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第2部
第42話 任意共生と絶対共生②
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また、専用の道具を使えば、カヤのように実から油をしぼりとることも可能な、非常に使い勝手のいい植物なのであるが、道端に落ちている銀杏を拾う人が殆どいないように、食べられることも、その加工方法についても、あまり知られてはいない。
俺は実を割って中の種を取り出すと、種を重曹と水を混ぜたものに浸けてアク抜きを開始した。
種は外側に茶色い渋皮がついていて、本当にナッツそのものだ。
大体コップ一杯の水に対して重曹大さじ1くらいを入れる。重曹の代わりに灰を使ってもいい。
また、残った実の部分は、ラカラという、ウォッカに似た酒を用意して貰い、それに漬けた。
一週間後、種を取り出して洗ったら、3日ほど天日干しをして欲しいとお願いをし、また来るとペギーさんに告げて、俺はスリリアントの街をあとにした。
10日後、俺は再びスリリアントの街へとやって来て、ペギーさんと再会した。
スプラバギジュアの種を加工する為だ。
厨房は役場の食堂のものを借りた。さすがこれだけの大きさの街だけはある。従業員用の食堂が中に作られていたのだ。
種の外側の渋皮は簡単には取れないが、アク抜きをしてあるので、渋くも苦くもなくなっている。
まずは種を炒ったものを、ペギーさんに食べて貰う。
恐る恐る口にしたペギーさんは、
「……美味しい……!!」
その味に感嘆した。
俺はスプラバギジュアの種をすり潰すと、3分の1は、サラダを作ってその上にかけた。
そして、すり潰した残りのスプラバギジュアの実を、鍋にスイートビーの蜂蜜と、水少々を加えて火にかけた。水分が飛んだら完成だ。
砂糖でもいいのだが、ここはタダで手に入る蜂蜜を使わせて貰った。
ルーフェン村で収穫して保存されていた、リンゴに似たレレンの実を、皮を剥いて芯を取り除く。その間にオーブンは180度に予熱しておく。
レレンの実2つを1センチの角切りにし、ボウルにグラニュー糖100グラム、卵2個、溶かし無塩バター50グラムを入れ、なめらかになるまで混ぜ合わせる。
料理と違って菓子作りは科学だ。材料や手順が1つとして違えば、スポンジが膨らまなかったりもする。
ここはグラニュー糖を使うしかなかった。
薄力粉100グラム、ベーキングパウダー5グラム、シナモンパウダー1グラム(なくてもいい)を、ふるいにかけながら少しずつ入れて、さらに混ぜ合わせる。
すり潰したスプラバギジュアの種を入れて、均一に混ざるように混ぜ合わせる。この時味のついたものを使ってもよいし、ついてないものを使ってもよい。俺は味のついてないものを混ぜ合わせた。
クッキングシートなんてものがないので、型に張り付いてしまうことにはなるが、俺は直接ケーキ型にそれを流し込んだ。
熱しておいたオーブンで、ふっくらと焼き色がつくまで40分程焼いたら、型から外して粗熱を取る。
最後に上にスイートビーの蜂蜜で味をつけた、スプラバギジュアのすり潰した種を振りかけて完成だ。
「スプラバギジュアの種を使ったサラダと、スプラバギジュアの種とレレンの実のケーキ、それとスプラバギジュアの実を使った酒だ。
食べみてくれ。」
俺が料理をしている間、なんだなんだと大勢の役場の人たちが、厨房を取り囲むように集まって来ていた。
そして、サラダとケーキと酒を口にするペギーさんを、羨ましそうにヨダレを垂らしながらじっと見ている。
「ど……どうぞ?」
その視線に耐えられなくなったペギーさんは、皿やコップにそれらを取り分けて、集まった人々に振る舞った。
「うめえ……!!なんだコレ?」
「ねえ、おかわりはないの?」
「憩いの広場の、スプラバギジュアの木の実なんです。
あそこに住む魔物が、スプラバギジュアと共生することで木を守り、その結果この実が取れたのだと、アスガルドさんが……。」
ペギーさんの言葉に、ワイワイと食べていた人々が、シン……とした。
「あの木に住まう魔物は、放っておけば攻撃をして来ない。
おまけに木の幹の中にいるから、基本姿も見えない。
スワロウフライは見えるかも知れないが、卵を産む間だけで、すぐにいなくなる。
放っておくだけで、毎年これが取れるんだ。
種は専用の道具でしぼって油を取ることも出来る。
ここの憩いの広場には200本ものスプラバギジュアが植えられている。
種を加工調理してもいい、実を酒に浸けて売ってもいい、種を絞って油をとってもいい。
スコーピアントとシェルズパスを、あの木にそのまま住まわせるだけで、この街に新たな名産が誕生する。
よく考えてみてくれ。
──討伐か、共生か。」
俺は集まった人々をじっと見つめた。
俺はそう告げると、スリリアントの街をあとにした。
この先は街の人たちが決めることだ。俺は共生の可能性を示すのみだ。
1週間後、冒険者ギルドに依頼料を受け取りに行った俺は、スリリアントの街が、スコーピアントとシェルズパスとの、共生を決めたことを知らされた。
ちなみに実のラカラ浸けは、泡盛の古酒のように、浸けておく時間や年数で、味も風味も変わり、いろんな味が楽しめる。
最短で3時間浸けておくだけでよいので、量産化も容易いのだ。
あくまで1つの可能性でしかなかった未来が、今実を結んだ。
すべての魔物がこうして人とともに生きられる訳ではないが、可能性がある限り、それを提案していきたい。
俺は改めて、そう決意を固めるのであった。
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俺は実を割って中の種を取り出すと、種を重曹と水を混ぜたものに浸けてアク抜きを開始した。
種は外側に茶色い渋皮がついていて、本当にナッツそのものだ。
大体コップ一杯の水に対して重曹大さじ1くらいを入れる。重曹の代わりに灰を使ってもいい。
また、残った実の部分は、ラカラという、ウォッカに似た酒を用意して貰い、それに漬けた。
一週間後、種を取り出して洗ったら、3日ほど天日干しをして欲しいとお願いをし、また来るとペギーさんに告げて、俺はスリリアントの街をあとにした。
10日後、俺は再びスリリアントの街へとやって来て、ペギーさんと再会した。
スプラバギジュアの種を加工する為だ。
厨房は役場の食堂のものを借りた。さすがこれだけの大きさの街だけはある。従業員用の食堂が中に作られていたのだ。
種の外側の渋皮は簡単には取れないが、アク抜きをしてあるので、渋くも苦くもなくなっている。
まずは種を炒ったものを、ペギーさんに食べて貰う。
恐る恐る口にしたペギーさんは、
「……美味しい……!!」
その味に感嘆した。
俺はスプラバギジュアの種をすり潰すと、3分の1は、サラダを作ってその上にかけた。
そして、すり潰した残りのスプラバギジュアの実を、鍋にスイートビーの蜂蜜と、水少々を加えて火にかけた。水分が飛んだら完成だ。
砂糖でもいいのだが、ここはタダで手に入る蜂蜜を使わせて貰った。
ルーフェン村で収穫して保存されていた、リンゴに似たレレンの実を、皮を剥いて芯を取り除く。その間にオーブンは180度に予熱しておく。
レレンの実2つを1センチの角切りにし、ボウルにグラニュー糖100グラム、卵2個、溶かし無塩バター50グラムを入れ、なめらかになるまで混ぜ合わせる。
料理と違って菓子作りは科学だ。材料や手順が1つとして違えば、スポンジが膨らまなかったりもする。
ここはグラニュー糖を使うしかなかった。
薄力粉100グラム、ベーキングパウダー5グラム、シナモンパウダー1グラム(なくてもいい)を、ふるいにかけながら少しずつ入れて、さらに混ぜ合わせる。
すり潰したスプラバギジュアの種を入れて、均一に混ざるように混ぜ合わせる。この時味のついたものを使ってもよいし、ついてないものを使ってもよい。俺は味のついてないものを混ぜ合わせた。
クッキングシートなんてものがないので、型に張り付いてしまうことにはなるが、俺は直接ケーキ型にそれを流し込んだ。
熱しておいたオーブンで、ふっくらと焼き色がつくまで40分程焼いたら、型から外して粗熱を取る。
最後に上にスイートビーの蜂蜜で味をつけた、スプラバギジュアのすり潰した種を振りかけて完成だ。
「スプラバギジュアの種を使ったサラダと、スプラバギジュアの種とレレンの実のケーキ、それとスプラバギジュアの実を使った酒だ。
食べみてくれ。」
俺が料理をしている間、なんだなんだと大勢の役場の人たちが、厨房を取り囲むように集まって来ていた。
そして、サラダとケーキと酒を口にするペギーさんを、羨ましそうにヨダレを垂らしながらじっと見ている。
「ど……どうぞ?」
その視線に耐えられなくなったペギーさんは、皿やコップにそれらを取り分けて、集まった人々に振る舞った。
「うめえ……!!なんだコレ?」
「ねえ、おかわりはないの?」
「憩いの広場の、スプラバギジュアの木の実なんです。
あそこに住む魔物が、スプラバギジュアと共生することで木を守り、その結果この実が取れたのだと、アスガルドさんが……。」
ペギーさんの言葉に、ワイワイと食べていた人々が、シン……とした。
「あの木に住まう魔物は、放っておけば攻撃をして来ない。
おまけに木の幹の中にいるから、基本姿も見えない。
スワロウフライは見えるかも知れないが、卵を産む間だけで、すぐにいなくなる。
放っておくだけで、毎年これが取れるんだ。
種は専用の道具でしぼって油を取ることも出来る。
ここの憩いの広場には200本ものスプラバギジュアが植えられている。
種を加工調理してもいい、実を酒に浸けて売ってもいい、種を絞って油をとってもいい。
スコーピアントとシェルズパスを、あの木にそのまま住まわせるだけで、この街に新たな名産が誕生する。
よく考えてみてくれ。
──討伐か、共生か。」
俺は集まった人々をじっと見つめた。
俺はそう告げると、スリリアントの街をあとにした。
この先は街の人たちが決めることだ。俺は共生の可能性を示すのみだ。
1週間後、冒険者ギルドに依頼料を受け取りに行った俺は、スリリアントの街が、スコーピアントとシェルズパスとの、共生を決めたことを知らされた。
ちなみに実のラカラ浸けは、泡盛の古酒のように、浸けておく時間や年数で、味も風味も変わり、いろんな味が楽しめる。
最短で3時間浸けておくだけでよいので、量産化も容易いのだ。
あくまで1つの可能性でしかなかった未来が、今実を結んだ。
すべての魔物がこうして人とともに生きられる訳ではないが、可能性がある限り、それを提案していきたい。
俺は改めて、そう決意を固めるのであった。
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