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第1部

第37話 訪ねて来た親友①

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「──よう、アスガルド。」
 俺は自宅の扉を叩く音に、なんの気なしに扉を開けて、一瞬固まった。
 家の前にはランウェイが立っていたのだ。
「……そうか。武器や防具を新調して貰えたんだな。」
「ああ。
 報酬も貰った。さすがSSランクといったところだ。
 ──親父にも、さっき少し金を渡して来たよ。村長ってのは、意外と気苦労が多いんだな。
 たった3年会わないだけで、随分と老け込んだ気がするよ。
 正直、お前が村にいてくれて助かってる。年寄り一人は、やっぱり心配だからな。」
 ランウェイは村長の息子で俺の幼なじみだ。村長が捨て子の俺を引き取ってくれた為、俺たちは産まれた時から兄弟のように育った。

「もう少し、顔を出してやってくれ。
 リリアをほっといた俺が、言えることじゃないが。」
「……まあ、年に1回くらいはな。帰ろうかと思ったよ。あんなに小さくなった姿を見せられちゃな。
 ──俺たちは暫くダンジョンに潜らなくても暮らしていけるし、改めて最高難易度に挑戦出来るだけの環境が整った。
 正直討伐隊としては何も出来なかったに等しいが、結果には満足してるよ。」
 ランウェイは俺の出した飲み物を飲む。
「これ、うまいな、なんだ?」
「ハニーホットミルクだ。」
 紅茶なんて贅沢なものを、俺たちは飲まない。
 皆白湯を飲むか、食べられる野草を使ってお茶をつくる。
 だが俺たちの村にはスイートビーの蜂蜜がある。牛の乳を温めて蜂蜜をお好みで入れただけだが、とても優しい甘さがする。

「……叙爵、断ったんだってな。」
「ああ。」
「爵位だけ、貰っちまえば良かったのに。
 今の仕事を続けながら、さ。
 そうすりゃ、お前の仕事だってしやすくなるだろう?
 クラーケンのことだって、お前が爵位を持ってれば、役場に話を通すのだって、早かっただろうさ。」
「……そういうわけにもいかんだろう。
 ただでさえ、冒険者を貴族にするのに、従来の貴族からの反発がある中で、それじゃ俺一人特別扱いが過ぎる。」
「そうか?国を救った英雄だぜ?
 もう少し特別扱いして貰っても、バチは当たらないんじゃないか?」

「──貴族は遊んでいるわけじゃない。
 領地を見回り、税をかけるものを決め、何かあれば領地の人々を助けなくてはならない。
 俺たち冒険者が有事の際の強制召喚があるように、貴族は貴族で、国の集まりには必ず出席しなくちゃならない。
 何かしらの発表だ、お披露目だと、他の貴族との交流もおろそかには出来ない。
 ましてや俺の受けられる爵位だと、政治にも参加しなくちゃならんのだからな。
 貴族としての責任も果たさずに、自分の都合のいいところだけ欲しいというのは、我がままだ。」
 俺はハニーホットミルクに息を吹きかけて、冷ましながら飲む。少し温め過ぎたようで、一瞬舌を引っ込める。

「……俺は波風を立てたくないんだ。
 俺が仮に公爵だったとして、役場は俺の言うことを友好的に聞いても、俺が仕事をしたい場所が他の公爵の領地だった場合、協力をあおごうにも、彼らが俺の言うことを聞く義務はないからな。
 俺が爵位だけを欲しがって軋轢を産むよりも、陛下に口添えいただいた方が、後々のことを考えた時にはるかにスムーズだ。」
「なるほどな……。
 興味がないんでまったく知らなかったが、貴族も貴族で、面倒なんだな。」
 ランウェイは腕組みしながら眉間にシワを寄せた。

「それに考えてもみろ、たかが貴族の爵位を手に入れるのと、陛下という後ろ盾。
 その方がよっぽど、自由でいながら、俺の仕事がしやすくなる。
 安定した領地の収入に魅力を感じていれば、貴族になった方がいいだろうが、俺はきままにここで暮らしていきたいんだ。
 スイートビーの蜂蜜と、ラヴァロックのサウナのおかげで、村人全員が安心して年を越せて、新しい服だって買える。
 ルーフェン村はとてもいいところだ。
 俺はこの暮らしに満足してる。
 一昨年引退したザッファーだって、貴族なんてなるんじゃなかったとボヤいていただろう?
 貴族だなんてかたっ苦しいもの、爵位を授かるだけでも、まっぴらごめんさ。」
 俺の言葉にランウェイも、ちがいない、と笑った。

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