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第1部

第36話 予想外のトラブル②

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「それであれば……、もし、仕事にあたる際に、役場ですとか、その領地をおさめる方々に協力を仰ぎたい場面がありました場合、お口添えをいただけませんでしょうか?
 今回のクラーケンに関しましても、それがあれば、もっとスムーズに、早い段階で解決出来ていたことと存じます。」
「──そのようなことでよいのか?」
「俺にとっては、とても大きな事です。
 陛下自らお口添えをいただきますことは、役場や、領地をおさめる貴族にとって、かなり大きな意味を持ちます。
 政治的配慮の観点から、俺なんかが、本来お願い出来るような事ではありません。
 ですが、もし、ご対応いただけるのであれば、ご迷惑でない内容であることを吟味いただいた上で結構ですので、ぜひお口添えをお願い申し上げます。」

 国王陛下が宰相と目配せをし、うなずき合う。
「──いいだろう。
 ただし必ずアスガルド卿が直接余に頼みに来るか、この宰相であるバンディを通して欲しい。
 アスガルド卿の仕事は特殊なもののようであるから、必ず正確な内容を聞いた上で判断させて欲しい。」
「かしこまりました。」

「冒険者は乱暴な言葉使いの者が多い。
 貴族にすることに、本来の貴族からの反発の声も未だ根強い。
 余としては、貴殿のような者に爵位を授けたかったが、残念だ。」
 出来るだけ砕けた話し方を挟むように気を付けていたつもりではいたが、やはり陛下ともあろうお立場の方に、敬語を使わず話すというのは、俺には難しかったようだ。
「──では、今回のクラーケン討伐に関する、アスガルド卿への報酬の下賜は以上となりますが、次に別のお話をさせていただきたい。」 
 宰相がうってかわって真剣な面持ちになる。

「クラーケンの驚異が去ったこと、そして新たな地場産業が生まれた事を、今回広く公布したのですが、それがきっかけで新たな問題が発生いたしました。
 元より貴族たちの間では、アスガルド卿の仕事ぶりによって、魔物は利用出来る、新たな収入源が生まれると、評判になっていたようなのですが、今まで費用を負担して討伐を依頼していた、貴族、都市部、役場、果ては街や村などから、なぜそんな方法があるのなら、今まで隠していたのか、と、冒険者たちへの反発が起き始めています。」
 まったくの初耳だった。宰相は言葉を続ける。

「魔物を守れ、討伐よりも共存を、との声が多く、まだダンジョンに対する声は上がっておりませんが、既に居住地やその周辺に出る魔物に対しては、討伐しにくる冒険者たちを追い出す地域が多数出現しております。
 また更に、冒険者ギルドにも、討伐ではなく、アスガルド卿が提案する、安価な共存、共生の依頼が殺到しており、それよりも高額を必要とする、討伐の依頼がばったりとやみました。
 この国のダンジョンに出る魔物はCランクからです。
 それを狩れるレベルに到達していない冒険者たちは、既に次々と廃業を余儀なくされております。
 このまま民意が高まり、ダンジョンの魔物も狩るなとの声があまりに高まった場合は、危険性云々をおいて、国としても無視する事が出来なくなってしまい、それが国民の総意となれば、やがて冒険者は全員廃業することになるでしょう。」

 なんという事だろうか。
 俺が良かれと思ってやったことが、冒険者たちを苦しい立場に追い込んでいたとは。
「恐れながら申し上げますが、魔物はすべてがそのように、共生したり、利用出来るようなものばかりではありません。
 積極的に人を襲うものもありますし、またダンジョンを放置しますと、ダンジョンスタンピードと言って、魔物がダンジョンからあふれる場合もあるのです。
 訪ねて来る貴族の方々にも、それぞれお伝えしていることですが、俺が携わった仕事がたまたまそうであっただけで、必ずしも討伐せずに解決出来るわけでも、収入源の元になるわけでもありません。
 共生可能なものであれば、それを提案するのはやぶさかではないのですが。」
 俺は困惑しながら答えた。

「もちろんそうだと思います。
 ですが、ことはここまで大きくなってしまいました。
 出来る出来ないではなく、出来るのに冒険者たちが教えないのだと、国民が感じていることが問題なのです。」
「確かに俺が教えているやり方は、冒険者であれば、初心者でなければ、誰でも知っているような内容ばかりではありますが……。」
 一体どうすればいいと言うのか。
 俺は予想外の方向からのトラブルに、すっかり頭を抱えてしまったのだった。

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