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第1部
第31話 獣の檻の無謀な挑戦①
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獣の檻のギルマスであるランウェイは、国からの依頼に愕然としていた。
有事の際はSランクは必ず強制招集される。それは分かっていたことだったが、アゾルガの港に現れた魔物はSSランク。
自分たちが先日挑んで失敗した、難攻不落、最高難易度のダンジョンの、ボスにたどり着く手前で自分たちがやられた相手と同じレベルだったからだ。
Sランクギルドの中でも上位の存在。驕りがなかったと言われれば嘘になるかも知れない。
だがまさか、ボスにすらたどり着けずに撤退するハメになるとは思ってもいなかった。
あと一歩のところで、などと言うレベルではなく、まるで歯が立たなかったのだ。
Sランクが10人いても勝てるか分からないと言われる相手。
それがSSランクの魔物ではあるが、こんなにも赤子のように捻り潰されるなど、冒険者を始めたての時に挑んだCランクの魔物以来だ。
この事はメンバーの心をいたく折った。
アスガルドではなく、武闘家のアノンを選んだ事は、全員が納得していたし、実際戦力としてはアノンの方が上だった。
Sランクの魔物をテイムする実力がありながら、Bランクの魔物であるリッチをテイムすることにこだわるあまり、本来すべてを魔物に任せる筈のテイマーにも関わらず、自分で戦うようになった男。
Aランクまではそれでも良かった。だがやはりテイマー。Sランクの実力があるとはいえ、近接職の役割を果たすのは当然難しい。
Sランクを一人で倒せるアノンと、Aランクまでしか一人で倒せず、Sランクの魔物が中心のダンジョンでは、探索とサポートのみになってしまったアスガルド。
実力がなく、単純に戦力にならないというのであれば、自分たちも、こんな直前まで決断出来ないということはなかった。
代わる代わる全員が、それとなくアスガルドのところに向かい、全員でダンジョンをクリアしたいという夢を話した。
自分たちだって、出来る事なら創立メンバー全員で、最高難易度のダンジョンに潜りたかった。
子どもの頃からの2人の夢だった。だからギルマスのランウェイは、何度となくアスガルドを説得をした。
だがアスガルドは頑なだった。ダンジョンに潜る3日前にも、最後の説得に向かった。
冒険者ギルド権限で捕獲保管されているSランクの魔物を、借りるか譲り受けてテイムすれば、今すぐ戦力に変わるのだ。
だが、リッチと一緒に行きたいんだという、アスガルドの答えは変わらなかった。
アスガルドのピンチを誰よりも救ってきたのがリッチであることも分かる。
リッチがいなければ死んでいたであろう場面も、これまでにも何度となくあった。
親もなく、妻に逃げられ、一人娘と離れて暮らすアスガルドは、家族のようにリッチを可愛がっていた。
リッチを手放すことが、アスガルドにとってどれだけ辛いことであるのか。
それは何より幼なじみの自分が一番よく知っている。
それでもテイマーがテイム出来る魔物は一体なのだ。そのまま潜れば死ぬのはリッチかアスガルドなのだ。
長年パーティーを組んだ自分たち以外とはやりたくないというのも分かる。
自分が同じ立場に立つことがあったなら、迷わず抜けるだろうとランウェイは思う。
だが、いなくなって欲しくはなかった。それでも残って、いつか気持ちが変わる日を待ちたかった。
だがアスガルドの決断は早かった。
そうして、こちらが提案した資金稼ぎメンバーにすら残らず、抜けて行ったのだ。
双方にとって、仕方のない決断だと思った。だが、寂しくないかと言われれば嘘だった。
Aランクのギルドのままであれば、きっとこんな選択肢はなかった。
最高難易度に挑もうと思える実力がついたこと。アスガルドがリッチに出会ってしまったこと。
その時にもう、自分たちの道は分かれていたのだと、そう思う。
魔物の知識が豊富なアスガルドがいると、ダンジョンの中はとても快適で、安全な寝床も確保しやすく、危険なダンジョンの中にも関わらず、楽しいとすら思えた。
お互いに気持ちがあるだけに、戦力を優先しないアスガルドを、ただ責めるということは、メンバーの誰にも出来なかった。
「──どうする?」
ランウェイは、ダンジョン失敗の傷が未だに癒えていないメンバーに問いかける。
「どうするも何も、強制召喚だろ?
今ダンジョン内にいるわけじゃない俺たちに、断る権利はねえぜ?」
剣士のサイファーが言う。
「それに、ダンジョンの中と違って、いくらでも他の冒険者が呼べるわけでしょう?
私たちだけってことはないだろうし、倒せる可能性はあるんじゃないかしら。」
槍使いのリスタが言う。
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有事の際はSランクは必ず強制招集される。それは分かっていたことだったが、アゾルガの港に現れた魔物はSSランク。
自分たちが先日挑んで失敗した、難攻不落、最高難易度のダンジョンの、ボスにたどり着く手前で自分たちがやられた相手と同じレベルだったからだ。
Sランクギルドの中でも上位の存在。驕りがなかったと言われれば嘘になるかも知れない。
だがまさか、ボスにすらたどり着けずに撤退するハメになるとは思ってもいなかった。
あと一歩のところで、などと言うレベルではなく、まるで歯が立たなかったのだ。
Sランクが10人いても勝てるか分からないと言われる相手。
それがSSランクの魔物ではあるが、こんなにも赤子のように捻り潰されるなど、冒険者を始めたての時に挑んだCランクの魔物以来だ。
この事はメンバーの心をいたく折った。
アスガルドではなく、武闘家のアノンを選んだ事は、全員が納得していたし、実際戦力としてはアノンの方が上だった。
Sランクの魔物をテイムする実力がありながら、Bランクの魔物であるリッチをテイムすることにこだわるあまり、本来すべてを魔物に任せる筈のテイマーにも関わらず、自分で戦うようになった男。
Aランクまではそれでも良かった。だがやはりテイマー。Sランクの実力があるとはいえ、近接職の役割を果たすのは当然難しい。
Sランクを一人で倒せるアノンと、Aランクまでしか一人で倒せず、Sランクの魔物が中心のダンジョンでは、探索とサポートのみになってしまったアスガルド。
実力がなく、単純に戦力にならないというのであれば、自分たちも、こんな直前まで決断出来ないということはなかった。
代わる代わる全員が、それとなくアスガルドのところに向かい、全員でダンジョンをクリアしたいという夢を話した。
自分たちだって、出来る事なら創立メンバー全員で、最高難易度のダンジョンに潜りたかった。
子どもの頃からの2人の夢だった。だからギルマスのランウェイは、何度となくアスガルドを説得をした。
だがアスガルドは頑なだった。ダンジョンに潜る3日前にも、最後の説得に向かった。
冒険者ギルド権限で捕獲保管されているSランクの魔物を、借りるか譲り受けてテイムすれば、今すぐ戦力に変わるのだ。
だが、リッチと一緒に行きたいんだという、アスガルドの答えは変わらなかった。
アスガルドのピンチを誰よりも救ってきたのがリッチであることも分かる。
リッチがいなければ死んでいたであろう場面も、これまでにも何度となくあった。
親もなく、妻に逃げられ、一人娘と離れて暮らすアスガルドは、家族のようにリッチを可愛がっていた。
リッチを手放すことが、アスガルドにとってどれだけ辛いことであるのか。
それは何より幼なじみの自分が一番よく知っている。
それでもテイマーがテイム出来る魔物は一体なのだ。そのまま潜れば死ぬのはリッチかアスガルドなのだ。
長年パーティーを組んだ自分たち以外とはやりたくないというのも分かる。
自分が同じ立場に立つことがあったなら、迷わず抜けるだろうとランウェイは思う。
だが、いなくなって欲しくはなかった。それでも残って、いつか気持ちが変わる日を待ちたかった。
だがアスガルドの決断は早かった。
そうして、こちらが提案した資金稼ぎメンバーにすら残らず、抜けて行ったのだ。
双方にとって、仕方のない決断だと思った。だが、寂しくないかと言われれば嘘だった。
Aランクのギルドのままであれば、きっとこんな選択肢はなかった。
最高難易度に挑もうと思える実力がついたこと。アスガルドがリッチに出会ってしまったこと。
その時にもう、自分たちの道は分かれていたのだと、そう思う。
魔物の知識が豊富なアスガルドがいると、ダンジョンの中はとても快適で、安全な寝床も確保しやすく、危険なダンジョンの中にも関わらず、楽しいとすら思えた。
お互いに気持ちがあるだけに、戦力を優先しないアスガルドを、ただ責めるということは、メンバーの誰にも出来なかった。
「──どうする?」
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「どうするも何も、強制召喚だろ?
今ダンジョン内にいるわけじゃない俺たちに、断る権利はねえぜ?」
剣士のサイファーが言う。
「それに、ダンジョンの中と違って、いくらでも他の冒険者が呼べるわけでしょう?
私たちだけってことはないだろうし、倒せる可能性はあるんじゃないかしら。」
槍使いのリスタが言う。
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