まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第2部

第55話 風呂好きの魔物②

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 すると、花をつんでいる子どものホブゴブリンの姿が見えた。黒い大きい目が愛らしく、凶暴性がひと欠片も見えない。俺はその姿を見て、どこか見覚えのある気がした。
「──ギィ!?まさかギィなの!?」
 リスタが思わず大きな声を出して、ホブゴブリンの子どもに駆け寄ろうとした瞬間、怯えたホブゴブリンの子どもは、つんだ花束を持ったまま俺たちに背を向けて逃げ出した。

 ギィ!!そうか、ギィだ!!
 俺たちがまだギルドも作っていない、駆け出しの冒険者だった頃、ダンジョンで迷子になっていたのを守る為に、2番目にテイムした魔物。戦いには何の役にも立たなかったけれど、みんなを和ませてくれた可愛い子だ。

 ラヴァロックで沸かした簡易の風呂に入れてやったらすっかり気に入って、風呂好きになったホブゴブリン。
 その後親が見つかりダンジョンで別れたきりだ。テイムから開放したのに、俺たちと別れることを寂しがって泣いていたあの子が、なぜ昔と変わらない姿でここに?

「ギィ!待ってくれ!俺だ!アスガルドだ!
 昔お前を風呂に入れてやっただろう?」
 俺は慌てて逃げるギィの後ろ姿を追いかけたがギィは素早くサッと木の間に入り、逃げてしまう。リスタも俺の後ろを追いかけて走って来たが、俺と同じく見失ってしまった。

「ダンジョンの中にいたギィが、どうしてこんなところに……。グジャナのダンジョンとつながっているとでもいうの?」
「分からない……。中に入った冒険者たちはホブゴブリンしかいなかったと言っていたそうだが、普通のダンジョンなら、1種類しか魔物がいないなんてありえないからな。」

 すると、花束を手に持ったギィが、オズオズと木の間から出てきてこちらを見ていた。
「──ギィ!!……ギィ?」
 ギィの後ろに大人のホブゴブリンがいた。
 大人と言っても、ゴブリンやホブゴブリンのサイズなんかじゃない。ゴブリンジェネラル、いや、ゴブリンキングと言ってもいいくらいの、人間よりも大きなサイズだった。

 こんなにも大きなゴブリンを見るのは久し振りだ。それもこんな人里近くで。人里近くにわく魔物には、ゴブリンジェネラルも、ゴブリンキングも存在しない。こんなのがいると知られたら、即討伐対象になるだろう。
「ギ、ギギ……。」
 巨大なホブゴブリンが俺たちを見下ろす。

「ギィ~!!ギッギィ~!!」
 巨大なホブゴブリンが、突然泣きながら俺に抱きついて来た。──まるで小さな子どものように。あっけに取られるロベルタさん。
「まさか……、お前がギィなのか?」
「ギッ、ギギッ!!」
 ホブゴブリンは泣きながら俺にうなずく。

「……そうか……!大きくなったなあ。
 あれはお前の子どもなのか?
 小さい時のお前にそっくりじゃないか。」
 俺はギィを撫でてやった。
「そんなに泣くな、ギィ。もうお父さんなんだろう?子どもの前でお父さんがそんなに泣いてちゃ、恥ずかしいぞ?」

 ギィの子どもは、泣いている父親を不思議そうに見上げていた。
「人間の子どもを助けていたホブゴブリンっていうのは、ひょっとしてお前なのか?」
「ギッ?」
 ギィは不思議そうに首をかしげた。心当たりがないのかな?この大きさだし、ギィが群れのボスだと思ったんだが……。

「はい、彼で間違いありません。僕を……、僕たちを助けてくれたホブゴブリンは。ですが、なぜか群れが大人に危害をくわえるんです。彼以外のホブゴブリンも、子どもには絶対的な味方でいてくれるのですが……。
 それと、最初に子どもの時に出会った人間には、大人になっても危害を加えません。」

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