まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第2部

第61話 一晩で消える家①

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「──家が消えてなくなった?」
 俺は冒険者ギルドから連絡をもらい、久々にまもののおいしゃさんとしての仕事になるかも知れないとのことで、冒険者ギルドへとやって来ていた。受付嬢が手渡してきた依頼票に目を通しながら俺は首を傾げた。

「ええ。ひと晩にして何軒も家が消えるらしいの。朝目が覚めたら、ベッドの上で空を見上げて、天井も壁も何もかもがなくなっているらしいわ。おかしな話でしょう?」
「確かに人間のしわざとは考えにくいな。
 盗賊であれば、家の屋根や壁だけ盗むはずもないからな。」

「……それがね……。そうとも言えないのよ、特にこのチャツグ領ではね。」
「そうとも言えない?」
「ええ。チャツグ領は、チャツグ伯爵のおさめる領地なのだけれど、その半分近くが、なんと砂漠なのよ。」

「半分近くが砂漠?ああ、なんとなく聞いたことはあるな、この国にもそんな場所があるというだけのことは……。」
 元の世界にも砂漠化している国がいくつもあるが、こちらの世界にもそうした砂漠の面積が多い国がたくさんあるらしい。

 ちなみに日本にも鳥取県に鳥取砂丘があるが、あれは実は砂漠じゃない。
 砂漠とは、植物が育つだけのじゅうぶんな雨が降らない土地が、最終的に砂ばかりになったもので、鳥取砂丘は大量の砂が風と海の波で海岸に堆積して出来た砂の山だ。

 鳥取砂丘には雨は降るが、砂を運ぶ強い風によって、砂が動いてしまう。砂が動くと植物は根をはることが出来ない。だから結果として植物が育たないというわけだ。
 チャツグ領は鳥取砂丘とは違い、かなりの面積が普通に砂漠だということだな。

「ここの住民は、森を切り開いて農業をしたり、その木を使って家を建てて住んでいるんだけど、当然切り出せる木は少ないわ。
 だから家の壁を剥がして盗まれた事件というのが、過去にたくさんあったみたいなの。
 盗んで木材として売るためにね。」

「人のしわざとして揉めていると?」
「それと、新しく家を建てようとする人たちや、修繕した家が疑われているみたいね。
 新しい木材は当然高いから、使える廃材や木材を買って建てたり、家を直す人たちも少なくない地域なのよ。」

「なるほどな……。」
「特に2階建ての家が少なくて、屋根は並べて置いた板の上に、編んだ大きめの葉を置いて、上に重しを置いて乗せてるだけだから、なおのことね。家丸ごと壁材なんかを盗もうとした場合、不可能ではない構造なのよ。」
 ずいぶんとシンプルなつくりなんだな。

「壁を解体せずに屋根だけ持ってくつもりなら、それこそ簡単だってことか。」
「砂漠が広がって畑が駄目になったりした場合、すぐにでも引っ越せるように、あえてそうした構造にしているそうなのよ。」
 なるほど、生活の知恵ってやつか。

「確かにそれなら、人間を疑うのも無理はないということが……。だがどうして冒険者ギルドでは、魔物のしわざだと疑ってるんだ?
 この依頼票の出し主は、そのチャツグ伯爵のようだが、チャツグ伯爵からなにか情報を得ているということか?」

「いいえ。正確なことはまだわからないの。
 だから調査を兼ねてということね。
 チャツグ伯爵としては、住民同士のいさかいや、盗難被害よりも、魔物の被害であったほうが、揉めなくて済むから、魔物が原因であると特定したいみたいね。」

「ふむ……。もしもこれが魔物の被害であった場合、考えられる原因と、チャツグ領の特性を踏まえた場合、まもののおいしゃさんの出番だと判断したというわけか。」
「ええ。このあたりでは聞かない魔物だけれど、移動してきた可能性はあるもの。」

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