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第1部
第29話 新たな共生関係①
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俺はロリズリー男爵と、ソフィアさんと共に、シュシュモタラの群生地へと向かう為、リッチを伴ってゆっくりと山を登っていた。
「──お二人は、植物の生き残りをかけた自衛方法についてはご存知ですか?」
「はい、棘を生やしたり、味を悪くしたりですとか、そういったもののことですよね?」
ソフィアさんがスカートでの山登りに、少し息を切らしながら答える。
「そうです。シュシュモタラはそもそも、幹自体に棘があり、それだけでも自衛手段となっているのですが、──それを意に介さない天敵が存在します。」
「それが、“天敵の天敵は天敵”、ということなのですか?」
ロリズリー男爵が、大分遅れてついて来ながら言う。俺は一度山道の途中で足を止め、ロリズリー男爵が追い付くのを待った。
「はい、正確には、“天敵の天敵が、天敵によって駆逐される”、なのですが、語呂の良さから、略してそう呼ばれているのです。」
「……“天敵の天敵が、天敵によって駆逐される”、ですか。なんだかとっても不思議な言葉ですね。まるで魔法の呪文のようです。」
ソフィアさんが息を切らしながら言う。
「シュシュモタラの天敵はマニダラという、小さな虫の魔物です。
シュシュモタラの木の葉を、特に好んで食べる魔物です。」
俺はシュシュモタラの木を見上げる。
「──ああ、あれが最後の1体ですね。」
俺は飛び立っていく、ゾーイよりもひとまわり大きな鳥の魔物を見て言う。
「あれはいったい……?」
「あれはスカイラーという鳥の魔物です。
スカイラーという魔物は、ゾーイを好んで食べる、いわばゾーイの天敵ですよ。」
俺たちはようやくシュシュモタラの群生地へと到着した。そこにはもう、ゾーイは1体たりとも存在しなかった。
「シュシュモタラは、マニダラからの自衛手段として、マニダラの天敵である、ゾーイを呼び寄せる匂い物質を出せるのです。
それにより、この山にはゾーイが大量に集まりました。本来の生息地でないにも関わらず。ですが、マニダラも負けちゃいない。
彼らはゾーイの天敵である、スカイラーを呼び寄せる匂い物質を出した。
それが、“天敵の天敵が、天敵によって駆逐される”、ということなのです。」
ソフィアさんは、我が意を得たり、という表情で、
「つまりそれはシュシュモタラとゾーイが。そしてマニダラとスカイラーが。それぞれ協力関係にある、ということでしょうか?」
と目を輝かせた。
「その通りです。」
俺は大きくうなずく。
「シュシュモタラに集まったマニダラを、シュシュモタラに呼び寄せられたゾーイが食べて減らし、その間にマニダラに呼び寄せられたスカイラーが、ゾーイを食べることで、残りのゾーイも逃げ出した、ということです。
ゾーイを食べ尽くすと、スカイラーはまた元いた住処に戻って行きます。
あとは、ゾーイが残した巣を撤去さえすれば、シュシュモタラの木には、マニダラもゾーイもいなくなる、というわけです。」
シュシュモタラという棘のある植物は、タラの木と、リママメ、またはライマメと呼ばれる植物の、間の子のような木だ。
新芽はタラの味がして、リママメのような実をつける。
リママメは葉をナミハダニというダニに食べられることがあるのだが、するとリママメは、ナミハダニの天敵であるチリカブリダニを呼び寄せる匂い物質を出すのだ。
チリカブリダニは、好物であるナミハダニを食べて退治をするという、リママメと共生関係にある昆虫だ。
チリカブリダニは生物農薬として、イチゴ栽培などでも、カンザワハダニやナミハダニを防除する為に、広く使用されている。チリカブリダニだけでなく、他にも天敵昆虫となる昆虫が使用されるケースもある。
これと同じことが、シュシュモタラと、マニダラと、ゾーイと、スカイラーの間にも存在している、という訳だ。
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「──お二人は、植物の生き残りをかけた自衛方法についてはご存知ですか?」
「はい、棘を生やしたり、味を悪くしたりですとか、そういったもののことですよね?」
ソフィアさんがスカートでの山登りに、少し息を切らしながら答える。
「そうです。シュシュモタラはそもそも、幹自体に棘があり、それだけでも自衛手段となっているのですが、──それを意に介さない天敵が存在します。」
「それが、“天敵の天敵は天敵”、ということなのですか?」
ロリズリー男爵が、大分遅れてついて来ながら言う。俺は一度山道の途中で足を止め、ロリズリー男爵が追い付くのを待った。
「はい、正確には、“天敵の天敵が、天敵によって駆逐される”、なのですが、語呂の良さから、略してそう呼ばれているのです。」
「……“天敵の天敵が、天敵によって駆逐される”、ですか。なんだかとっても不思議な言葉ですね。まるで魔法の呪文のようです。」
ソフィアさんが息を切らしながら言う。
「シュシュモタラの天敵はマニダラという、小さな虫の魔物です。
シュシュモタラの木の葉を、特に好んで食べる魔物です。」
俺はシュシュモタラの木を見上げる。
「──ああ、あれが最後の1体ですね。」
俺は飛び立っていく、ゾーイよりもひとまわり大きな鳥の魔物を見て言う。
「あれはいったい……?」
「あれはスカイラーという鳥の魔物です。
スカイラーという魔物は、ゾーイを好んで食べる、いわばゾーイの天敵ですよ。」
俺たちはようやくシュシュモタラの群生地へと到着した。そこにはもう、ゾーイは1体たりとも存在しなかった。
「シュシュモタラは、マニダラからの自衛手段として、マニダラの天敵である、ゾーイを呼び寄せる匂い物質を出せるのです。
それにより、この山にはゾーイが大量に集まりました。本来の生息地でないにも関わらず。ですが、マニダラも負けちゃいない。
彼らはゾーイの天敵である、スカイラーを呼び寄せる匂い物質を出した。
それが、“天敵の天敵が、天敵によって駆逐される”、ということなのです。」
ソフィアさんは、我が意を得たり、という表情で、
「つまりそれはシュシュモタラとゾーイが。そしてマニダラとスカイラーが。それぞれ協力関係にある、ということでしょうか?」
と目を輝かせた。
「その通りです。」
俺は大きくうなずく。
「シュシュモタラに集まったマニダラを、シュシュモタラに呼び寄せられたゾーイが食べて減らし、その間にマニダラに呼び寄せられたスカイラーが、ゾーイを食べることで、残りのゾーイも逃げ出した、ということです。
ゾーイを食べ尽くすと、スカイラーはまた元いた住処に戻って行きます。
あとは、ゾーイが残した巣を撤去さえすれば、シュシュモタラの木には、マニダラもゾーイもいなくなる、というわけです。」
シュシュモタラという棘のある植物は、タラの木と、リママメ、またはライマメと呼ばれる植物の、間の子のような木だ。
新芽はタラの味がして、リママメのような実をつける。
リママメは葉をナミハダニというダニに食べられることがあるのだが、するとリママメは、ナミハダニの天敵であるチリカブリダニを呼び寄せる匂い物質を出すのだ。
チリカブリダニは、好物であるナミハダニを食べて退治をするという、リママメと共生関係にある昆虫だ。
チリカブリダニは生物農薬として、イチゴ栽培などでも、カンザワハダニやナミハダニを防除する為に、広く使用されている。チリカブリダニだけでなく、他にも天敵昆虫となる昆虫が使用されるケースもある。
これと同じことが、シュシュモタラと、マニダラと、ゾーイと、スカイラーの間にも存在している、という訳だ。
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