことがない為、発動条件はわかりません。」

「そんな……。」
 よくわからないものを、どうやって使ったらいいんだ?

 ちらりと父さまを振り返ると、何やら難しい表情を浮かべている。少なくとも、父さまが望んでいた火魔法じゃない。しかもそれどころか、魔法スキルですらないなんて。

「ユニークスキルの中には、固有の能力とは別に、特定の条件を満たしたときにしか発動しないものがあるのです。」
 祭司さまに話しかけられ、祭司さまに向き直る。

「あなたの能力は恐らくそれかと。塩や魚を手に入れられるのかも知れませんね。この国にとって必要な能力です。発動出来れば国から保護されるかも知れませんよ?」

 確かに、海のないリシャーラ王国で、塩や魚を出せる能力は、重宝されることだろう。
 けど……。

「でも……。発動条件がわかりません。」
 泣きそうになっている僕に、若い祭司さまたちが話しかけてきた。

「例えば、火魔法のスキルを得たとしても、それだけでは火魔法を使うことはできませんよね。普通は学園で学んでから使います。」
「……はい……。」

「でも、もしもその人の心の中で、元々炎に対する強いイメージがあったとしたら、その人は火魔法のスキルを得ると同時に、火魔法を使うことができるものでもあります。」

「学園の授業は、そうしたイメージを具体化させ、体の中で魔力循環をしやすくさせるのです。属性の素養のない人は、それで魔法が使えるようになるのです。」
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