まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第1部

第34話 集まった人々②

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「大量の木材が必要なのであれば、なぜ私を頼っていただけないのです?
 タタオピの油だけでなく、あなたであれば木であろうと、いつでも最優先にお渡しする準備がこちらにはあるのですよ?」
「この町の役場と町長には、既に許可を取りました。
 我々が材料と人手を提供することで、儲けの半分をいただく契約書も、既に交わしてあります。
 これは町からの正式な公共事業ですよ、アスガルドさん。」
 シュタファー婦人、ベルエンテール公爵、フォトンベルト公爵、ロリズリー男爵が言う。

「釘とか防水塗布剤なんかは、うちから出させて貰うぜ。」
 ニマンドが言う。
「砂を掘るのに人手がいると聞いて、それくらいならって、俺たちも、な。」
「これだけいれば、すぐに終わるだろ?」
「けど、こんだけいたら、逆に人が入りきるかな?」
 マイガーとアントをはじめとする、ルーフェン村の人々。フォークス村のみんな、ザカルナンドさんたち、ザザビー村のニルスさんたちもいる。なぜかチャイムもだ。
「みんなお前の為にと、集まってくれたんだぜ。
 ──お前の新しい仕事が、こんなに浸透してるとはな。」
「ランウェイ、お前がみんなに、声をかけてくれたのか?」
 俺はランウェイに問いかける。

「いや、俺たちが冒険者ギルドに顔を出したら、どこから聞きつけたのか、みんなが集まってたのさ。
 俺たちは、万が一工事中にクラーケンが襲って来た時の為に、安全に誘導出来るよう、護衛をかねて連れて来たってわけだ。」
 ジルドレイが言う。
「さあ、はじめようぜ、アスガルド。
 最初のデカい穴はチャイムが掘るよ。
 最近、あちこちにデカい穴掘り返して困ってたから、運動がてらにちょうどいいぜ。
 その後で、マイガーが、こんな風にしてくれっていう形に、みんなで壁の大きさや高さを揃えるんだ。」
「みんな……。」
 俺はそれ以上、言葉が出なかった。

 それから、クラーケンがいなくなる時間帯を狙って、みんなで作業をすることになった。
 穴を掘った分の砂は海に捨ててもよいとのことだったので、チャイムがかきだした砂を、みんなで海に投げ捨てる。
 ある程度深くなったところで、今度は形を整える。
「それは何をなさってるんですか?」
 砂の穴に打ち込んだ杭の幅に合わせて、下から木の棒を積み上げながら、隙間を接着しているエンリーに、穴の上からソフィアさんが声をかける。
「作業用の木枠をはめ込む前に、砂がこぼれてこないように、固めてるんだ。
 直接木枠を入れると汚れちまうし、無理だからな。」

 しかし、いつ見ても違和感を感じてしまうのは、この中で俺だけなのだろう。
 敬語を使う貴族のソフィアさんに対して、砕けた言葉で普通に話すエンリー。
 この世界の人々は、学校に行かない。
 貴族は家庭教師を雇い様々な事を学ぶが、村や街の人たちは、親や近所の人たちから生活に必要なことのみを学んでいく。
 当然その教育の中に敬語なんてものは存在しない為、王侯貴族とかかわる機会のある、冒険者ギルドにでも勤めるか、村や街の代表として役場などと対応する立場の人間でない限り、村や街の人たちが敬語を覚えることはない。

 偉い立場の人たちが敬語で話しかけてくるのに対し、タメ口のような言葉で話すそれ以外の人たちという、前世の記憶がある俺からすると、なんとも珍妙な光景が出来上がる。
 俺はついつい敬語を混ぜてしまうことがあるのだが、その都度周りから、気味の悪いものを見たような目で見られてしまう。
 ちょっとしたことではあるが、この世界に馴染んで暮らす為には、あまり前世の常識を引きずらないようにすることが大切なのだ。

「ほら、こんな風に、さ……。」
 下を向いて作業をしながら、ソフィアさんの質問に答えていたエンリーが、顔を上げてソフィアさんと目があった瞬間、エンリーとソフィアさんが、それぞれバチッと音がしそうなくらい、瞬間真っ赤になってお互いの顔を背ける。
「──あら?」
「ほう?」
 シュタファー婦人とロリズリー男爵も、2人の様子のおかしい態度に小さく首を傾げる。

「──あの若者のことをご存知なのですか?」
「ええ、うちで経営している孤児たちの施設を、以前から無償で手伝ってくれているのです。
 今は執事として雇わさせていただいておりますわ。」
「ほう、それは関心な若者だ。」
「私の家は継がせる程の財産はありませんが、もし出来る事なら、彼に継がせたいと思っておりますの。
 年寄りのほんのささやかな夢ですけれど。」
「そうでしたか、実はうちの娘は今結婚相手を探しておりましてな。
 アスガルドさんのおかげで、最近持参金の目処がたちそうなのです。」
「持参金なんて、本当に古臭い制度ですわよね。
 貴族の娘が平民に下賜出来ないというのもそうですわ。」
「大切なのは、お互いの気持ちですからなあ。」
「ええ、ほんとにそう……。」
 ソフィアさんから顔を背けた不自然な格好のままで、黙々と作業を続けるエンリーは、シュタファー婦人とロリズリー男爵の間で、そんなやり取りがかわされているなど、夢にも思っていないのだった。

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