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第1部

第20話 石に埋もれた村①

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「まあ、そういう訳だから、ワシのところでも、儲かる魔物を見つけて欲しいのだよ。」
 ──またか。
 フォトンベルト公爵の売り出した、タタオピの髪油が爆発的な人気が出てからというもの、こういった、儲けられる魔物を、という輩があとを絶たない。
 魔物を使えば濡れ手で粟とでも思っているのだろう。
 特に、あまり金のない貴族か、既にかなり儲けているのに、更に、と思っている強欲なタイプかのいずれかがやってくる。

 俺が提案しているのは、魔物を活かすやり方といっても、必ず儲けに繋がるようなことではなく、自分たちの生活に組み込んで支障がなくする為のものだ。
 たまたまタタオピの油は売り物になるから提案しただけで、商売のタネを楽に紹介して貰うつもりで集まって来られても困る。
 そもそもが、被害に困っている人たちに、被害そのものをプラスに変えるアドバイスをしているだけだ。

 特に自分の領地に魔物の被害がないのであれば、普通に冒険者を雇って狩りや討伐にでも行かせて、そのクエスト完了報奨金を受け取ったり、素材を売れば済む話だ。
 実際支援者という形で、冒険者を抱えている貴族も少なくない。
 恐らく、何もせずにタタオピの油が取れる環境になった、という部分だけを聞いていたのだろう。

 たまたまタタオピは住む環境がそうさせただけで、そんな事の出来る魔物は、俺の知る中でも殆どいない。
 おまけにそこに生息していない魔物を無理やり連れて来たところで、自然の一部なのだから、当然その場所にいつかない。
 誰かがフォトンベルト公爵の山からタタオピを盗み、自分の山にペスフォルを植えて、そこにタタオピをはなしたとしても、タタオピは翌日にはフォトンベルト公爵の山に逃げ帰ることだろう。
 言うとおりになんてさせられないし、ほんの少しその恩恵にあずかれるというだけだ。

 まもののおいしゃさんは特殊な仕事で、まだまだ理解が追いつかない人も多い。
 だからこうして事前に話を聞いてから、仕事を受けるようにしているのだが、そろそろウンザリして来た。
「ロリズリー男爵。何度もお伝えしていますように、あなたの領地に魔物が出ているわけでないのであれば、俺に手伝えることはない。
 ましてや出ていたとしても、あなたが想像なさっているような、勝手に儲けに繋がるような魔物というのは殆ど存在しない。
 そういうことであればお引取り願いたい。」

 ロリズリー男爵は顔を真っ赤にして怒り始める。
「ぶ、ぶ、ぶ、無礼な!
 男爵たるこのわしが、貴様のような一介の冒険者に仕事を与えてやろうというのだ、それをよくも……!」
 俺はこの手の権威をひけらかすタイプには、あまり使いたくもないのだが、こう返すことにしている。
「──無礼はあなただ、ロリズリー男爵。
 あなたは俺がどんな立場の人間であるかご存知ないようだ。
 俺はSランク冒険者として15年以上ギルドに席を置いている。
 叙爵こそ保留しているがな。
 爵位にこだわるあなたが、この意味をお分かりにならない筈がない。」

 Sランク冒険者は、国の宝で、最も武勲を上げた騎士に等しい。
 その活躍年数に応じて、本人が望めば爵位を授かることが出来る。
 いざという時国を守るには、Sランク冒険者たちの力が不可欠だ。
 だがそれを分かっていない、祖先が貢献した恩恵に預かっているに過ぎない、名ばかりの貴族たちが、貴族の立場をかさにきて圧力をかけ、無理やり仕事を引き受けさせようとしたり、冒険者を上から目線でないがしろに扱う姿に、世界中の冒険者ギルド連盟が反発を起こしたのだ。

 ギルド員の数の方が貴族たちよりも多く、かつ、国に最も多く税収をもたらしているのも、一部の貴族を除けば冒険者たちなのだ。
 国はそれを無視することが出来ず、一部のみに授けていた爵位を、貢献年数により確実に与えると定め、冒険者の地位向上につとめた。
 Sランク冒険者にタダで仕事をさせてはいけない、という冒険者ギルドの決まりも、この時に出来たものだ。
 Sランクになって3年で准男爵。
 5年で男爵。
 7年で子爵。
 10年で伯爵。
 ──では15年では?

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