79 / 128
第2部
第42話 任意共生と絶対共生②
しおりを挟む
また、専用の道具を使えば、カヤのように実から油をしぼりとることも可能な、非常に使い勝手のいい植物なのであるが、道端に落ちている銀杏を拾う人が殆どいないように、食べられることも、その加工方法についても、あまり知られてはいない。
俺は実を割って中の種を取り出すと、種を重曹と水を混ぜたものに浸けてアク抜きを開始した。
種は外側に茶色い渋皮がついていて、本当にナッツそのものだ。
大体コップ一杯の水に対して重曹大さじ1くらいを入れる。重曹の代わりに灰を使ってもいい。
また、残った実の部分は、ラカラという、ウォッカに似た酒を用意して貰い、それに漬けた。
一週間後、種を取り出して洗ったら、3日ほど天日干しをして欲しいとお願いをし、また来るとペギーさんに告げて、俺はスリリアントの街をあとにした。
10日後、俺は再びスリリアントの街へとやって来て、ペギーさんと再会した。
スプラバギジュアの種を加工する為だ。
厨房は役場の食堂のものを借りた。さすがこれだけの大きさの街だけはある。従業員用の食堂が中に作られていたのだ。
種の外側の渋皮は簡単には取れないが、アク抜きをしてあるので、渋くも苦くもなくなっている。
まずは種を炒ったものを、ペギーさんに食べて貰う。
恐る恐る口にしたペギーさんは、
「……美味しい……!!」
その味に感嘆した。
俺はスプラバギジュアの種をすり潰すと、3分の1は、サラダを作ってその上にかけた。
そして、すり潰した残りのスプラバギジュアの実を、鍋にスイートビーの蜂蜜と、水少々を加えて火にかけた。水分が飛んだら完成だ。
砂糖でもいいのだが、ここはタダで手に入る蜂蜜を使わせて貰った。
ルーフェン村で収穫して保存されていた、リンゴに似たレレンの実を、皮を剥いて芯を取り除く。その間にオーブンは180度に予熱しておく。
レレンの実2つを1センチの角切りにし、ボウルにグラニュー糖100グラム、卵2個、溶かし無塩バター50グラムを入れ、なめらかになるまで混ぜ合わせる。
料理と違って菓子作りは科学だ。材料や手順が1つとして違えば、スポンジが膨らまなかったりもする。
ここはグラニュー糖を使うしかなかった。
薄力粉100グラム、ベーキングパウダー5グラム、シナモンパウダー1グラム(なくてもいい)を、ふるいにかけながら少しずつ入れて、さらに混ぜ合わせる。
すり潰したスプラバギジュアの種を入れて、均一に混ざるように混ぜ合わせる。この時味のついたものを使ってもよいし、ついてないものを使ってもよい。俺は味のついてないものを混ぜ合わせた。
クッキングシートなんてものがないので、型に張り付いてしまうことにはなるが、俺は直接ケーキ型にそれを流し込んだ。
熱しておいたオーブンで、ふっくらと焼き色がつくまで40分程焼いたら、型から外して粗熱を取る。
最後に上にスイートビーの蜂蜜で味をつけた、スプラバギジュアのすり潰した種を振りかけて完成だ。
「スプラバギジュアの種を使ったサラダと、スプラバギジュアの種とレレンの実のケーキ、それとスプラバギジュアの実を使った酒だ。
食べみてくれ。」
俺が料理をしている間、なんだなんだと大勢の役場の人たちが、厨房を取り囲むように集まって来ていた。
そして、サラダとケーキと酒を口にするペギーさんを、羨ましそうにヨダレを垂らしながらじっと見ている。
「ど……どうぞ?」
その視線に耐えられなくなったペギーさんは、皿やコップにそれらを取り分けて、集まった人々に振る舞った。
「うめえ……!!なんだコレ?」
「ねえ、おかわりはないの?」
「憩いの広場の、スプラバギジュアの木の実なんです。
あそこに住む魔物が、スプラバギジュアと共生することで木を守り、その結果この実が取れたのだと、アスガルドさんが……。」
ペギーさんの言葉に、ワイワイと食べていた人々が、シン……とした。
「あの木に住まう魔物は、放っておけば攻撃をして来ない。
おまけに木の幹の中にいるから、基本姿も見えない。
スワロウフライは見えるかも知れないが、卵を産む間だけで、すぐにいなくなる。
放っておくだけで、毎年これが取れるんだ。
種は専用の道具でしぼって油を取ることも出来る。
ここの憩いの広場には200本ものスプラバギジュアが植えられている。
種を加工調理してもいい、実を酒に浸けて売ってもいい、種を絞って油をとってもいい。
スコーピアントとシェルズパスを、あの木にそのまま住まわせるだけで、この街に新たな名産が誕生する。
よく考えてみてくれ。
──討伐か、共生か。」
俺は集まった人々をじっと見つめた。
俺はそう告げると、スリリアントの街をあとにした。
この先は街の人たちが決めることだ。俺は共生の可能性を示すのみだ。
1週間後、冒険者ギルドに依頼料を受け取りに行った俺は、スリリアントの街が、スコーピアントとシェルズパスとの、共生を決めたことを知らされた。
ちなみに実のラカラ浸けは、泡盛の古酒のように、浸けておく時間や年数で、味も風味も変わり、いろんな味が楽しめる。
最短で3時間浸けておくだけでよいので、量産化も容易いのだ。
あくまで1つの可能性でしかなかった未来が、今実を結んだ。
すべての魔物がこうして人とともに生きられる訳ではないが、可能性がある限り、それを提案していきたい。
俺は改めて、そう決意を固めるのであった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
俺は実を割って中の種を取り出すと、種を重曹と水を混ぜたものに浸けてアク抜きを開始した。
種は外側に茶色い渋皮がついていて、本当にナッツそのものだ。
大体コップ一杯の水に対して重曹大さじ1くらいを入れる。重曹の代わりに灰を使ってもいい。
また、残った実の部分は、ラカラという、ウォッカに似た酒を用意して貰い、それに漬けた。
一週間後、種を取り出して洗ったら、3日ほど天日干しをして欲しいとお願いをし、また来るとペギーさんに告げて、俺はスリリアントの街をあとにした。
10日後、俺は再びスリリアントの街へとやって来て、ペギーさんと再会した。
スプラバギジュアの種を加工する為だ。
厨房は役場の食堂のものを借りた。さすがこれだけの大きさの街だけはある。従業員用の食堂が中に作られていたのだ。
種の外側の渋皮は簡単には取れないが、アク抜きをしてあるので、渋くも苦くもなくなっている。
まずは種を炒ったものを、ペギーさんに食べて貰う。
恐る恐る口にしたペギーさんは、
「……美味しい……!!」
その味に感嘆した。
俺はスプラバギジュアの種をすり潰すと、3分の1は、サラダを作ってその上にかけた。
そして、すり潰した残りのスプラバギジュアの実を、鍋にスイートビーの蜂蜜と、水少々を加えて火にかけた。水分が飛んだら完成だ。
砂糖でもいいのだが、ここはタダで手に入る蜂蜜を使わせて貰った。
ルーフェン村で収穫して保存されていた、リンゴに似たレレンの実を、皮を剥いて芯を取り除く。その間にオーブンは180度に予熱しておく。
レレンの実2つを1センチの角切りにし、ボウルにグラニュー糖100グラム、卵2個、溶かし無塩バター50グラムを入れ、なめらかになるまで混ぜ合わせる。
料理と違って菓子作りは科学だ。材料や手順が1つとして違えば、スポンジが膨らまなかったりもする。
ここはグラニュー糖を使うしかなかった。
薄力粉100グラム、ベーキングパウダー5グラム、シナモンパウダー1グラム(なくてもいい)を、ふるいにかけながら少しずつ入れて、さらに混ぜ合わせる。
すり潰したスプラバギジュアの種を入れて、均一に混ざるように混ぜ合わせる。この時味のついたものを使ってもよいし、ついてないものを使ってもよい。俺は味のついてないものを混ぜ合わせた。
クッキングシートなんてものがないので、型に張り付いてしまうことにはなるが、俺は直接ケーキ型にそれを流し込んだ。
熱しておいたオーブンで、ふっくらと焼き色がつくまで40分程焼いたら、型から外して粗熱を取る。
最後に上にスイートビーの蜂蜜で味をつけた、スプラバギジュアのすり潰した種を振りかけて完成だ。
「スプラバギジュアの種を使ったサラダと、スプラバギジュアの種とレレンの実のケーキ、それとスプラバギジュアの実を使った酒だ。
食べみてくれ。」
俺が料理をしている間、なんだなんだと大勢の役場の人たちが、厨房を取り囲むように集まって来ていた。
そして、サラダとケーキと酒を口にするペギーさんを、羨ましそうにヨダレを垂らしながらじっと見ている。
「ど……どうぞ?」
その視線に耐えられなくなったペギーさんは、皿やコップにそれらを取り分けて、集まった人々に振る舞った。
「うめえ……!!なんだコレ?」
「ねえ、おかわりはないの?」
「憩いの広場の、スプラバギジュアの木の実なんです。
あそこに住む魔物が、スプラバギジュアと共生することで木を守り、その結果この実が取れたのだと、アスガルドさんが……。」
ペギーさんの言葉に、ワイワイと食べていた人々が、シン……とした。
「あの木に住まう魔物は、放っておけば攻撃をして来ない。
おまけに木の幹の中にいるから、基本姿も見えない。
スワロウフライは見えるかも知れないが、卵を産む間だけで、すぐにいなくなる。
放っておくだけで、毎年これが取れるんだ。
種は専用の道具でしぼって油を取ることも出来る。
ここの憩いの広場には200本ものスプラバギジュアが植えられている。
種を加工調理してもいい、実を酒に浸けて売ってもいい、種を絞って油をとってもいい。
スコーピアントとシェルズパスを、あの木にそのまま住まわせるだけで、この街に新たな名産が誕生する。
よく考えてみてくれ。
──討伐か、共生か。」
俺は集まった人々をじっと見つめた。
俺はそう告げると、スリリアントの街をあとにした。
この先は街の人たちが決めることだ。俺は共生の可能性を示すのみだ。
1週間後、冒険者ギルドに依頼料を受け取りに行った俺は、スリリアントの街が、スコーピアントとシェルズパスとの、共生を決めたことを知らされた。
ちなみに実のラカラ浸けは、泡盛の古酒のように、浸けておく時間や年数で、味も風味も変わり、いろんな味が楽しめる。
最短で3時間浸けておくだけでよいので、量産化も容易いのだ。
あくまで1つの可能性でしかなかった未来が、今実を結んだ。
すべての魔物がこうして人とともに生きられる訳ではないが、可能性がある限り、それを提案していきたい。
俺は改めて、そう決意を固めるのであった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
367
お気に入りに追加
1,336
あなたにおすすめの小説
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました
初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。
ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。
冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。
のんびり書いていきたいと思います。
よければ感想等お願いします。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる