78 / 134
第2部
第42話 任意共生と絶対共生①
しおりを挟む
この木はスプラバギジュアという種類の樹木で、同種の樹木はすべからず、内空の幹内を巣として、スコーピアントとシェルズパスという、昆虫タイプの魔物に提供する共生植物である。
スコーピアントはサソリのように尻を上げて、毒攻撃をするアリのような魔物で、その毒性は毒を持つアリタイプの魔物の中でも最強を誇る。
また、クワガタのような、鋭く長い牙を持ち、それであらゆるものを切断する、街に現れる魔物の中では、かなりの強さを持つ凶暴な魔物だ
シェルズパスは大人しい昆虫タイプの魔物で、カイガラムシに似た、その名の通り真っ白な貝殻のような姿を持ち、体の下側にタコの吸盤のような足兼口があり、そこから木の栄養分を吸い取っている。
集まってる様は、集合恐怖を持っている人なら、大分気持ちが悪い。ちなみに俺も気持ちが悪い。
スプラバギジュアは生息場所だけでなく、餌資源もスコーピアントに与える。それは托葉や新葉から分泌される栄養体と、シェルズパスが分泌する甘露だ。
その見返りとして、スコーピアントは、からみついてくる、つる植物や植食者からスプラバギジュアを防衛する。
共生には、たとえば、アリとアブラムシのような、共生相手無しでも生存できる任意共生と、特定の共生相手無しでは生存することが難しい絶対共生が存在する。
このスコーピアントとシェルズパスは、餌資源と生活場所を、すべてスプラバギジュアに依存しており、スプラバギジュアの幹内以外では生存することができないので、これらの3者は絶対共生関係にあるということになる。
いくら討伐しても、再び集まって来てしまうのはこの為だ。
一方、スプラバギジュアをめぐる共生系には、共生者だけではなく寄生者としての、スワロウフライも関与する。
燕のような見た目の、一見鳥の魔物だが、実際には蝶に似た性質を持つ、れっきとした昆虫タイプの魔物だ。
スワロウフライの歴史は、スプラバギジュアとスコーピアントとシェルズパスの共生関係よりも歴史が浅く、割と近年見つかった魔物だ。
スワロウフライの幼虫は、甘露などの報酬をスコーピアントに与えることによって、スコーピアントの攻撃をかいくぐり、スプラバギジュアの葉を摂食する。
このスワロウフライもスプラバギジュア属に特殊化しており、他の植物の葉を食べることが出来ない。
おまけにスワロウフライの親はスコーピアントとその幼虫を食べる。数が減ったところに、スコーピアントの幼虫に似た自分たちの子どもが孵化し、甘露を与えつつスコーピアントに守らせるのだ。
だからこの3者が同時に存在する場合、魔物の数は一定数に保たれる。なおかつ攻撃しなければ攻撃されることもない為に、共生が可能になるのだ。
この街の名前の由来。スリリアントとは、アリと生きる、という意味の、古代語と合成された言葉である。
おそらくこの街が街になる際に、スプラバギジュアを送られた当時の役人は、共生を理解した上でこの木を植えたのだ。
だが街の人々にそれを伝えれば間違いなく拒絶される。スコーピアントとシェルズパスは幹の内部にいるから、知られなければ人々は気にせず生活をすることが出来る。
贈られたスプラバギジュアを必ず植えなければならない使命があったとはいえ、随分と乱暴な真似をしたものである。
「この穴のあいた幹を塞ぎましょう。
それでもう、問題はない筈です。
攻撃しなければ、襲ってくることのない魔物ですからね。
それと、スコーピアントとシェルズパスが守った、スプラバギジュアの木の活かし方をお教えしますよ。」
「木の活かし方……ですか?」
ペギーさんは不思議そうに首をかしげる。
「スプラバギジュアの実は、食べられることをご存知ですか?」
「いいえ?だって、この木はいつも、実のようなものがなっても、常に緑色で、とても食べられそうには……。」
ペギーさんは、木の枝になっているたくさんの実を見ながら言う。
「ああ。それが普通なんだ。
下にたくさん落ちているだろう?
落ちていれば緑色でも成熟している証拠なんですよ。」
スプラバギジュアは、カヤとオオバギを足したような性質を併せ持つ樹木だ。
オオバギのように幹内に昆虫を住まわせて共生し、カヤのように緑色のドングリのような実がなり、熟すとそれが落ちる。
カヤは日本だと主に神社に植えられていることが多く、また山に普通に自生もしている、比較的巨木になる木だ。スプラバギジュアも同様に山に自生している。
山の中にはえていると、落ちた実はすぐに動物や魔物に食べられてしまうが、ここは街中でそんな動物も魔物も存在しない。
落ちてすぐに拾いに来なくとも、取り放題なのである。
実はカヤ寄りの為、緑色をしているが、熟して落ちた実の中の種子をアク抜きしたものは、ナッツのような味と風味を楽しむことが出来るのだ。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
スコーピアントはサソリのように尻を上げて、毒攻撃をするアリのような魔物で、その毒性は毒を持つアリタイプの魔物の中でも最強を誇る。
また、クワガタのような、鋭く長い牙を持ち、それであらゆるものを切断する、街に現れる魔物の中では、かなりの強さを持つ凶暴な魔物だ
シェルズパスは大人しい昆虫タイプの魔物で、カイガラムシに似た、その名の通り真っ白な貝殻のような姿を持ち、体の下側にタコの吸盤のような足兼口があり、そこから木の栄養分を吸い取っている。
集まってる様は、集合恐怖を持っている人なら、大分気持ちが悪い。ちなみに俺も気持ちが悪い。
スプラバギジュアは生息場所だけでなく、餌資源もスコーピアントに与える。それは托葉や新葉から分泌される栄養体と、シェルズパスが分泌する甘露だ。
その見返りとして、スコーピアントは、からみついてくる、つる植物や植食者からスプラバギジュアを防衛する。
共生には、たとえば、アリとアブラムシのような、共生相手無しでも生存できる任意共生と、特定の共生相手無しでは生存することが難しい絶対共生が存在する。
このスコーピアントとシェルズパスは、餌資源と生活場所を、すべてスプラバギジュアに依存しており、スプラバギジュアの幹内以外では生存することができないので、これらの3者は絶対共生関係にあるということになる。
いくら討伐しても、再び集まって来てしまうのはこの為だ。
一方、スプラバギジュアをめぐる共生系には、共生者だけではなく寄生者としての、スワロウフライも関与する。
燕のような見た目の、一見鳥の魔物だが、実際には蝶に似た性質を持つ、れっきとした昆虫タイプの魔物だ。
スワロウフライの歴史は、スプラバギジュアとスコーピアントとシェルズパスの共生関係よりも歴史が浅く、割と近年見つかった魔物だ。
スワロウフライの幼虫は、甘露などの報酬をスコーピアントに与えることによって、スコーピアントの攻撃をかいくぐり、スプラバギジュアの葉を摂食する。
このスワロウフライもスプラバギジュア属に特殊化しており、他の植物の葉を食べることが出来ない。
おまけにスワロウフライの親はスコーピアントとその幼虫を食べる。数が減ったところに、スコーピアントの幼虫に似た自分たちの子どもが孵化し、甘露を与えつつスコーピアントに守らせるのだ。
だからこの3者が同時に存在する場合、魔物の数は一定数に保たれる。なおかつ攻撃しなければ攻撃されることもない為に、共生が可能になるのだ。
この街の名前の由来。スリリアントとは、アリと生きる、という意味の、古代語と合成された言葉である。
おそらくこの街が街になる際に、スプラバギジュアを送られた当時の役人は、共生を理解した上でこの木を植えたのだ。
だが街の人々にそれを伝えれば間違いなく拒絶される。スコーピアントとシェルズパスは幹の内部にいるから、知られなければ人々は気にせず生活をすることが出来る。
贈られたスプラバギジュアを必ず植えなければならない使命があったとはいえ、随分と乱暴な真似をしたものである。
「この穴のあいた幹を塞ぎましょう。
それでもう、問題はない筈です。
攻撃しなければ、襲ってくることのない魔物ですからね。
それと、スコーピアントとシェルズパスが守った、スプラバギジュアの木の活かし方をお教えしますよ。」
「木の活かし方……ですか?」
ペギーさんは不思議そうに首をかしげる。
「スプラバギジュアの実は、食べられることをご存知ですか?」
「いいえ?だって、この木はいつも、実のようなものがなっても、常に緑色で、とても食べられそうには……。」
ペギーさんは、木の枝になっているたくさんの実を見ながら言う。
「ああ。それが普通なんだ。
下にたくさん落ちているだろう?
落ちていれば緑色でも成熟している証拠なんですよ。」
スプラバギジュアは、カヤとオオバギを足したような性質を併せ持つ樹木だ。
オオバギのように幹内に昆虫を住まわせて共生し、カヤのように緑色のドングリのような実がなり、熟すとそれが落ちる。
カヤは日本だと主に神社に植えられていることが多く、また山に普通に自生もしている、比較的巨木になる木だ。スプラバギジュアも同様に山に自生している。
山の中にはえていると、落ちた実はすぐに動物や魔物に食べられてしまうが、ここは街中でそんな動物も魔物も存在しない。
落ちてすぐに拾いに来なくとも、取り放題なのである。
実はカヤ寄りの為、緑色をしているが、熟して落ちた実の中の種子をアク抜きしたものは、ナッツのような味と風味を楽しむことが出来るのだ。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
353
お気に入りに追加
1,293
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?


転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
土岡太郎
ファンタジー
自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。
死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。
*10/17 第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。
*R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。
あと少しパロディもあります。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。
良ければ、視聴してみてください。
【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
https://youtu.be/cWCv2HSzbgU
それに伴って、プロローグから修正をはじめました。
ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる