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第2部
第44話 海の森の再生①
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俺とティポマンさんは、まずは手のあいた漁師たちに、フールシザーズを狙って漁をするように頼んだ。
フールシザーズは、その名の通り、カニの魔物だ。
普通のカニよりも刃先がするどく、指を挟まれようものなら、一瞬で切り落とされてしまう。
鉄線入りの投網をも簡単にやぶってしまうハサミを持つが、その攻撃力と、繁殖力が普通のカニよりも高い以外は、魔物に属するとはいえ、殆どただのカニだ。
投網漁で簡単に捕まえられることから、触れさえしなければ、冒険者でなくとも、いともたやすく数を減らすことが出来る。
おまけに魔物食は田舎ほど浸透していないものだが、味もまあまあうまいので、都会だとフールシザーズを出す店もあるのだ。
その味は、何を食べたかによって変わることから、あまり高級感扱いはされていないが、フールシザーズを捕食する敵である、ハバラリューシャンが近くにいなくなったことにより、このあたりの海のものを殆ど食べ尽くしてしまうくらい、好きなものをたらふく食べたのだ。
今のフールシザーズは、一番身に栄養がつまった、うまい状態といえるだろう。
生態系をもとに戻す為に数を減らしつつ、売り上げにする事ができる。
フールシザーズ漁を最初に頼んだ理由は、フールシザーズの数があまりに増え過ぎたことと、この海に現時点でフールシザーズの敵がいないことからだ。
フールシザーズが原因で漁獲量や海産物が減ったというのは、ある部分においてはその通りなのである。
フールシザーズの主食は貝類である。フールシザーズが主食とする貝類は、ヤナカドという、海藻と海草の間の子のような生物に付着する藻を食べる。
ヤナカドには藻が付着しやすいのだが、ヤナカド自身はそれを取ることが出来ない。それを食べる貝類を住まわせることで、藻を食べて取って貰う。
そうしなければ、ヤナカドは窒息して死んでしまう。
また、ヤナカドはニニガという生き物が、大変好む植物だ。ニニガはウニにとても似た生き物である。本来ウニは昆布を食べるが、この世界には昆布そのものがなく、似た味と食感のヤナカドのみが存在している。
ヤナカドのある場所にはニニガとフールシザーズがいて、そこにハバラリューシャンが集まってくる。
ハバラリューシャンは、ニニガやフールシザーズを食べる魔物なのである。
だからハバラリューシャンの数が増え過ぎると、ニニガやフールシザーズの数が減る。
逆にまったくいなくなってしまうと、ヤナカドについた藻を食べる貝類を、フールシザーズが食べ尽くして、残ったヤナカドをニニガが食べ尽くしてしまう。
エサが少ない状態だと、ニニガは痩せて不味くなり、売り物にならない。だから漁師はニニガを取らなくなり、ますます残ったニニガがヤナカドを食べてしまう。
だから港近くの海の中に、殆ど何も残っていなかったのである。
ヤナカドはアマモと昆布を足して2で割ったような性質を持っている。昆布は海藻なので胞子で増えるが、アマモは海にはえる海草の仲間で、根・茎・葉の区別があり、花を咲かせて種を作る種子植物である。
ヤナカドはアマモのように種で増えるが、昆布のように出汁がとれて、そのものも食べられるという、非常に珍しい植物だ。
ヤナカドの群落はヤナカド場と呼ばれていて、動物プランクトンや、小さな海老、虫などが住み着き、それを食べる生き物が多く集まる豊富なエサ場となる。
また、エサが豊富なだけでなく、稚魚などが大型の敵から身を守る隠れ家としても役立ち、時にはヤナカドに卵を産み付けにくる生き物もいる。
ヤナカド場は海水の汚れを取り除いたり、水中の酸素を増やしたり、海底の土壌を安定化させる為に必要なものなのだ。
ハバラリューシャンはフールシザーズを食べるが、攻撃される危険がある為に、子どものいる時期はあまり食べようとしない。
今は繁殖期だから、おそらく子どもがいる筈なのだ。港近くまで来てエサを取るメスが減ったことで、余計に近付かなくなったのだろう。
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フールシザーズは、その名の通り、カニの魔物だ。
普通のカニよりも刃先がするどく、指を挟まれようものなら、一瞬で切り落とされてしまう。
鉄線入りの投網をも簡単にやぶってしまうハサミを持つが、その攻撃力と、繁殖力が普通のカニよりも高い以外は、魔物に属するとはいえ、殆どただのカニだ。
投網漁で簡単に捕まえられることから、触れさえしなければ、冒険者でなくとも、いともたやすく数を減らすことが出来る。
おまけに魔物食は田舎ほど浸透していないものだが、味もまあまあうまいので、都会だとフールシザーズを出す店もあるのだ。
その味は、何を食べたかによって変わることから、あまり高級感扱いはされていないが、フールシザーズを捕食する敵である、ハバラリューシャンが近くにいなくなったことにより、このあたりの海のものを殆ど食べ尽くしてしまうくらい、好きなものをたらふく食べたのだ。
今のフールシザーズは、一番身に栄養がつまった、うまい状態といえるだろう。
生態系をもとに戻す為に数を減らしつつ、売り上げにする事ができる。
フールシザーズ漁を最初に頼んだ理由は、フールシザーズの数があまりに増え過ぎたことと、この海に現時点でフールシザーズの敵がいないことからだ。
フールシザーズが原因で漁獲量や海産物が減ったというのは、ある部分においてはその通りなのである。
フールシザーズの主食は貝類である。フールシザーズが主食とする貝類は、ヤナカドという、海藻と海草の間の子のような生物に付着する藻を食べる。
ヤナカドには藻が付着しやすいのだが、ヤナカド自身はそれを取ることが出来ない。それを食べる貝類を住まわせることで、藻を食べて取って貰う。
そうしなければ、ヤナカドは窒息して死んでしまう。
また、ヤナカドはニニガという生き物が、大変好む植物だ。ニニガはウニにとても似た生き物である。本来ウニは昆布を食べるが、この世界には昆布そのものがなく、似た味と食感のヤナカドのみが存在している。
ヤナカドのある場所にはニニガとフールシザーズがいて、そこにハバラリューシャンが集まってくる。
ハバラリューシャンは、ニニガやフールシザーズを食べる魔物なのである。
だからハバラリューシャンの数が増え過ぎると、ニニガやフールシザーズの数が減る。
逆にまったくいなくなってしまうと、ヤナカドについた藻を食べる貝類を、フールシザーズが食べ尽くして、残ったヤナカドをニニガが食べ尽くしてしまう。
エサが少ない状態だと、ニニガは痩せて不味くなり、売り物にならない。だから漁師はニニガを取らなくなり、ますます残ったニニガがヤナカドを食べてしまう。
だから港近くの海の中に、殆ど何も残っていなかったのである。
ヤナカドはアマモと昆布を足して2で割ったような性質を持っている。昆布は海藻なので胞子で増えるが、アマモは海にはえる海草の仲間で、根・茎・葉の区別があり、花を咲かせて種を作る種子植物である。
ヤナカドはアマモのように種で増えるが、昆布のように出汁がとれて、そのものも食べられるという、非常に珍しい植物だ。
ヤナカドの群落はヤナカド場と呼ばれていて、動物プランクトンや、小さな海老、虫などが住み着き、それを食べる生き物が多く集まる豊富なエサ場となる。
また、エサが豊富なだけでなく、稚魚などが大型の敵から身を守る隠れ家としても役立ち、時にはヤナカドに卵を産み付けにくる生き物もいる。
ヤナカド場は海水の汚れを取り除いたり、水中の酸素を増やしたり、海底の土壌を安定化させる為に必要なものなのだ。
ハバラリューシャンはフールシザーズを食べるが、攻撃される危険がある為に、子どものいる時期はあまり食べようとしない。
今は繁殖期だから、おそらく子どもがいる筈なのだ。港近くまで来てエサを取るメスが減ったことで、余計に近付かなくなったのだろう。
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