106 / 134
第2部
第52話 魔物を救いたい町②
しおりを挟む
うつむくリスタは何も言わなかった。──どうしたんだ?リリアが俺の服の裾を引っ張って、お父さん、帰ろう?と言い出すまで、俺もリスタの反応を待ってじっとしていた。
「──ああ!
アスガルドさん!遅れて申し訳ない!」
そこに店の前に馬車がとまり、馬車から降りたロリズリー男爵が走ってくる。
「──ご挨拶出来ないかと思いました。」
俺のもうひとつの目的が、ロリズリー男爵に会うことだった。俺はロリズリー男爵に呼び出されていたのだ。理由は分からないが、俺に頼みたいことがあるとのことだった。ついでに食事とリスタの服を買いに来たのだ。
先にリスタの服の買い物を済ませ、待ちながらのんびりと食事をしていたのだが、いつまで経ってもロリズリー男爵は来なかった。
予約が必要な人気店のテーブルを、いつまでも待ちあわせで占領しているわけにもいかないと、仕方なく店を出たところだった。
「いやはや、申し訳ない。出かける前にも連絡が入りましてな。アスガルドさんにも関係のあることでしたので、内容を確認してから行こうと思っていたら遅れてしまって。」
「──俺に関係のあること、ですか?」
なぜロリズリー男爵のところに?
「あれからクラーケン塩に携わったところとは交流がありましてな。アゾルガ港と交流のある、グジャナという町なんですが、魔物に苦しめられて困っているようなんです。
ですが、アスガルドさんに依頼をしようとしたら、冒険者ギルドに断られてしまったらしくて、それでアゾルガの町長を通じて、私のところに連絡が……。」
「活用共生検討の余地がないと、冒険者ギルドが判断したのであれば、俺の耳に届く前に断られるでしょうね。今はそういう流れで受付しているので……。」
「ええ、ええ。そうだと思います。
ですが、活用共生の依頼とは少し違ってまして。だからギルドも困惑したのかも知れません。グジャナの町が言うには、このままだと魔物が退治されてしまうので、どうにか救って欲しいと、こう言うんですよ。」
「──救って欲しい?魔物をですか?」
「町長を通じてわざわざ連絡ですって?」
俺とリスタは驚いて目をみはった。それはグジャナの町からの正式の依頼ということになる。なぜ、町が魔物を助けようとしているのか?いまだかつてそんな依頼は受けたことがないし、想定もしていなかった。
活用共生の依頼とは、確かに少し異なる。
それは魔物の存在が、人々の生活に組み込むことが出来ようと出来まいと、魔物の命を優先するということなのだから。
「分からないな……。なぜそんな依頼を町がしてくるんだろうか。町民の総意なのか?
個人ならともかく……。」
「もともと活用共生していなければ、出てこない言葉よね。なのに一方では、魔物に苦しめられて困っているとも言っているのよね。
矛盾しているわ……。訳がわからない。」
「確かにな……。」
俺とリスタは首をひねった。
「いかがでしょう?一度見に行っていただくことは出来ますでしょうか?
私もちょっと気になっているのです。
活用共生の条件は、一度アスガルドさんにお願いをしたことのある人間なら誰しも把握していることです。それなのに、既に断られたと分かった上で、アゾルガの町長がお願いをしてくるというのが、何故なのかを。」
「確かにそれはそうですね……。
分かりました。
俺が力になれるかは分かりませんが、一度グジャナの町に行ってみようと思います。
リスタ、すまんがついて来てくれるか?
もしも俺1人じゃ無理だった場合に、お前の力を借りたいんだ。退治の可能性もあるから、危険な仕事になるかも知れない。」
「ええ。もちろんよ。勉強させて貰うわ。」
「では、2人分の宿を用意していただけるよう、グジャナの町に伝えていただけますか?
冒険者ギルドには俺から話しておきます。」
「──ふ、2人分の宿!?」
「アゾルガの港にはリスタも行っただろう?
確かグジャナはアゾルガ港の近くだから、泊まりじゃないと行かれないぞ?」
「そ、そうよね、そうだったわね。」
リスタは真っ赤になってうつむいた。
「分かりました、私の方からアゾルガの町長を通じて、グジャナに伝えておきますね。」
「よろしくおねがいします。」
──リスタが俺の袖を引っ張る。
「アスガルド、あの、その、帰りに服屋に寄ってもいいかしら?」
「え?また服を買うのか?」
「そ、その、部屋着とか、色々……。」
「ああ、まだ時間もあるし、リリアも眠そうじゃないし、別に構わないが。」
リスタの様子を見たロリズリー男爵が、リスタに近寄り声をかけた。
「──レディー?よろしければ、私の娘の行きつけだった店をご紹介致しましょうか?
肌着から何から、すべてが揃う店です。
若い貴族の女性に人気の店ですよ。」
「──!!ぜひおねがいします!!」
ロリズリー男爵と謎の会話をしたリスタとリリアと共に、なぜかロリズリー男爵の馬車で婦人服店に向かうことになったのだった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
「──ああ!
アスガルドさん!遅れて申し訳ない!」
そこに店の前に馬車がとまり、馬車から降りたロリズリー男爵が走ってくる。
「──ご挨拶出来ないかと思いました。」
俺のもうひとつの目的が、ロリズリー男爵に会うことだった。俺はロリズリー男爵に呼び出されていたのだ。理由は分からないが、俺に頼みたいことがあるとのことだった。ついでに食事とリスタの服を買いに来たのだ。
先にリスタの服の買い物を済ませ、待ちながらのんびりと食事をしていたのだが、いつまで経ってもロリズリー男爵は来なかった。
予約が必要な人気店のテーブルを、いつまでも待ちあわせで占領しているわけにもいかないと、仕方なく店を出たところだった。
「いやはや、申し訳ない。出かける前にも連絡が入りましてな。アスガルドさんにも関係のあることでしたので、内容を確認してから行こうと思っていたら遅れてしまって。」
「──俺に関係のあること、ですか?」
なぜロリズリー男爵のところに?
「あれからクラーケン塩に携わったところとは交流がありましてな。アゾルガ港と交流のある、グジャナという町なんですが、魔物に苦しめられて困っているようなんです。
ですが、アスガルドさんに依頼をしようとしたら、冒険者ギルドに断られてしまったらしくて、それでアゾルガの町長を通じて、私のところに連絡が……。」
「活用共生検討の余地がないと、冒険者ギルドが判断したのであれば、俺の耳に届く前に断られるでしょうね。今はそういう流れで受付しているので……。」
「ええ、ええ。そうだと思います。
ですが、活用共生の依頼とは少し違ってまして。だからギルドも困惑したのかも知れません。グジャナの町が言うには、このままだと魔物が退治されてしまうので、どうにか救って欲しいと、こう言うんですよ。」
「──救って欲しい?魔物をですか?」
「町長を通じてわざわざ連絡ですって?」
俺とリスタは驚いて目をみはった。それはグジャナの町からの正式の依頼ということになる。なぜ、町が魔物を助けようとしているのか?いまだかつてそんな依頼は受けたことがないし、想定もしていなかった。
活用共生の依頼とは、確かに少し異なる。
それは魔物の存在が、人々の生活に組み込むことが出来ようと出来まいと、魔物の命を優先するということなのだから。
「分からないな……。なぜそんな依頼を町がしてくるんだろうか。町民の総意なのか?
個人ならともかく……。」
「もともと活用共生していなければ、出てこない言葉よね。なのに一方では、魔物に苦しめられて困っているとも言っているのよね。
矛盾しているわ……。訳がわからない。」
「確かにな……。」
俺とリスタは首をひねった。
「いかがでしょう?一度見に行っていただくことは出来ますでしょうか?
私もちょっと気になっているのです。
活用共生の条件は、一度アスガルドさんにお願いをしたことのある人間なら誰しも把握していることです。それなのに、既に断られたと分かった上で、アゾルガの町長がお願いをしてくるというのが、何故なのかを。」
「確かにそれはそうですね……。
分かりました。
俺が力になれるかは分かりませんが、一度グジャナの町に行ってみようと思います。
リスタ、すまんがついて来てくれるか?
もしも俺1人じゃ無理だった場合に、お前の力を借りたいんだ。退治の可能性もあるから、危険な仕事になるかも知れない。」
「ええ。もちろんよ。勉強させて貰うわ。」
「では、2人分の宿を用意していただけるよう、グジャナの町に伝えていただけますか?
冒険者ギルドには俺から話しておきます。」
「──ふ、2人分の宿!?」
「アゾルガの港にはリスタも行っただろう?
確かグジャナはアゾルガ港の近くだから、泊まりじゃないと行かれないぞ?」
「そ、そうよね、そうだったわね。」
リスタは真っ赤になってうつむいた。
「分かりました、私の方からアゾルガの町長を通じて、グジャナに伝えておきますね。」
「よろしくおねがいします。」
──リスタが俺の袖を引っ張る。
「アスガルド、あの、その、帰りに服屋に寄ってもいいかしら?」
「え?また服を買うのか?」
「そ、その、部屋着とか、色々……。」
「ああ、まだ時間もあるし、リリアも眠そうじゃないし、別に構わないが。」
リスタの様子を見たロリズリー男爵が、リスタに近寄り声をかけた。
「──レディー?よろしければ、私の娘の行きつけだった店をご紹介致しましょうか?
肌着から何から、すべてが揃う店です。
若い貴族の女性に人気の店ですよ。」
「──!!ぜひおねがいします!!」
ロリズリー男爵と謎の会話をしたリスタとリリアと共に、なぜかロリズリー男爵の馬車で婦人服店に向かうことになったのだった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
269
お気に入りに追加
1,299
あなたにおすすめの小説
転生リンゴは破滅のフラグを退ける
古森真朝
ファンタジー
ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。
今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。
何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする!
※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける)
※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^
※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

ズボラな私の異世界譚〜あれ?何も始まらない?〜
野鳥
ファンタジー
小町瀬良、享年35歳の枯れ女。日々の生活は会社と自宅の往復で、帰宅途中の不運な事故で死んでしまった。
気が付くと目の前には女神様がいて、私に世界を救えだなんて言い出した。
自慢じゃないけど、私、めちゃくちゃズボラなんで無理です。
そんな主人公が異世界に転生させられ、自由奔放に生きていくお話です。
※話のストックもない気ままに投稿していきますのでご了承ください。見切り発車もいいとこなので設定は穴だらけです。ご了承ください。
※シスコンとブラコンタグ増やしました。
短編は何処までが短編か分からないので、長くなりそうなら長編に変更いたします。
※シスコンタグ変更しました(笑)

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる