上 下
78 / 128
第2部

第42話 任意共生と絶対共生①

しおりを挟む
 この木はスプラバギジュアという種類の樹木で、同種の樹木はすべからず、内空の幹内を巣として、スコーピアントとシェルズパスという、昆虫タイプの魔物に提供する共生植物である。
 スコーピアントはサソリのように尻を上げて、毒攻撃をするアリのような魔物で、その毒性は毒を持つアリタイプの魔物の中でも最強を誇る。
 また、クワガタのような、鋭く長い牙を持ち、それであらゆるものを切断する、街に現れる魔物の中では、かなりの強さを持つ凶暴な魔物だ
 シェルズパスは大人しい昆虫タイプの魔物で、カイガラムシに似た、その名の通り真っ白な貝殻のような姿を持ち、体の下側にタコの吸盤のような足兼口があり、そこから木の栄養分を吸い取っている。
 集まってる様は、集合恐怖を持っている人なら、大分気持ちが悪い。ちなみに俺も気持ちが悪い。

 スプラバギジュアは生息場所だけでなく、餌資源もスコーピアントに与える。それは托葉や新葉から分泌される栄養体と、シェルズパスが分泌する甘露だ。
 その見返りとして、スコーピアントは、からみついてくる、つる植物や植食者からスプラバギジュアを防衛する。
 共生には、たとえば、アリとアブラムシのような、共生相手無しでも生存できる任意共生と、特定の共生相手無しでは生存することが難しい絶対共生が存在する。
 このスコーピアントとシェルズパスは、餌資源と生活場所を、すべてスプラバギジュアに依存しており、スプラバギジュアの幹内以外では生存することができないので、これらの3者は絶対共生関係にあるということになる。
 いくら討伐しても、再び集まって来てしまうのはこの為だ。

 一方、スプラバギジュアをめぐる共生系には、共生者だけではなく寄生者としての、スワロウフライも関与する。
 燕のような見た目の、一見鳥の魔物だが、実際には蝶に似た性質を持つ、れっきとした昆虫タイプの魔物だ。
 スワロウフライの歴史は、スプラバギジュアとスコーピアントとシェルズパスの共生関係よりも歴史が浅く、割と近年見つかった魔物だ。
 スワロウフライの幼虫は、甘露などの報酬をスコーピアントに与えることによって、スコーピアントの攻撃をかいくぐり、スプラバギジュアの葉を摂食する。
 このスワロウフライもスプラバギジュア属に特殊化しており、他の植物の葉を食べることが出来ない。
 おまけにスワロウフライの親はスコーピアントとその幼虫を食べる。数が減ったところに、スコーピアントの幼虫に似た自分たちの子どもが孵化し、甘露を与えつつスコーピアントに守らせるのだ。

 だからこの3者が同時に存在する場合、魔物の数は一定数に保たれる。なおかつ攻撃しなければ攻撃されることもない為に、共生が可能になるのだ。
 この街の名前の由来。スリリアントとは、アリと生きる、という意味の、古代語と合成された言葉である。
 おそらくこの街が街になる際に、スプラバギジュアを送られた当時の役人は、共生を理解した上でこの木を植えたのだ。
 だが街の人々にそれを伝えれば間違いなく拒絶される。スコーピアントとシェルズパスは幹の内部にいるから、知られなければ人々は気にせず生活をすることが出来る。
 贈られたスプラバギジュアを必ず植えなければならない使命があったとはいえ、随分と乱暴な真似をしたものである。

「この穴のあいた幹を塞ぎましょう。
 それでもう、問題はない筈です。
 攻撃しなければ、襲ってくることのない魔物ですからね。
 それと、スコーピアントとシェルズパスが守った、スプラバギジュアの木の活かし方をお教えしますよ。」
「木の活かし方……ですか?」
 ペギーさんは不思議そうに首をかしげる。
「スプラバギジュアの実は、食べられることをご存知ですか?」
「いいえ?だって、この木はいつも、実のようなものがなっても、常に緑色で、とても食べられそうには……。」
 ペギーさんは、木の枝になっているたくさんの実を見ながら言う。
「ああ。それが普通なんだ。
 下にたくさん落ちているだろう?
 落ちていれば緑色でも成熟している証拠なんですよ。」

 スプラバギジュアは、カヤとオオバギを足したような性質を併せ持つ樹木だ。
 オオバギのように幹内に昆虫を住まわせて共生し、カヤのように緑色のドングリのような実がなり、熟すとそれが落ちる。
 カヤは日本だと主に神社に植えられていることが多く、また山に普通に自生もしている、比較的巨木になる木だ。スプラバギジュアも同様に山に自生している。
 山の中にはえていると、落ちた実はすぐに動物や魔物に食べられてしまうが、ここは街中でそんな動物も魔物も存在しない。
 落ちてすぐに拾いに来なくとも、取り放題なのである。
 実はカヤ寄りの為、緑色をしているが、熟して落ちた実の中の種子をアク抜きしたものは、ナッツのような味と風味を楽しむことが出来るのだ。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

竜人の溺愛

クロウ
ファンタジー
フロムナード王国の第2王子であるイディオスが 番を見つけ、溺愛する話。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...