まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第2部

第59話 魂を抜く魔物①

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 俺は歩いてルーフェン村に戻ると、俺の家の屋根の上で警戒してくれているリッチにただいまと言った。リッチは一度俺のところに飛んで来て、俺にスリスリした後で、また屋根の上へと羽ばたいて戻って行った。

 俺がいない時は、こうして村全体を見守ってくれている。餌は自分で取るので、特に誰かに世話して貰う必要がないんだが、村長いわく、時々村人たちが餌をくれることがあるらしい。リッチは子どもたちにも大人気だから、時々遊んだりもしているそうだ。

 そのままリリアを預けている村長の家へと向かい、馬車を無事に購入出来たことの報告と、リリアを預かってくれたことにお礼を言った。リスタは休みを終えて、ランウェイとともに獣の檻に戻って行ったので、今は2人ともルーフェン村にはいない。

 村長とリリアに、明日からしばらく旅に出るつもりなこと、旅先でリッチの誕生日プレゼントの為のお菓子を手に入れたいこと、だがその場所が今少し危険らしく、リリアを連れては行かれないこと、その間村長の家でリリアを預かって欲しいとお願いをした。

 村長は、もちろん構わんよ、と言ってくれた。冒険者をしていた時はずっと村長の家で預かって貰っていたが、長く預けるのは久し振りのことだ。リリアは少し寂しそうにしながらも、リッチもお誕生日プレゼント欲しいもんね、とうなずきながら言ってくれた。

 リリアは最近、リッチの誕生日プレゼントの為に、こっそり絵を描いてくれているのを俺は知っている。リッチに絵が分かるかは分からないが、リッチを家族として愛してくれている、リリアの気持ちが嬉しかった。

 こうして俺は、リッチの誕生日プレゼントのニャラララを買う為に、マニャーラ地方へと出かけることとなった。今回の旅の同行者はリッチだけだ。馬車に揺られて近くの山のふもとの村までたどり着くと、やはり山を越える馬車は今は出ていないらしい。

 魂を吸い取る魔物を恐れて、馬車を走らせる御者がおらず、何より馬がその魔物を恐れて逃げちまうらしい。山の真上で馬車や荷物を放り出されて馬に置いていかれたら、馬車を動かせなくてどうしようもないからな。

 仕方なく、山道を歩いて登ることにする。
 まあまあ急勾配な坂道で、そこそこに高い山だから、山頂が近付くにつれて汗が吹き出てくる。途中の切り株の上に腰をおろして、リッチにも休憩を取らせることにした。リッチの首にいつもと違う護符が光っている。

 気持ちの良い風が通り抜けて、汗ばんだ体を冷やしてくれる。グビグビと水を飲み、リッチにも水を飲ませてやった。
 木の上から他の鳥の魔物がこちらを何種類も見下ろしていたが、リッチがいるので近付いてはこない。

 ロックバードは仲間意識が強くて、自分を攻撃されるよりも、仲間を攻撃されたほうが執拗に相手を攻撃するようになる。例え自分が死にかけようとも追ってくるのだ。それが分かっているから、自分たちの巣に近付かれでもしない限り、鳥の魔物が寄ってこない。

 野生の熊が犬を恐れるのも、過去に野良犬の集団に襲われたり、母熊から犬の怖さを聞いていたりすると、犬が一匹だけでも怖がるようになるんだ。それと一緒だな。
 犬は集団で襲って来る生き物だ。3匹もいれば、1匹が前で気を引き、残りの2匹が本能で熊のアキレス腱を狙う。アキレス腱が切れたら、動けなくなるのを知っているんだ。

 足に気を取られれば、前から喉笛を狙ってくる。その面倒臭さと執拗さ、恐ろしさを知っているから、熊は犬を怖がるんだ。
 最近は野犬狩りで野良犬がいなくなったことで、犬の怖さを知らない熊が増えて、むしろ犬を連れてると、熊の興味を引いて襲われるようになっちまったけどな。

「うわあぁああ~!!」
「で、出たあ~!!」
 その時、冒険者らしき格好の若い男性2人が、山頂から転げるように駆け下りて来た。
「──リッチ!」
 リッチはすぐに飛び上がり、山頂へと偵察の為に飛んで行った。

「どうなさったんですか!?」
 恐らく冒険者ギルドから偵察の依頼を受けた人たちだろう。例の魔物に遭遇したのか?
「おおお、俺が、俺がいた……!!」
「魂を抜かれた!死んじまうんだぁ!!」
 自分がいた?ドッペルゲンガーか?

 ドッペルゲンガーは自分にそっくりの姿の人間が目の前に現れ、見た人は死ぬという魔物だが、実際のところそれは自分の抜けた魂を見ているのだ。ソックリ同じで当たり前。
 抜けた魂を見ているのだから、魂が抜けた人は当然近々死んでしまうというものだ。

 魂を吸い取る魔物というよりも、そこがそういう空間になっていて、空間自体が魔物な感じだな。霧タイプの魔物に近い。
 その場に来た人間は、魂が体から離れやすくなっちまうんだ。特に吸い取るわけじゃないから、魂を奪われたりはしない。専用の護符を持っていれば防げる話なんだ。

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