まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第1部

第39話 初代まもののおいしゃさん②

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「あ、あれじゃないかしら。
 頭ひとつ飛び出てる木があるわ。」
 そう言ってサーディンが指差した先には、遥か彼方からでも気付くことの出来る、巨大な枝を伸ばした一本の木が立っていた。
 進めど進めど、たどり着く気がしない。
 木が大き過ぎる事で、全員目測を見誤っていた。
「……あんな巨大な木の枝を、先人たちはどうやって折ったってんだ?」
 サイファーが歩きながら愚痴る。
「その頃には、もっと背の低い木だったんじゃない?
 人類の歴史よりも古いとされる木よ?
 むしろあれぐらいじゃないとおかしいもの。
 もう少しだから頑張りましょう?」
 リスタが脇で励ます。

 ようやくその木にたどり着いた時、俺たちはみな、荘厳な気持ちに包まれた。
 遠くから眺めるだけでは感じることのなかった、木の持つエネルギー。
 生命力とでもいうのか、ちっぽけな俺たちは、完全にその力に圧倒されていた。
「こりゃあ……思ってたよりすげえなあ。」
 ジルドレイが上を見上げてため息を漏らす。
「……本当に……来て良かったと、心から思うよ。
 あれ、なんだ?目から自然に……。」
 エドガーは気付けば涙を流していた。それを右腕で拭う。
 太古から人類を見守っていた、人を育む大地を産んだとされる木。その木を前に、俺たちはただただ、言葉をなくしていた。

「まずは役場と、この土地をおさめる公爵に会いに行かなくてはな。
 陛下が事前に使者をつかわしてくれて、話は通っている筈だが、こうして木の周りを兵士たちが守っているんだ。
 彼らの間を通るのに、来て貰わないと始まらない。」
 俺が呆然としたままのみんなを振り返る。
「そうだな。まずは役場から行こうか。」
 オットーの言葉にみんながうなずいた。
 俺はこのアイデアを思い付いてすぐ、再び陛下に謁見していた。陛下は内容を吟味し、口添えを約束してくれた。
 そこで俺が必要な人数を集めて、こうしてこの地にやって来たという訳なのだ。
「──はい、間違いなく、王家の印章が使われた、正式な書類で問題ありません。
 このあと公爵家に向かわれるとのことですので、それが済みましたら、またこちらに立ち寄っていただけますでしょうか?
 誰に聞いても、分かるようにしておきますので。
 わたくしはアディソンと申します。」
 役場はこれで問題がなかった。俺たちはその足で公爵家へと向かった。

 そこで俺たちは随分と待たされた。門の前でもそうだが、応接間に入ってからも、更にかなりの時間待たされることとなった。
 わざとなんじゃねえだろうな……、と、ジルドレイたちが次第にイラつきだした頃、ようやくこの地をおさめる、ノーサンバーランド公爵その人が姿を現した。
 俺は立ち上がってお辞儀をし、他のみんなもそれに続いた。ノーサンバーランド公爵は俺たちをひと通り、胡散臭いものでも見るような目つきで、ジロッと眺めると、
「……君かね、陛下からつかわされた冒険者というのは。」
「はい、アスガルドと申します。
 この度は貴重なお時間を拝借して申し訳ない、ノーサンバーランド公爵。」
 ノーサンバーランド公爵の態度に、うっかり敬語を混ぜてしまった俺を、みんなが気味が悪いものを見た目で見てくる。
 ……分かっている。みなまで言うな。

「……まあ、かけたまえ。
 君たちは約束の地の魔物を、伝達の手段に使いたいとの事だが、本当にあんな伝説をまともに信じているとでも言うのかね?」
 ノーサンバーランド公爵に促されて、全員が顔を見合わせて遠慮をしあった結果、俺とジルドレイ、ランウェイとオットーがソファに腰掛け、残りの5人はソファの後ろに立った。かなり大きめのソファではあったが、さすがに9人は座りきらない。
「──伝説ではありません、ノーサンバーランド公爵。
 あれは遥か昔より、王家にて、有事の際の伝達手段として、実際に何度も使用されてきた記録のあるものです。
 冒険者なら、誰もがはじめたての頃に聞かされる話です。魔物とは、こうして活用出来ることのあるものだと言う、ひとつの事例として。
 現在は公布がありますので、実際に使用された記録はかなり古いものになり、俺たちもその目で確認したことはありません。
 本来ですと、王家のみが使用出来るものにはなりますが、今回使者からの書類にありました通り、俺たちが代理として参った次第です。」
 俺の言葉遣いに、ジルドレイが落ち着かなそうに、やたらと尻の位置を動かした。

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