まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
50 / 134
第1部

第29話 新たな共生関係①

しおりを挟む
 俺はロリズリー男爵と、ソフィアさんと共に、シュシュモタラの群生地へと向かう為、リッチを伴ってゆっくりと山を登っていた。
「──お二人は、植物の生き残りをかけた自衛方法についてはご存知ですか?」
「はい、棘を生やしたり、味を悪くしたりですとか、そういったもののことですよね?」

 ソフィアさんがスカートでの山登りに、少し息を切らしながら答える。
「そうです。シュシュモタラはそもそも、幹自体に棘があり、それだけでも自衛手段となっているのですが、──それを意に介さない天敵が存在します。」

「それが、“天敵の天敵は天敵”、ということなのですか?」
 ロリズリー男爵が、大分遅れてついて来ながら言う。俺は一度山道の途中で足を止め、ロリズリー男爵が追い付くのを待った。
「はい、正確には、“天敵の天敵が、天敵によって駆逐される”、なのですが、語呂の良さから、略してそう呼ばれているのです。」

「……“天敵の天敵が、天敵によって駆逐される”、ですか。なんだかとっても不思議な言葉ですね。まるで魔法の呪文のようです。」
 ソフィアさんが息を切らしながら言う。
「シュシュモタラの天敵はマニダラという、小さな虫の魔物です。
 シュシュモタラの木の葉を、特に好んで食べる魔物です。」
 俺はシュシュモタラの木を見上げる。

「──ああ、あれが最後の1体ですね。」
 俺は飛び立っていく、ゾーイよりもひとまわり大きな鳥の魔物を見て言う。
「あれはいったい……?」
「あれはスカイラーという鳥の魔物です。
 スカイラーという魔物は、ゾーイを好んで食べる、いわばゾーイの天敵ですよ。」
 俺たちはようやくシュシュモタラの群生地へと到着した。そこにはもう、ゾーイは1体たりとも存在しなかった。

「シュシュモタラは、マニダラからの自衛手段として、マニダラの天敵である、ゾーイを呼び寄せる匂い物質を出せるのです。
 それにより、この山にはゾーイが大量に集まりました。本来の生息地でないにも関わらず。ですが、マニダラも負けちゃいない。
 彼らはゾーイの天敵である、スカイラーを呼び寄せる匂い物質を出した。
 それが、“天敵の天敵が、天敵によって駆逐される”、ということなのです。」

 ソフィアさんは、我が意を得たり、という表情で、
「つまりそれはシュシュモタラとゾーイが。そしてマニダラとスカイラーが。それぞれ協力関係にある、ということでしょうか?」
 と目を輝かせた。
「その通りです。」
 俺は大きくうなずく。

「シュシュモタラに集まったマニダラを、シュシュモタラに呼び寄せられたゾーイが食べて減らし、その間にマニダラに呼び寄せられたスカイラーが、ゾーイを食べることで、残りのゾーイも逃げ出した、ということです。
 ゾーイを食べ尽くすと、スカイラーはまた元いた住処に戻って行きます。
 あとは、ゾーイが残した巣を撤去さえすれば、シュシュモタラの木には、マニダラもゾーイもいなくなる、というわけです。」

 シュシュモタラという棘のある植物は、タラの木と、リママメ、またはライマメと呼ばれる植物の、間の子のような木だ。
 新芽はタラの味がして、リママメのような実をつける。
 リママメは葉をナミハダニというダニに食べられることがあるのだが、するとリママメは、ナミハダニの天敵であるチリカブリダニを呼び寄せる匂い物質を出すのだ。

 チリカブリダニは、好物であるナミハダニを食べて退治をするという、リママメと共生関係にある昆虫だ。
 チリカブリダニは生物農薬として、イチゴ栽培などでも、カンザワハダニやナミハダニを防除する為に、広く使用されている。チリカブリダニだけでなく、他にも天敵昆虫となる昆虫が使用されるケースもある。
 これと同じことが、シュシュモタラと、マニダラと、ゾーイと、スカイラーの間にも存在している、という訳だ。

────────────────────

ファンタジー小説大賞参加してます。
応援よろしくお願いいたします。
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

150年後の敵国に転生した大将軍

mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。 ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。 彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。 それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。 『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。 他サイトでも公開しています。

7人のメイド物語

モモん
ファンタジー
理不尽な人生と不自由さ…… そんな物語を描いてみたいなと思います。 そこに、スーパーメイドが絡んで……ドタバタ喜劇になるかもしれません。

処理中です...