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第1部

第31話 獣の檻の無謀な挑戦②

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「そうだよ、みんなこの間のことで心が折れてる。
 またダンジョンに挑む為にも、自分たちの実力を試す為にも、大人数でSSランクに挑めるのはむしろチャンスなんじゃない?
 また同じダンジョンに挑んでもいいけど、失敗続きじゃ、いつまで経っても前に進めなくなるでしょ?」
 いつも前向きにみんなを鼓舞する、魔道士のサーディンが言う。
「そうだね……。勝って景気付けしたいよね。
 僕らが再び、あのダンジョンに挑む為にも。」
 弓使いのグラスタが、決意を秘めた表情で言う。
「──みんなの気持ちは分かった。ギルド獣の檻は、全員で今回の討伐に当たることにする。」

 この場に武闘家のアノンはいない。
 実力的にはSランクを一人で倒せる時点でSランク扱いだが、まだSランクのダンジョンクリアに参加したことがない為実績がなく、冒険者ギルドの定める認定証のランクでいうとAランクだからだ。
 国からの強制招集の対象にならない。
 戦わなくて済むなら、SSランクの魔物とだなんて、戦いたくないというのが、今の全員の本音だ。
 ギルドの運営の為にも、自分たちの中の誰か一人でも欠けた場合に、補充出来る戦力となるアノンは残しておきたい。

 国の有事ではあるが、ギルマスとして、ランウェイは、戦いの後のことも、残されたBランクパーティーのことも、考えなくてはならないのだ。
 自分たちのところばかりが戦力を出さず、他のSランクギルドからも実力者を出して欲しい。
 サポートとして国からも兵士や武器防具などを供出して欲しい。戦闘で駄目になった場合、今と同じレベルのものを揃えるのにいくらかかることか。
 ダンジョンの戦闘で既にボロボロで、おそらく次にSSランクと戦えば、もう持たない。

 獣の檻のメンバーは、アゾルガの港にやって来ていた。
 今はいったん魔物は沖へ引っ込んでいるが、他のギルドと戦闘の打ち合わせをしたり、下見をする為だ。
「──よう、お前らのとこも来てたのか。」
 ランウェイに声をかけてきたのは、同じSランクギルド、白煙の狼のギルマス、ジルドレイだ。
 かなりのベテランギルドで、実力者揃い。ランウェイは、いつか彼らを越えたいという思いから、獣の檻なんていうギルド名をつけたのだ。
 縦横無尽にダンジョンを荒らし回る、狼の群れの動きを封じるのは、この俺たちだ、と。

「他にどこが来てるんだ?」
「うちから6人、漆黒の翼が4人、鉄壁の鋼が5人だな。」
「──4人?漆黒の翼のSランクは、5人じゃなかったか?」
「1人大怪我したんだとよ。
 大分前から4人でやってるぜ。
 そういや、お前らのとこも、アスガルドは抜けたんじゃなかったのか?
 さっきそこで見かけたが。」
「……アスガルドが?」
 獣の檻のメンバーが、それぞれ顔を見合わせる。

「……奴は一応、引退ってことになってるから、呼ばれないと思うんだが、見間違いじやないのか?」
「いや、何でも引退したSランクにも、国からの指示で声をかけているらしい。
 基本ダンジョンに潜っているせいで、現役の集まりが悪いからな。
 迷路みたいなダンジョンに潜ってるやつらを探しに行くような、非効率な真似をするより、引退したとはいえ、地上にいる元Sランクを引っ張りだそうって魂胆だろう。
 ──つまり、俺たちが失敗した時の保険さ。
 舐められたモンだな、俺たちも。」

 そうは言うが、正直Sランク20人でも不安は残る。
 この何十年。少なくともランウェイが冒険者になってから、1度もSSランクがダンジョン以外で出現したことなどなかったのだ。
 ランクは冒険者ギルドが定めたものとはいえ、戦い方も実力も、Sランクの冒険者ごとに異なるように、SSランクの魔物も、その程度に差があるのだ。
 ましてや、最高難易度と言われる難攻不落のダンジョンをクリアした、Sランクギルドはまだ存在しない。

 つまり、今ここに集まっている冒険者たちは、誰一人として、SSランクと戦って勝ったことがない奴らの集まりなのだ。
 国が保険として、引退した冒険者を集めようとしているのも、おそらくは本当なのだろう。
 それが、現場にも出す為であるのか、他の潜っているSランクギルドの面々を探しに行く為なのかは分からないが、少なくとも。
 ──俺たちは、戦っても勝てない。
 そう思われているのだ。

 過去に出現記録と討伐記録があることから、おそらく国と冒険者ギルドは、討伐に必要なSランクの人数を把握しているのだろう。
 自分たちに求められているのは、もっと人数が集められるようになるまでの、ただの時間稼ぎ。
 そう思うと、国と冒険者ギルドの動きも納得が出来た。
 20人のSランクが集まっても、足止めにしかならないSSランクの魔物。
 勇気を奮い起こしてやってきたものの、ランウェイは逃げ出したい気持ちを抑えるので精一杯だった。

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