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第1部

第36話 予想外のトラブル①

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 俺は王宮に呼ばれ、1人謁見の間で国王陛下に頭を垂れていた。片膝を立ててそこに手をつく、王族の方々と相対する際の正式な控え方だ。
「アスガルド卿。
 このたびはクラーケン討伐に際し、討伐以外の方法の提案により、魔物の驚異を退けたことだけでなく、新たな地場産業を生み出したことを評価し、陛下からの下賜を賜る機会を得たことをお伝え致します。」
 宰相が恭しく言葉を述べる。

「アスガルド卿、おもてをあげよ。」
 国王陛下の言葉に、俺は顔を上げる。
「大変な名誉をたまわり、光栄に存じます。
 ですが俺などが評価をしていただく前に、ぜひとも評価していただきたい者たちがおります。
 その者たちが陛下からの下賜を頂戴しない内に、俺がそれを手にしてしまうのは、順番が間違っていると感じております。
 今この場でそれをお伝えしてもよろしいでしょうか。」
 俺は国王陛下を真っ直ぐに見つめた。

「それはどのような者たちだ、申してみよ。」
 俺は再び頭を垂れる。
「は……。恐れながら申し上げさせていただきます。
 今回のクラーケン討伐にあたり、強制召喚に応じ、先陣を切って勇敢に戦ってくれた冒険者たちがいます。
 彼らが戦ってくれたからこそ、俺は今回の方法を思い付くことが出来ました。
 今回の戦いで、武器を失った者や、防具が傷付いて使えなくなった者も大勢おります。
 俺よりも、まずは彼らを評価いただき、新しい武器や報酬を与えていただきたいのです。」
 俺の言葉に、王様は宰相を見る。

「その冒険者たちの話は初耳だ。
 どのようになっているのだろうか。」
「はい。
 冒険者ギルドが追加の討伐隊を出さなかった事で、話し合いが決裂しておりまして。
 本来でしたら、一次討伐隊の撤退の時点で、報酬や、破損した武器等の精算の話をするのですが、そちらが出来ないままこんにちまで経過してしまいました。
 アスガルド卿をお呼び立てするのが先になってしまいましたが、改めて冒険者ギルドとは、話し合いの場を持たせていただく手はずになっております。」
「──だ、そうだ。
 安心するがよい。」
「は。恐縮です。」
 俺は国王に頭を垂れた。

 国は有事の際の魔物の討伐に際して、王宮の騎士団を出す場合もあるが、あくまで基本Aランクまでにとどまる。
 元Sランクの冒険者から騎士団などに転職する者たちもいるが、扱いとしては、元、になる為、今回のようなSSランクともなると、強制召喚の対象からは外れる。
 兵士たちは、国を守る仕事があるのはもちろんだが、元、であってもSランクに相当する人材が少ないのが原因だ。
 実力者程、安定した仕事よりも、現役のSランク冒険者として稼ぐほうを選ぶ。

 武器や防具が戦闘により破損した場合は、後日費用を精算して貰える。
 だがそれでも、現場に立つ冒険者としては、先に費用の負担や、今より強い武器の供出があって欲しいと思うし、サポートしか出来ないのであっても、1人でも多く戦力が欲しい。
 強制召喚に応じる前提で、冒険者ギルドからSランク認定証が渡されるが、未だにこの問題は解決の目処がたっていない。
 こういうところは前世も今も、お役所仕事だな、と感じてしまう。

「……ところで、今回のことで、アスガルド卿の爵位を引き上げたいと考えておるのだ。
 だが引退したと聞いていたが、まだ叙爵を受けていないのは、何か考えがあっての事だろうか?」
「はい……。
 俺は今、冒険者としては引退はしましたが、魔物と人の橋渡しをする仕事を始めております。
 爵位を受ければ、領地をおさめる必要が出て参ります。また、自分自身で直接働く事がかないません。
 俺の現在の住まいはベルエンテール公爵領の中にあります。領地をおさめるとなると、新たに与えられた土地に引っ越さなくてはなりません。
 ルーフェン村での養蜂も軌道に乗って来たばかりですし、産まれ育った村を離れて生きたいとも思っておりません。
 安定した収入よりも、俺は娘や、愛するまわりの人々の中で、のんびりと暮らしていきたいのです。
 今の生活に大変満足しております。
 ですので、ご提案は大変有り難いのですが、陛下のお気持ちだけ頂戴し、叙爵は辞退させていただく所存です。」

「そうか……。それもよいだろう。
 そなたの仕事に対する評判は、余の耳にまで届いておる。
 今そなたを貴族にすることで、それを失うのであれば、国としても損失かも知れぬ。」
「恐れ入ります。」
「では、爵位の引き上げは、そなたの仕事ぶりに対する評価として妥当ではないな。
 そなた自身は、望めるべく物があれば、どのような物を望む?
 必要ないという選択肢はなしだ。
 示しがつかんのでな。」

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