まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
87 / 134
第2部

第45話 老人だけの村②

しおりを挟む
「村長のマイルズです。このたびは遠くまでありがとうございます。」
 マイルズさんは疲れ切った表情で俺たちを出迎えてくれた。
「この村は年寄ばかりでしてな……。
 介護の必要な者も多く、働き手が少ないのです。なのに貴重な食料を荒らされて、ほとほと困り果てておりまして……。」

 疲れているのは、介護と農業に加え、畑を荒らされたことによる精神的なものからなのかも知れなかった。
「村人は全部で何人ですか?
 そのうち、介護をしなかった場合働ける人数は何人になりますか?」

「働ける人数……ですか?
 村人は全部で82人です。そのうち介護が必要な人数を除けば58人ですが、つきっきりで介護をしなくてはならない者もおりますので、実際には毎日交代で30人くらいが農作業に従事しています。」

 30人で82人分の食料を作る、それも休みなく交代で介護をしながらお年寄りが、となると、作業効率は農業のみに従事出来る若者の半分以下になるだろうな。
 本来なら食べる分以外の収穫を売りに行って、冬の備えなどしたいだろうが、そんな余裕はとてもなさそうだ。

「食べるものの少ない冬場には、こんなこともありましたが、冬でもないのにこんなに連日現れるのは初めてのことで……。
 新しく植えて芽が出たばかりの新芽まで食べられてしまうのです、このままではとてもここでは暮らせませんが、かといって行くあてもありませんで……。」

 マイルズ村長はぐったりしていた。
「……息子さんや娘さんたちは、親御さんを引き取ろうとしないのね。」
「こういう村から出た人たちは、自分たちの生活で手一杯なんだろうさ。うちの村もそうだからな。」
 この世界の貧乏な村というのは、得てしてそういうものだ。

「まずは魔物が急に連日村に降りてくる原因を調べます。魔物が住んでいると思われる山は、あちらでよろしいですか?」
 俺は近くの山を指差した。
「はい、普段はあの山に住んでいます。
 たまに木の実やキノコを取りに山に入っていましたが、様子がおかしくて近付けなくなってしまい、余計に食べるものがありませんで……。」

「──リスタ。」
「ええ。では、まずはその山を調べて参りますね。状況が変わったというのは、環境か別の魔物の影響も考えられます。後ほど結果を報告致しますので。」
 やり方を勉強したいというリスタにも、説明を少し任せるつもりでいた。リスタはそれを汲み取って、俺の代わりに説明をした。

 俺とリッチとリスタは、スパッサ村の近くの山を登っていった。
 あまり人の通れる道が少ないが、確かに日頃木の実やキノコを取りに入っているというだけあって、整地されているわけではないまでも、人の通りやすい道が出来ている。

「……変ね。」
「──ああ。」
 鳥の鳴き声がしない。虫も少ない。木の実やキノコも見当たらない。まるで冬の森のように、あまりにも食べ物と生き物が少なすぎるのだ。

「これじゃ人里に食べ物があれば、襲ってもくるだろうな。なんで急にこんな風になっちまったんだろう。」
「土を見る限り、天候がおかしかったとは思えないわ。長雨が続いたりすれば、もっと土が流れて、木の根がむき出しになっている筈よ。でも、植物は普通だわ。」

「ああ。だが実際、動物や魔物の餌になるものがあまりにも少ない。本来この地に住んでいたわけじゃない生き物が、移り住んで来た可能性があるかも知れないな。」
「それで食べ物のの数が足らなくなったのかも知れないわね。
 動物も少ないとなると、……大型の何かがいるかも知れないわ。」

「──慎重に行こう。
 リッチ、様子を見てきてくれ。」
 俺の指示でリッチが先に飛んでいく。
 しばらくすると、大分先のほうで、リッチのけたたましい鳴き声がする。
「リッチ!!」
 俺たちは急いで山を駆け上がった。

 リッチが木の上にいる、腕の長いオレンジ色の猿の集団に石を投げつけられている。
「やっぱり!パティオポンゴだ!」
 パティオポンゴは猿の魔物だ。人の言葉が分かるほど知能が高く、本来は攻撃性が低い魔物だが、攻撃されると集団で攻撃をしてくる、仲間意識の高い魔物だ。

 リッチは俺の命令がなければ攻撃をしないのにも関わらず、集団で石を投げて攻撃しているということは、日頃から大分気が立っているということだ。
「リッチ!戻れ!」
 俺はリッチを戻して、慌ててアイテムバッグに入れた。

「ポロロロロロ!フォウッ!ポロロロロロ!フォウッ!」
 攻撃の意思はない、という、パティオポンゴの鳴き声を何度も真似る。するとパティオポンゴたちはお互いの顔を見合わせたかと思うと、1頭の巨大なパティオポンゴが木から降りてきて俺の前に立った。
 恐らくボスなのだろう。

 俺は右手を差し出した。パティオポンゴのボスも右手を差し出し、俺たちは握手を交わした。パティオポンゴは人間のような挨拶の習慣を持っているのだ。
 それを見た他のパティオポンゴたちも、スルスルと木から降りてきて、ボスの後ろに集まってじっとしていた。

「優しいお前たちに何があったんだ?
 俺たちは味方だ。お前たちを脅かす何かが現れたのか?教えてくれないか?」
 ボスはグオオオッ!フォウッ!と鳴いた。ついてこい、という意味だ。
 俺とリスタはボスの後について、更に山の奥へと上っていった。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...