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第2部

第60話 飴作り職人への新作提案②

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「みんな言ってる!お父さんが死んだから、もうすぐいなくなるって。ほんとのお母さんなら、何しても怒らないのはおかしいって!
 僕のことがどうでもいいから、いなくなるから怒らないんだって!!」
 マーティン君が泣いている。

 子どもになんて残酷なことを言うんだろうか。マーティンくんはそれを真に受けてしまったんだな。それでなんとかカリーナさんを怒らせようと、あんな風にイタズラをするようになったんだ。──怒って欲しくて。
 いなくならないと、言って欲しくて。

「い……いなくなるわけないでしょう!?
 アンタはあの人と結婚した時から、──いいえ結婚すると決める前から、あたしが守るって決めたのよ!誰がなんと言おうと、アンタはあたしの息子なのよ!馬鹿!──馬鹿馬鹿馬鹿!こんなに心配させて……!!」

 カリーナさんがボロボロと泣き出す。
「早く……戻って来なさい、馬鹿息子!」
「お、お母さ……ん。──お母さん!!」
 マーティン君が大泣きしながら、こちらに駆け寄って来る。魔物の横を通り過ぎようとしたマーティン君を、偽物のカリーナさんがくるりと振り返って見た。

「は、早く倒して!倒してください!
 あの子が!マーティンが!!」
「──って、いやいや、それ、討伐しなくとも、何とかなりますよ?」
「──え?」
 俺の言葉にカリーナさんがキョトン顔だ。

「そうだよな?お前はマーティン君と、遊んでやっていただけだものな。正体をそろそろ表せ、ウィロウスペクター。」
 俺の言葉に、偽物のカリーナさんがニッコリと微笑むと、重なり合ったいくつもの緑色の植物の魔物の姿へと変化した。

 ウィロウスペクター。いわば柳という植物の魔物だ。年月の経過により年老いた柳は、元の世界でも人に化けることがあるとされているが、子どもと遊んでやったりして、悪い妖怪ではない。こちらの世界のウィロウスペクターも、自分の身を守る為に相手を驚かせる目的で、相手の姿に化ける魔物なんだ。

 攻撃性は低く、時に泣いている子どもをあやしてくれることもあるとされている。
 一人ぼっちで山に入って泣いていたマーティン君と一緒に遊んでやったりして、慰めてくれていたのだろう。その姿が再び変わり、若い男性の姿へと変化した。

「あなた……!!」
「マークス……!!」
 カリーナさんとゲッヘルさんが、同時に驚いた。この姿は、以前に旦那さんが山に入った時に、真似して記憶した姿だろう。この姿でマーティン君と遊んでくれていたんだな。

「……お父さん、もう、だいじょうぶだよ。
 お母さん、どこにも行かないって!!」
 マーティン君が笑うと、マークスさんの姿のウィロウスペクターもニッコリ笑って、その姿を消した。

「今のは……、本当に彼だったの?」
「一体何が……。」
 カリーナさんもゲッヘルさんも、ウィロウスペクターの幻影に呆然としている。
 明るいところでよく見ると、重なり合っているのが、実はよく分かるんだけどな。

「あれはウィロウスペクターという植物の魔物です。子どもと遊んでくれる魔物で、悪い存在ではありません。当然魂も抜きません。
 自分の身を守る為に、ああして相手の真似をして、驚かせる習性があるんです。」
「悪くない魔物もいるんですね……。」

「それだけじゃないですよ?
 あれはきっと、飴が飴だけで売れるようになる手助けにもなる筈です。」
「飴が飴だけで売れるようになる?
 あいつの素材を使うのか?」

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