上 下
43 / 128
第1部

第25話 魔物に操られた犬②

しおりを挟む
 エンリーは怯えたように、その時のことを思い出してブルブルと震えだす。
「ベルのあとをつけて、何をしているのか見張ってたんだけど、裏の森に魔物といるのを見ちゃったんだ……。
 ベルは毎日、その魔物のところに行ってるんだよ。」
「──魔物と?」
 それは有力な情報だ。
「それはどんな魔物だ?
 分かる限りでいい。特徴を教えて欲しい。
 例えば、目が赤く光っているだとか、灰色の肌で、人型をしていただとか、そういうことはなかったか?」

「目は……、赤かったと思うよ。
 それに灰色だった。
 ──でも、人型なんかじゃなかったぜ?」
 人型じゃない?
「じゃあ、具体的にどんな魔物だったんだ?」
「全身が毛むくじゃらの毛に覆われた、目の赤い灰色の魔物だよ。
 とても大きくて、俺の背丈くらいはあったな。」

 始祖ではないようだが、魔物を介してベルが従魔にされたのであれば、人も危険になってくる。
 もちろんそれ自体が従魔にされた魔物であるのなら、始祖が近くにいる可能性も捨てきれない。
 せめて遠くからでも様子が見たい。
「エンリー、今日もベルはそこに行ってるんだろう?
 すまないが、その場所に案内してくれないか。」
「ええっ!?
 そ……そうだよな、分かった。」
 エンリーはゴクリとツバを飲み込んだ。

 森の中を歩く道すがら、俺はもっと詳しいベルの状態を、エンリーから聞き出す事にした。
「エンリー、ベルは急にシュタファーさんに吠えたり、牙をむくようになったとのことだが、……シュタファーさんが噛みつかれるような事はなかったか?」
「いや?俺の知る限りそれはないよ。」
「餌はきちんと食べるのか?」
「それは食べてるみたいだ。
 餌入れはいつも空になっているから。
 むしろいつもより、たくさん欲しがるようになったみたいだ。」

 ふむ?
 始祖に仲間にされたとしても、始祖が従魔化した魔物に仲間にされたのだとしても、奴らの主食は血だ。
 味を不味いと感じるようになるのか、段々と今まで食べていたものを口にしなくなる。
「ちなみに様子がおかしくなってどれくらいなんだ?」
「確か2ヶ月くらい前からって、シュタファーさんは言ってたよ。」

 2ヶ月だって?
 それなら別のことが原因かも知れない。
 血を吸われたのであれば、1ヶ月もあれば完全に魔物化し、普通の食事を受け付けなくなる。
「──あそこだよ。
 いつもあそこに、魔物と一緒にいるんだ。」
 木々を掻き分け、出来るだけ音をさせないようにしながら覗くと、ベルらしき茶色い犬と、巨大な灰色の毛むくじゃらの魔物の姿が見えた。

 フサフサの体毛が長くのびて、殆ど灰色の鞠のようだ。
 たが、エンリーは赤い目だと言ったが、この距離だからとはいえ、とても目の色までは確認出来ない。
「お前、どうやって目の色を確認したんだ?
 俺には全然、目の位置なんて分からないぞ?」
「俺が見かけた時は、ここまで毛むくじゃらじゃなかったんだよ。」
 なるほどな。

「最悪のケースを想定していたんだが、これなら大丈夫そうだ。
 エンリー、シュタファーさんを連れて来てくれないか?
 あと、これから言うものを持って来てくれ。」
「ええっ!?
 ほ、ホントに大丈夫なのかよ、犬を操る魔物だぜ?
 俺たちだって、近付いたら操られちまうんじゃ……。」
「まあ、ベルはある意味、やられちまってることには、間違いないがな。」
 笑う俺に、エンリーは訳がわからない、という顔をした。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...