まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第2部

56話 ゴミ捨て町の再生事業②

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 ロベルタさんにDランク以上のテイマーをひとりお願いしたのには理由がある。もちろんギィたちホブゴブリンを、テイマーにテイムして貰う為ではない。テイムするのであれば、テイマーひとりにつき、魔物1体しかテイム出来ないのだから、テイムするつもりであれば、群れ全体の数だけテイマーが必要になるし、ギィはAランク以上のテイマーじゃないと、テイムするのは無理だろうからな。

 テイマーは師匠についてテイマーの知識を得る時に、すべての生き物について勉強するから、一般人よりは生き物について詳しいのだ。俺自身、前世の知識に加えて、この世界にどんな特性を持つ生き物が存在するのかを知っている。だから俺は、俺がいなくても対応してくれるテイマーを頼んだのだ。

 養殖をしている漁師がこの世界にいれば、そのほうが早いんだが、とるばかりで養殖をするという知識がない。だがテイマーなら少し教えれば、その代わりが出来るからな。
 テイムした魔物を生かす為に、好物の生き物を増やすなんてのは当たり前の事なのだ。
 養殖は時間のかかる事業だ。ずっと俺がついているわけにもいかないしな。

「こんな感じでいいですか?」
 シスターエンノが紹介してくれた、この町の孤児院出身のテイマー、ニックさんが俺にアキビスの貝類で作った原盤を見せてくる。
「ああ、だいじょうぶだ。」
 彼はCランクだと聞くが、なかなかどうして知識の飲み込みが早い。

 ダンジョンに潜るよりも、この町の為になること、ギィたちの為になることを選び、ラパァの養殖事業に名乗りを上げてくれた。
 牡蠣が放卵するのは7~8月頃。ラパァが6~8月だ。幼生と呼ばれる牡蠣の赤ちゃんは、約2週間ほど海を浮遊したのち、岩壁や岩礁などにくっつく性質を持っている。ラパァで3日から1週間ほどだ。

 この性質を活かし、牡蠣の赤ちゃんが集まりやすい場所に原盤を投入すると、ホタテの貝殻に牡蠣の赤ちゃんがくっついてくる。それを回収するのだ。ラパァも同じ仕組みで、アキビスにくっついた赤ちゃんを回収する。
 あまり貝殻に幼生がつきすぎてもダメなので、数日海に入れたのち、採苗した赤ちゃんを、原盤ごと浅瀬のほうに移動してやる。

 これを抑制といい、潮の満ち引きを利用して、強い種に鍛えあげることが目的だ。過酷な環境に晒すことで、弱い種はこの段階で死んでしまうが、養殖には必要な過程だ。
 春先になると、抑制にかけた牡蠣が付着したホタテの貝殻をロープに挟む、種はさみという作業をおこなう。

 1枚1枚を一定の間隔で挟み込んでいき、種はさみしたものは、次の工程である沖出しの時期まで、再び湾内の穏やかな場所で育てるのだ。これを仮殖と呼ぶ。
 浅瀬で育ててやらないと、大きく育つ前にムール貝や昆布などが付着してしまい、牡蠣の成長を邪魔しちまうからな。

 この世界にも似た生き物がいるから、ラパァの生育の邪魔になるのだ。
 1年経ち、また夏になったら、牡蠣を沖にある漁場へ移動させてやる。これを沖出しといい、ロープを1本1本伸ばし、海に垂下するのだ。これをラパァでも同じくやる。
 身肉を大きく育てたい牡蠣は、沖出しまでに2年間、仮殖で育ててやる。

 最後の仕上げとして、沖出しで潮通りの良い沖の漁場で波に揉まれ、湾内とはまた違った栄養をたっぷり吸収し、さらにおいしく、プリップリに育っていくのだ。
 グジャナの町の海は泳ぐ人もいないから、養殖にピッタリな静かな海が広がっている。それを使わない手はないからな。

「ギィ。」
「うん、ギィも上手だぞ、さすがだな。」
 ギィは以前戦うことが出来なかった。だがあの頃から人間の真似をするのがとっても上手だったのだ。器用に原盤を作り出しては、嬉しそうに俺に見せてくれる。ギィの頭を撫でてやると、嬉しそうにギィ、と言った。

 ギィの息子さんも真似して上手に原盤を作り、ギィに見せている。手先が器用なのはお父さん譲りだな。ギィが俺の真似をして息子さんを撫でてやると、ギィの息子さんも嬉しそうに笑った。ギィの奥さんは少し苦戦しているらしく、リスタが手伝ってやっていた。

「よし、たくさん出来たな。じゃあこれを海に沈めにいこうか。」
 ゾロゾロとみんなで海に移動すると、用意されていた小舟に乗って、原盤を沈める場所まで移動する。ここからの作業はホブゴブリンたちにも手伝って貰うのだ。

 原盤を海に沈める作業は、漁師をやっている孤児院出身の大人たちが手伝ってくれた。
 ギィたちホブゴブリンが、見様見真似で原盤を海に沈めていく。あとはみんな次第だ。
「さて、次は焼いた貝殻を取りに行こうか。
 ギィたちはちょっと待っててくれ。」
 俺はリスタと町民たちをともなって、貝殻を焼いてくれている家を回った。

「はい、ご注文どおり、洗ったラパァの貝殻を焼いて冷ましたもんを袋に詰めといたよ。
 こんなのいったいなんにするんだい?」
「ちょっと肥料と鳥の餌を作りたくて。」
 ロベルタさんから渡された袋に、たくさんのラパァの貝殻を焼いて冷ましたものが詰められたものを、おばさんから受け取った。

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