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第2部
第54話 ゴミ捨て町の町長①
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「ただいま戻りました、エンノさん。」
ロベルタさんはエンノさんと呼ばれたシスターに笑顔で挨拶をすると、
「──さ、中にどうぞ。」
と俺とリスタを教会の中へと誘導した。
シスターよりも先に教会の中に入るロベルタさんに、俺とリスタは顔を見合わせつつもロベルタさんに続いて教会の中へと入った。
「ロベルタおにいちゃん!」
「お帰りなさーい!」
「今日ね、僕ね!」
「遊んで!ロベルタおにいちゃん!」
「こらこら、お客様だぞ?後でな。」
ロベルタさんに群がるように、笑顔の子どもたちが次々と腕を引っ張っている。
シスターエンノにうながされ、子どもたちは渋々教会の奥へと連れられて行った。
「──この子たちは全員孤児なんです。
そしてこの僕も、ここの出身なんです。」
ロベルタさんは子どもたちに手を振って見送りながら、俺たちに背を向けて言った。
「そうでしたか……。」
孤児だった少年が町長にまで登りつめた話は初めて聞いた。後ろ盾がないから、普通は仕事につくことすらままならないと聞く。
このロベルタさんという青年は、並々ならぬ努力家で、本当に心から優しい人なのだろう。子どもたちに慕われている様子からもそれが分かる。
シスターエンノが入って行った扉の奥から可愛らしい女の子が出てきて、
「ロベルタさん、お茶の準備が出来ました。
みなさんも奥へどうぞ?」
と言った。
ロベルタさんについて扉の奥へと進むと、中は広い廊下になっていて、一番奥から子どもたちの声が聞こえている。
手前の部屋に、どうぞ?と案内されると、テーブルと椅子が置かれた、ちょっとした面会室のような小部屋になっていた。
椅子に座った俺とリスタ、ロベルタさんに少女がお茶を出すと、
「ありがとうナタリア、君も座ってくれ。」
ロベルタさんが少女にそう言って、ナタリアさんはお茶を乗せていた板を、膝の上に縦に乗せて椅子に座った。
「これは君がどうぞ?」
ロベルタさんは自分の前に置かれたお茶をナタリアさんの前にスッと移動させた。
ナタリアさんはコクンとうなずくと、お茶のカップを両手で持ちながら一口飲んだ。
「──それで、今回アスガルドさんにお願いをしたかった理由なのですが。」
ロベルタさんが俺たちに向き直って言う。
「先程、僕も──この私も、ここの教会の出身で、孤児であったことをお伝えしたかと思います。ちなみにこのグジャナの町には、どれだけの孤児がいると思いますか?」
ロベルタさんがじっと俺の目の奥を見てくる。俺は困惑しつつも、
「……普通は1つの町だと、多くても30人程度がいるものだと聞いています。」
と言った。
「ええ。普通はそんなものでしょうね。実際グジャナの規模であれば、20人がいいところでしょう。──ですが、この教会には100人以上の子どもたちがいるのです。」
「──100人ですって!?」
ずいぶんと大きな教会だとは思っていた。
だが子どもたちの数があまりに異常だ。
「まさか……魔物に親が襲われたというの?だからこんなにもたくさんの孤児が……。」
リスタの言葉に、ロベルタさんはテーブルの上に肘をつき、指を組んで首を振った。
「いいえ……。ここの子どもたちは、全員親が直接教会の前に捨てて行った子たちばかりです。逆にグジャナの町の周辺の町には、どれだけの孤児がいると思いますか?」
俺を試すように、じっと見てくるロベルタさん。
「まさか……。周辺の町のすべての孤児が、この教会に……?」
「ええ。そのまさかです。グジャナの町は別名、ゴミ捨て町。必要のないものを、周辺の町がすべて捨てていくんですよ。──たとえ自分のこどもであろうとね。」
「よその町まで行って、わざわざ自分のこどもを捨てるですって!?」
「グジャナの町とその周辺には、独特の宗教が根付いています。この町に捨てたものは浄化され、捨てたものも捨てられたものも救われる。罪悪感を払拭する為に、昔の人が作ったんでしょうね。このことはグジャナの町と、その周辺の町の間の公然の秘密です。」
「だから、アゾルガの港の町長が、俺に連絡を取ろうとしたんですか?
アゾルガの港も、グジャナの町に子どもたちを捨てていたから……。」
やけに綺麗な町だった。ゴミひとつなくて風光明媚な観光名所。──その影で、犠牲になっている町があっただなんて。
「そういうことになります。
クラーケン塩で儲かり出してから、アゾルガからの捨て子はなくなりましたけどね。
アゾルガの港の町長は、子どもたちをグジャナに捨てることを良しとしていません。
ですが実際多くの子どもたちが捨てられているという現状に、グジャナの町からの応援要請に、手を貸したというわけなんです。」
ロベルタさんは組んだ指に顎を乗せてそう言った。
「グジャナは少し前まで、他の町が捨てたゴミを食べて暮らす町でした。それがある時から変わったんです。──それが、私たちが魔物を助けて欲しいと思う理由です。」
「魔物があなた方に……グジャナの町に手を貸した、ということですか?」
俺の言葉にロベルタさんがうなずいた。
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ロベルタさんはエンノさんと呼ばれたシスターに笑顔で挨拶をすると、
「──さ、中にどうぞ。」
と俺とリスタを教会の中へと誘導した。
シスターよりも先に教会の中に入るロベルタさんに、俺とリスタは顔を見合わせつつもロベルタさんに続いて教会の中へと入った。
「ロベルタおにいちゃん!」
「お帰りなさーい!」
「今日ね、僕ね!」
「遊んで!ロベルタおにいちゃん!」
「こらこら、お客様だぞ?後でな。」
ロベルタさんに群がるように、笑顔の子どもたちが次々と腕を引っ張っている。
シスターエンノにうながされ、子どもたちは渋々教会の奥へと連れられて行った。
「──この子たちは全員孤児なんです。
そしてこの僕も、ここの出身なんです。」
ロベルタさんは子どもたちに手を振って見送りながら、俺たちに背を向けて言った。
「そうでしたか……。」
孤児だった少年が町長にまで登りつめた話は初めて聞いた。後ろ盾がないから、普通は仕事につくことすらままならないと聞く。
このロベルタさんという青年は、並々ならぬ努力家で、本当に心から優しい人なのだろう。子どもたちに慕われている様子からもそれが分かる。
シスターエンノが入って行った扉の奥から可愛らしい女の子が出てきて、
「ロベルタさん、お茶の準備が出来ました。
みなさんも奥へどうぞ?」
と言った。
ロベルタさんについて扉の奥へと進むと、中は広い廊下になっていて、一番奥から子どもたちの声が聞こえている。
手前の部屋に、どうぞ?と案内されると、テーブルと椅子が置かれた、ちょっとした面会室のような小部屋になっていた。
椅子に座った俺とリスタ、ロベルタさんに少女がお茶を出すと、
「ありがとうナタリア、君も座ってくれ。」
ロベルタさんが少女にそう言って、ナタリアさんはお茶を乗せていた板を、膝の上に縦に乗せて椅子に座った。
「これは君がどうぞ?」
ロベルタさんは自分の前に置かれたお茶をナタリアさんの前にスッと移動させた。
ナタリアさんはコクンとうなずくと、お茶のカップを両手で持ちながら一口飲んだ。
「──それで、今回アスガルドさんにお願いをしたかった理由なのですが。」
ロベルタさんが俺たちに向き直って言う。
「先程、僕も──この私も、ここの教会の出身で、孤児であったことをお伝えしたかと思います。ちなみにこのグジャナの町には、どれだけの孤児がいると思いますか?」
ロベルタさんがじっと俺の目の奥を見てくる。俺は困惑しつつも、
「……普通は1つの町だと、多くても30人程度がいるものだと聞いています。」
と言った。
「ええ。普通はそんなものでしょうね。実際グジャナの規模であれば、20人がいいところでしょう。──ですが、この教会には100人以上の子どもたちがいるのです。」
「──100人ですって!?」
ずいぶんと大きな教会だとは思っていた。
だが子どもたちの数があまりに異常だ。
「まさか……魔物に親が襲われたというの?だからこんなにもたくさんの孤児が……。」
リスタの言葉に、ロベルタさんはテーブルの上に肘をつき、指を組んで首を振った。
「いいえ……。ここの子どもたちは、全員親が直接教会の前に捨てて行った子たちばかりです。逆にグジャナの町の周辺の町には、どれだけの孤児がいると思いますか?」
俺を試すように、じっと見てくるロベルタさん。
「まさか……。周辺の町のすべての孤児が、この教会に……?」
「ええ。そのまさかです。グジャナの町は別名、ゴミ捨て町。必要のないものを、周辺の町がすべて捨てていくんですよ。──たとえ自分のこどもであろうとね。」
「よその町まで行って、わざわざ自分のこどもを捨てるですって!?」
「グジャナの町とその周辺には、独特の宗教が根付いています。この町に捨てたものは浄化され、捨てたものも捨てられたものも救われる。罪悪感を払拭する為に、昔の人が作ったんでしょうね。このことはグジャナの町と、その周辺の町の間の公然の秘密です。」
「だから、アゾルガの港の町長が、俺に連絡を取ろうとしたんですか?
アゾルガの港も、グジャナの町に子どもたちを捨てていたから……。」
やけに綺麗な町だった。ゴミひとつなくて風光明媚な観光名所。──その影で、犠牲になっている町があっただなんて。
「そういうことになります。
クラーケン塩で儲かり出してから、アゾルガからの捨て子はなくなりましたけどね。
アゾルガの港の町長は、子どもたちをグジャナに捨てることを良しとしていません。
ですが実際多くの子どもたちが捨てられているという現状に、グジャナの町からの応援要請に、手を貸したというわけなんです。」
ロベルタさんは組んだ指に顎を乗せてそう言った。
「グジャナは少し前まで、他の町が捨てたゴミを食べて暮らす町でした。それがある時から変わったんです。──それが、私たちが魔物を助けて欲しいと思う理由です。」
「魔物があなた方に……グジャナの町に手を貸した、ということですか?」
俺の言葉にロベルタさんがうなずいた。
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