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第2部
第45話 老人だけの村②
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「村長のマイルズです。このたびは遠くまでありがとうございます。」
マイルズさんは疲れ切った表情で俺たちを出迎えてくれた。
「この村は年寄ばかりでしてな……。
介護の必要な者も多く、働き手が少ないのです。なのに貴重な食料を荒らされて、ほとほと困り果てておりまして……。」
疲れているのは、介護と農業に加え、畑を荒らされたことによる精神的なものからなのかも知れなかった。
「村人は全部で何人ですか?
そのうち、介護をしなかった場合働ける人数は何人になりますか?」
「働ける人数……ですか?
村人は全部で82人です。そのうち介護が必要な人数を除けば58人ですが、つきっきりで介護をしなくてはならない者もおりますので、実際には毎日交代で30人くらいが農作業に従事しています。」
30人で82人分の食料を作る、それも休みなく交代で介護をしながらお年寄りが、となると、作業効率は農業のみに従事出来る若者の半分以下になるだろうな。
本来なら食べる分以外の収穫を売りに行って、冬の備えなどしたいだろうが、そんな余裕はとてもなさそうだ。
「食べるものの少ない冬場には、こんなこともありましたが、冬でもないのにこんなに連日現れるのは初めてのことで……。
新しく植えて芽が出たばかりの新芽まで食べられてしまうのです、このままではとてもここでは暮らせませんが、かといって行くあてもありませんで……。」
マイルズ村長はぐったりしていた。
「……息子さんや娘さんたちは、親御さんを引き取ろうとしないのね。」
「こういう村から出た人たちは、自分たちの生活で手一杯なんだろうさ。うちの村もそうだからな。」
この世界の貧乏な村というのは、得てしてそういうものだ。
「まずは魔物が急に連日村に降りてくる原因を調べます。魔物が住んでいると思われる山は、あちらでよろしいですか?」
俺は近くの山を指差した。
「はい、普段はあの山に住んでいます。
たまに木の実やキノコを取りに山に入っていましたが、様子がおかしくて近付けなくなってしまい、余計に食べるものがありませんで……。」
「──リスタ。」
「ええ。では、まずはその山を調べて参りますね。状況が変わったというのは、環境か別の魔物の影響も考えられます。後ほど結果を報告致しますので。」
やり方を勉強したいというリスタにも、説明を少し任せるつもりでいた。リスタはそれを汲み取って、俺の代わりに説明をした。
俺とリッチとリスタは、スパッサ村の近くの山を登っていった。
あまり人の通れる道が少ないが、確かに日頃木の実やキノコを取りに入っているというだけあって、整地されているわけではないまでも、人の通りやすい道が出来ている。
「……変ね。」
「──ああ。」
鳥の鳴き声がしない。虫も少ない。木の実やキノコも見当たらない。まるで冬の森のように、あまりにも食べ物と生き物が少なすぎるのだ。
「これじゃ人里に食べ物があれば、襲ってもくるだろうな。なんで急にこんな風になっちまったんだろう。」
「土を見る限り、天候がおかしかったとは思えないわ。長雨が続いたりすれば、もっと土が流れて、木の根がむき出しになっている筈よ。でも、植物は普通だわ。」
「ああ。だが実際、動物や魔物の餌になるものがあまりにも少ない。本来この地に住んでいたわけじゃない生き物が、移り住んで来た可能性があるかも知れないな。」
「それで食べ物のの数が足らなくなったのかも知れないわね。
動物も少ないとなると、……大型の何かがいるかも知れないわ。」
「──慎重に行こう。
リッチ、様子を見てきてくれ。」
俺の指示でリッチが先に飛んでいく。
しばらくすると、大分先のほうで、リッチのけたたましい鳴き声がする。
「リッチ!!」
俺たちは急いで山を駆け上がった。
リッチが木の上にいる、腕の長いオレンジ色の猿の集団に石を投げつけられている。
「やっぱり!パティオポンゴだ!」
パティオポンゴは猿の魔物だ。人の言葉が分かるほど知能が高く、本来は攻撃性が低い魔物だが、攻撃されると集団で攻撃をしてくる、仲間意識の高い魔物だ。
リッチは俺の命令がなければ攻撃をしないのにも関わらず、集団で石を投げて攻撃しているということは、日頃から大分気が立っているということだ。
「リッチ!戻れ!」
俺はリッチを戻して、慌ててアイテムバッグに入れた。
「ポロロロロロ!フォウッ!ポロロロロロ!フォウッ!」
攻撃の意思はない、という、パティオポンゴの鳴き声を何度も真似る。するとパティオポンゴたちはお互いの顔を見合わせたかと思うと、1頭の巨大なパティオポンゴが木から降りてきて俺の前に立った。
恐らくボスなのだろう。
俺は右手を差し出した。パティオポンゴのボスも右手を差し出し、俺たちは握手を交わした。パティオポンゴは人間のような挨拶の習慣を持っているのだ。
それを見た他のパティオポンゴたちも、スルスルと木から降りてきて、ボスの後ろに集まってじっとしていた。
「優しいお前たちに何があったんだ?
俺たちは味方だ。お前たちを脅かす何かが現れたのか?教えてくれないか?」
ボスはグオオオッ!フォウッ!と鳴いた。ついてこい、という意味だ。
俺とリスタはボスの後について、更に山の奥へと上っていった。
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マイルズさんは疲れ切った表情で俺たちを出迎えてくれた。
「この村は年寄ばかりでしてな……。
介護の必要な者も多く、働き手が少ないのです。なのに貴重な食料を荒らされて、ほとほと困り果てておりまして……。」
疲れているのは、介護と農業に加え、畑を荒らされたことによる精神的なものからなのかも知れなかった。
「村人は全部で何人ですか?
そのうち、介護をしなかった場合働ける人数は何人になりますか?」
「働ける人数……ですか?
村人は全部で82人です。そのうち介護が必要な人数を除けば58人ですが、つきっきりで介護をしなくてはならない者もおりますので、実際には毎日交代で30人くらいが農作業に従事しています。」
30人で82人分の食料を作る、それも休みなく交代で介護をしながらお年寄りが、となると、作業効率は農業のみに従事出来る若者の半分以下になるだろうな。
本来なら食べる分以外の収穫を売りに行って、冬の備えなどしたいだろうが、そんな余裕はとてもなさそうだ。
「食べるものの少ない冬場には、こんなこともありましたが、冬でもないのにこんなに連日現れるのは初めてのことで……。
新しく植えて芽が出たばかりの新芽まで食べられてしまうのです、このままではとてもここでは暮らせませんが、かといって行くあてもありませんで……。」
マイルズ村長はぐったりしていた。
「……息子さんや娘さんたちは、親御さんを引き取ろうとしないのね。」
「こういう村から出た人たちは、自分たちの生活で手一杯なんだろうさ。うちの村もそうだからな。」
この世界の貧乏な村というのは、得てしてそういうものだ。
「まずは魔物が急に連日村に降りてくる原因を調べます。魔物が住んでいると思われる山は、あちらでよろしいですか?」
俺は近くの山を指差した。
「はい、普段はあの山に住んでいます。
たまに木の実やキノコを取りに山に入っていましたが、様子がおかしくて近付けなくなってしまい、余計に食べるものがありませんで……。」
「──リスタ。」
「ええ。では、まずはその山を調べて参りますね。状況が変わったというのは、環境か別の魔物の影響も考えられます。後ほど結果を報告致しますので。」
やり方を勉強したいというリスタにも、説明を少し任せるつもりでいた。リスタはそれを汲み取って、俺の代わりに説明をした。
俺とリッチとリスタは、スパッサ村の近くの山を登っていった。
あまり人の通れる道が少ないが、確かに日頃木の実やキノコを取りに入っているというだけあって、整地されているわけではないまでも、人の通りやすい道が出来ている。
「……変ね。」
「──ああ。」
鳥の鳴き声がしない。虫も少ない。木の実やキノコも見当たらない。まるで冬の森のように、あまりにも食べ物と生き物が少なすぎるのだ。
「これじゃ人里に食べ物があれば、襲ってもくるだろうな。なんで急にこんな風になっちまったんだろう。」
「土を見る限り、天候がおかしかったとは思えないわ。長雨が続いたりすれば、もっと土が流れて、木の根がむき出しになっている筈よ。でも、植物は普通だわ。」
「ああ。だが実際、動物や魔物の餌になるものがあまりにも少ない。本来この地に住んでいたわけじゃない生き物が、移り住んで来た可能性があるかも知れないな。」
「それで食べ物のの数が足らなくなったのかも知れないわね。
動物も少ないとなると、……大型の何かがいるかも知れないわ。」
「──慎重に行こう。
リッチ、様子を見てきてくれ。」
俺の指示でリッチが先に飛んでいく。
しばらくすると、大分先のほうで、リッチのけたたましい鳴き声がする。
「リッチ!!」
俺たちは急いで山を駆け上がった。
リッチが木の上にいる、腕の長いオレンジ色の猿の集団に石を投げつけられている。
「やっぱり!パティオポンゴだ!」
パティオポンゴは猿の魔物だ。人の言葉が分かるほど知能が高く、本来は攻撃性が低い魔物だが、攻撃されると集団で攻撃をしてくる、仲間意識の高い魔物だ。
リッチは俺の命令がなければ攻撃をしないのにも関わらず、集団で石を投げて攻撃しているということは、日頃から大分気が立っているということだ。
「リッチ!戻れ!」
俺はリッチを戻して、慌ててアイテムバッグに入れた。
「ポロロロロロ!フォウッ!ポロロロロロ!フォウッ!」
攻撃の意思はない、という、パティオポンゴの鳴き声を何度も真似る。するとパティオポンゴたちはお互いの顔を見合わせたかと思うと、1頭の巨大なパティオポンゴが木から降りてきて俺の前に立った。
恐らくボスなのだろう。
俺は右手を差し出した。パティオポンゴのボスも右手を差し出し、俺たちは握手を交わした。パティオポンゴは人間のような挨拶の習慣を持っているのだ。
それを見た他のパティオポンゴたちも、スルスルと木から降りてきて、ボスの後ろに集まってじっとしていた。
「優しいお前たちに何があったんだ?
俺たちは味方だ。お前たちを脅かす何かが現れたのか?教えてくれないか?」
ボスはグオオオッ!フォウッ!と鳴いた。ついてこい、という意味だ。
俺とリスタはボスの後について、更に山の奥へと上っていった。
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