まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
94 / 134
第2部

第48話 パティオポンゴの特性①

しおりを挟む
 帰宅するという師匠に、ほんの少し寂しいなと思いながら、万葉は軽めの朝食を胃へと投げ込む。師匠は朝はコーヒーと甘い物一かけらのようで、朝から食べられないんですと、困った顔をしていた。

「では万葉さん、お世話様でした。お引越しはいつでもいいですけど、早めだと僕も嬉しいです」

「……あ、はい。それはまた連絡します。師匠、甘やかしすぎじゃないですか、私のこと?」

 それに玄関の扉のドアノブを持っていた師匠は、うーんと考えて首をかしげる。二歩で万葉の元へと戻ってくると、万葉の頭をよしよしと撫でた。かと思うと、急に肩を引っ張って、耳元に近づいて来る。

「僕は本当は優しくないです……今すぐにでも、貴女の素肌に触れたいし、僕がどれだけ好きかを、貴女の体中に叩き込みたいですが。甘やかしていますよ……好きですからね、奥さん」

 ちゅっとほっぺたにキスをされて、万葉がビックリしていると、ニコニコと師匠が微笑んだ。

「万葉さんは、僕に甘やかされているくらいが丁度よさそうです。そうやって、可愛い反応も見られますし、まんざらでもない顔されると僕も嬉しいです」

 もう一度ドアノブに手をかけると、師匠は穏やかに口元を緩めた。

「僕だけに夢中でいて下さいね。後悔はさせませんから」

 では、と軽やかに手を振って去って行く姿を見送って、万葉はその場にぽかんと立ちすくんだまま、しばらくそうしていた。

「師匠って、本当に……」

(手練れのすけこましすぎる……)

 言われなくとも、万葉はすでに師匠に夢中だった。思い切りこの感情をぶつけても、師匠は怒らないだろうか。面倒くさく思わないだろうか、と少しは考えたのだが、マスターが言っていた寄りかかっても支えてくれる人という言葉を、信じてみようと思った。



 ***



 月初の出社で気が重たくなるのは、いつも首位争いをしている後輩の遠藤が、トップの座をそうやすやすと譲ってはくれないからだ。

 朝礼で先月のトップ賞を発表されて、いつも二位になってしまっている万葉は、毎月苦い思いをする。しかし、今月はその気持ちが薄らいだ。

 名前によるクレームは相変わらずあるけれども、実は自分の名字が今は田中であって、あんな素敵な人が旦那さんなのだと思うと、溜飲が下がる思いだ。師匠の笑顔を思い出して、発表中に顔を赤らめてしまった万葉は、部長に怪訝な顔をされたのだが、大丈夫ですと作り笑いでごまかした。

 師匠の影響力がすごいのか、結婚というものの影響力がすごいのかは分からないが、どちらにしても、万葉の心は落ち着いて安定していた。クレームが来たところで以前のようにイラっとしなくなったし、新海無しで対処できる回数が、前月は多かった。

(恋心、凄まじい……)

 心境の変化を感じながら、やっぱり引っ越しをしようとふと考える。安心してほしいと何回も言われたが、言葉だけで満足できないのが乙女心の面倒くさいところでもある。

 実際に一緒に住めば、もしかしたら捨てられてしまうのではないかという不安が和らぎ、そして師匠の事をもっと知ることができるのかもしれないと考えていた。

 のんびりとそんなことを考えていると、総務から呼び出しが来た。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...