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第2部
第44話 海の森の再生②
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海の中は、一見なにもないように見えて、ヤナカドの種子が水中を漂っていたり、発芽を待ってる状態だ。
ヤナカドの成長は早い。育ったところに再び稚魚や貝類や小さな海老が戻って来るまでに、フールシザーズの数を減らさなくてはならない。
餌であるヤナカドがいなくなり、港の近くに現れなくなったニニガが戻ってくれば、いずれまたハバラリューシャンは、港の近くまで集まってくることだろう。
そうすれば、また、安定した生態系が保たれるのだ。
次に俺とティポマンさんは、ニースルース伯爵の了解を得て、周辺の伸びた木の枝を刈った。ヤナカドは成長の早い植物だが、光合成をする為、陽の光が当たらないところでは育ちにくい。
ヤナカドが殆どいなくなってしまった今、少しでも成長を促す為に、陽の光が当たるようにしたほうがよい。
ヤナカドが増えれば、それ自体が影になって、ヤナカドに集まる生き物たちが、陽の光にさらされることはないので問題はない。
「──やれることはやりました。
あとはヤナカドが育ち、生き物たちが戻ってきて、ハバラリューシャンたちが戻って来てくれて、フールシザーズやニニガの数が、適正になれば問題は解決です。
ハバラリューシャンがいなければ、また同じことがおきます。増え過ぎれば減らす必要は出て来ると思いますが、ヤナカドがなくなっては、魚が増えませんし、良質のニニガも取れなくなります。
漁獲量が減ったのは、単純に水が冷た過ぎて餌が減ったからでしょうね。
──時間はかかりますが、必ず元に戻りますよ。」
それを聞いても、ヤンダラさんはまったく安心出来ないといった表情だった。
「数を減らすことと、売り物目的に、今フールシザーズを取ったとしても、ヤナカドが育つまでの間は、魚もニニガも取れないわけですよね?
少なくとも1か月はかかるでしょう……。
1か月以上もの間、フールシザーズを取り続けられる訳ではありませんよね?
その間、我々はいったいどう暮らしたらよいのか……。」
組合長として、漁師たちにどう説明したものかと、考えあぐねているようだった。
「──ハバラリューシャンを使ってはどうです?」
「ハバラリューシャンを使う?
使うとは?」
俺の提案にヤンダラさんが首をかしげる。
「ハバラリューシャン、人間に対しておとなしい。
人近付く、気にしない。
とても可愛い。
今子どもいる。
倒したの、メスだけ。
オス、子どもたちの世話してる。
それ見せる。
お客来る。」
ティポマンさんが俺の代わりに説明してくれた。
「見せるって言ったって……。
魔物ですよ?
安全の保証なんて出来ませんし、わざわざ日頃観光客の来ないこんなところに、魔物を見に来るお客なんて……。」
ヤンダラさんは納得出来ない様子だった。
「俺は既に、何もない村に、レオペンという魔物の観光ツアーを提案し、それが人気をはくしたという実績を持っています。
ハバラリューシャンを見なれている、ヤンダラさんたちからすれば、ニニガをはじめとする海の幸を食べてしまう、迷惑な魔物でしかないでしょうが、見たこともない人たちからすれば、ただの愛らしい生き物にしか見えませんよ。
ハバラリューシャンの人間に対する安全性は、冒険者ギルドが保証しますしね。」
俺は漁に出れない漁師たちの船を使って、ハバラリューシャンの観光ツアーを行うことを強く提案した。
「──いいんじゃないかな。
どちらにしろ、何もしなければ、ヤナカドが育って、魚たちが戻ってくるまで、漁師たちは何も出来ないんだ。
干上がってしまうくらいなら、やれることはやってみよう。
うまくいけば、年中観光客のいないこの漁港に、定期的に人を呼べるかも知れないね。
それに、よそに出荷しなくても、観光客が魚やニニガを食べてくれたら、その分の税金も浮くわけだし、新しく料理店や土産物屋なんかも増やせるかも知れないよ?」
ニースルース伯爵が、最後は私が責任を持つよ、と決断してくれた。
眉を下げながら、ヤンダラさんに一見お願いする風な、歩み寄っているかのような態度だったが、その目の奥は、必ず成功させてみせるという、強い意志に輝いていた。
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ヤナカドの成長は早い。育ったところに再び稚魚や貝類や小さな海老が戻って来るまでに、フールシザーズの数を減らさなくてはならない。
餌であるヤナカドがいなくなり、港の近くに現れなくなったニニガが戻ってくれば、いずれまたハバラリューシャンは、港の近くまで集まってくることだろう。
そうすれば、また、安定した生態系が保たれるのだ。
次に俺とティポマンさんは、ニースルース伯爵の了解を得て、周辺の伸びた木の枝を刈った。ヤナカドは成長の早い植物だが、光合成をする為、陽の光が当たらないところでは育ちにくい。
ヤナカドが殆どいなくなってしまった今、少しでも成長を促す為に、陽の光が当たるようにしたほうがよい。
ヤナカドが増えれば、それ自体が影になって、ヤナカドに集まる生き物たちが、陽の光にさらされることはないので問題はない。
「──やれることはやりました。
あとはヤナカドが育ち、生き物たちが戻ってきて、ハバラリューシャンたちが戻って来てくれて、フールシザーズやニニガの数が、適正になれば問題は解決です。
ハバラリューシャンがいなければ、また同じことがおきます。増え過ぎれば減らす必要は出て来ると思いますが、ヤナカドがなくなっては、魚が増えませんし、良質のニニガも取れなくなります。
漁獲量が減ったのは、単純に水が冷た過ぎて餌が減ったからでしょうね。
──時間はかかりますが、必ず元に戻りますよ。」
それを聞いても、ヤンダラさんはまったく安心出来ないといった表情だった。
「数を減らすことと、売り物目的に、今フールシザーズを取ったとしても、ヤナカドが育つまでの間は、魚もニニガも取れないわけですよね?
少なくとも1か月はかかるでしょう……。
1か月以上もの間、フールシザーズを取り続けられる訳ではありませんよね?
その間、我々はいったいどう暮らしたらよいのか……。」
組合長として、漁師たちにどう説明したものかと、考えあぐねているようだった。
「──ハバラリューシャンを使ってはどうです?」
「ハバラリューシャンを使う?
使うとは?」
俺の提案にヤンダラさんが首をかしげる。
「ハバラリューシャン、人間に対しておとなしい。
人近付く、気にしない。
とても可愛い。
今子どもいる。
倒したの、メスだけ。
オス、子どもたちの世話してる。
それ見せる。
お客来る。」
ティポマンさんが俺の代わりに説明してくれた。
「見せるって言ったって……。
魔物ですよ?
安全の保証なんて出来ませんし、わざわざ日頃観光客の来ないこんなところに、魔物を見に来るお客なんて……。」
ヤンダラさんは納得出来ない様子だった。
「俺は既に、何もない村に、レオペンという魔物の観光ツアーを提案し、それが人気をはくしたという実績を持っています。
ハバラリューシャンを見なれている、ヤンダラさんたちからすれば、ニニガをはじめとする海の幸を食べてしまう、迷惑な魔物でしかないでしょうが、見たこともない人たちからすれば、ただの愛らしい生き物にしか見えませんよ。
ハバラリューシャンの人間に対する安全性は、冒険者ギルドが保証しますしね。」
俺は漁に出れない漁師たちの船を使って、ハバラリューシャンの観光ツアーを行うことを強く提案した。
「──いいんじゃないかな。
どちらにしろ、何もしなければ、ヤナカドが育って、魚たちが戻ってくるまで、漁師たちは何も出来ないんだ。
干上がってしまうくらいなら、やれることはやってみよう。
うまくいけば、年中観光客のいないこの漁港に、定期的に人を呼べるかも知れないね。
それに、よそに出荷しなくても、観光客が魚やニニガを食べてくれたら、その分の税金も浮くわけだし、新しく料理店や土産物屋なんかも増やせるかも知れないよ?」
ニースルース伯爵が、最後は私が責任を持つよ、と決断してくれた。
眉を下げながら、ヤンダラさんに一見お願いする風な、歩み寄っているかのような態度だったが、その目の奥は、必ず成功させてみせるという、強い意志に輝いていた。
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