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第2部

第54話 ゴミ捨て町の町長②

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「僕もその1人でした……。とある魔物が子どもたちに、食べ物や金品を持ってきてくれるようになったんです。僕はそれを元手に商売を始めました。そうしてゴミ以外のものも食べられるようになり、僕はこの町の商人の頂点に立ちました。僕はこの町を変えたかった。だから町長に立候補したんです。」

 だからこんなに若くして、町長になれたのか。そういう事情であれば、グジャナの町は孤児出身者ばかりということになる。
 孤児出身者たちが、みんなロベルタさんを支持したんだな。このグジャナの町を変える為に。捨てられる未来の子どもたちの為に。

「でも……、同時に魔物に苦しめられているのよね?それはどうしてなのかしら?」
 リスタが疑問を口にする。
「僕たちを、あっ、私たちを、」
「僕でよろしいですよ?」
 昔話をすることで、ついつい一人称が公人に相応しくなくなってしまっていたことに気が付いたロベルタさんが、わざわざ言い直したのを、半分握りかけたような手で制する。

「……僕たちを助けてくれた魔物は、今はこの周辺の魔物のボスになっているようなんです。ですが、数が増えたことで、言うことを聞かない奴らも現れる。そいつらが悪さをすることで、困らされた人々が、魔物の討伐依頼を出そうとしているんです。お金がありませんから依頼には至ってはいませんが、なんとかしなくては、と思いました。」

「個人で頼むことは出来なくとも、町で対応する必要のある規模であると、冒険者ギルドが判断した場合、町長として公費を捻出しなくてはならなくなるからですね?」
 ロベルタさんがコックリとうなずく。
「……そうなれば、もう僕の手は届かなくなります。ただ、公費を捻出する手続きをするのみにとどまってしまう。何か出来るとすれば、今をおいて他にありません。」

「自分たちを救ってくれた魔物を、なんとか討伐させずに助けたい、だから俺に頼んだのですね?ともに長年生きてきた魔物だからこそ、共生活用の余地があるはずだと。」
「はい、お願い出来ますでしょうか?」
「それは一度見てみないとなんとも申し上げられませんが、案内していただけませんか?その子どもたちを救った魔物のところに。」

「分かりました。ご案内します。」
 ロベルタさんが椅子から立ち上がり、ちょっと出かけてくるよ、シスターエンノに伝えておいて、とナタリアさんに告げた。
 俺たちはロベルタさんの馬車に揺られて、子どもたちを救ったという、魔物のところに向かうことになった。

「ちなみにそれは、どんな魔物なのですか?
 皆さんの前に姿をあらわすのでしょうか。
 特徴とかは分かりますか?」
「はい、彼はホブゴブリンです。奥さんと子どももいます。ゴブリンとオークはメスが生まれることが少ないので、番いになっている個体は少ないのですが、彼はボスなので。」

 ホブゴブリンか……。
 ゴブリンには種類がある。一般的に子ども程度の身長だが、頭だけは大人の大きさで、緑色の肌をしている。エルフのような尖った耳をしていて、エルフよりは幅が太い。
 二足歩行で知能が低いとされているが、動物よりは知性が高く、棍棒などの鈍器を使って攻撃してくるが、罠を使ったり、ゴブリンメイジのような魔法を使うものもいる。

 腰布程度の衣服を身に着けていることもある。ギィギィと警戒音の様な音に聞こえるゴブリン語と呼ばれる独自言語を話す。
 ボスは群れで一番強い固体がつとめ、群れ全体がボスの意思に従って狩りをする。
 ボスを倒すことで新たなボスになることもできるが、その場合は1対1で戦わなくてはならず、群れで最も多くの餌を食い、最も良い武器を持つボスに勝つのは至難のわざだ。

 他の群れと遭遇した時はボス同士が戦いあい、負けた群れは勝った群れに吸収され、負けたボスは放逐される。その際ボスは、ゴブリンキングや、ゴブリンジェネラルなどに進化することがある。
 金品を奪い、女性を襲い、家畜を食べるとされるゴブリンの中でも、ホブゴブリンは人の手助けをすることがある種族だ。

 それでもまったく人を襲わないわけではないので、冒険者ギルドでは討伐対象になっている。ボスが人を助ける個体であっても、それに従わない個体が人々を困らせているということか。ゴブリンは風呂に入らないから、人里にいられると臭いからという理由で、忌み嫌われたりもするからな。

「そろそろ彼らの住処につきます。近くにダンジョンがあって、そこで暮らしたり、町中に出てきているようです。ダンジョンの中に入った冒険者もいましたが、中にはホブゴブリンしかいなかったようですね。大勢に追っかけ回されて、逃げて来たようですが。」
 ふむ、だからなのかな?俺は馬車の窓を開けて外の空気のニオイをかいだ。

「彼らは日頃はほとんどダンジョンの中で過ごしているということでしょうか?ゴブリンもホブゴブリンも、ニオイがかなりキツイ筈ですが、ここまで近付いても、まったく特徴的な彼らのニオイがしませんね?」
「……ほんとだわ。」
 リスタも窓の外の空気をかいで言った。

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