まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
80 / 134
第2部

第43話 異国の冒険者①

しおりを挟む
 俺はリッチを伴い、アシッド漁港へとやって来ていた。
 漁獲量を減らす魔物を討伐したところ、逆に漁獲量と海産物の収穫量が減ってしまい、その原因を探って欲しいとの依頼からだ。
 ここは暖かい土地柄なのだが、ビーチなどが作られておらず、観光客は少ない。人の入れるなだらかな砂浜が存在しないわけではなく、地引き網漁もさかんな土地だ。
 水温がとても冷たい為で、基本5℃をこえることがない。もっとも水温が高い場所でも10℃以下。サウナの水風呂よりも冷たく、とうてい人が入れる温度ではないのだ。
 主な産業は海で取れる海産物や魚介類。それらをよその土地や外国などに売って生計を立てている。
 魚好きの元日本人からすると、よだれが出るような素晴らしい環境で、俺は仕事のついでに絶対に新鮮な魚をたらふく食べて帰ると決めていた。

 アシッド漁港の依頼主は、漁業組合の組合長であるヤンダラさんと、この土地をおさめる領主のニースルース伯爵だった。
 ニースルース伯爵の後ろには、従者のティポマンさんが控えていた。このあたりでは、というか、この国ではあまり見かけない、浅黒い肌の異国人に見える。
「はじめましてアスガルドさん。
 ニースルースと申します。」
 俺はニースルース伯爵とヤンダラさんと、順番に握手をかわした。
「まもののおいしゃさんをやっているアスガルドだ。よろしく頼む。」
 俺はティポマンさんにも右手を差し出したが、ティポマンさんは困ったように、ニースルース伯爵をちらりと見やった。
「お相手が握手を求めている場合は、お前もしても構わないのだよ。」
 そう言われて、はじめてティポマンさんが、安心したようにニッコリと微笑んで、俺と握手をかわしてくれた。

「申し訳ない、アスガルドさん。
 このティポマンは、元は奴隷として他の国で使われていたのを、私が旅先で見かけて買い取って、この国に連れて来たんだが、その頃の姿勢が抜けなくてね。
 まあ、従者が客人と握手をかわすことなぞそうそうないから、それは問題ないんだが、もう、お前は自由なのだよ、と言っても、なかなか気持ちをきりかえるのが難しいらしくて……。
 国に戻っても家族がいないと言って、家と仕事を与えると言ったのだが、私から離れようとしない。
 ……まあ、見知らぬ異国の土地で、1人というのも不安だろうから、今は私の屋敷に住まわせて、従者をして貰っている次第だ。
 気のいいやつだから、慣れればすぐに普通に接することも出来ると思う。
 それまでは、少しこうして時々、すぐに反応出来ないこともあるとは思うが、気にしないでやってくれ。」
 ニースルース伯爵は、困ったように眉を下げながらも、少しも困っていない表情で笑っていた。
 ティポマンさんを日頃から優しく見守っているのが伝わってくる。見知らぬ土地で味方のいないティポマンさんが、ここまで慕って懐くのも無理はないなと思えた。

「まずは現場を見させていただきたいのですが、ちなみに討伐したという魔物はなんだったのですか?」
 俺の問いかけに、
「では、すぐ近くですので、歩きながらお伝えしましょう。」
 とニースルース伯爵が先に立って歩き出し、慌ててヤンダラさんが先頭に立って歩き出した。
「討伐したのは、ハバラリューシャンの群れの、主にメスになります。」
「ハバラリューシャンですか、冷たい海を中心に生息している魔物ですね。」

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...