まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
31 / 134
第1部

第19話 父の想いとタタオピ②

しおりを挟む
 俺たちはフォトンベルト公爵邸に戻った。
「傷を付けたコブは、時間が経てば勝手に塞がりますが、油を弾く布などで塞いでやってもよいでしょう。
 ここは定期的に長雨が降る地域だ。その都度タタオピの油が流れ出ますが、ペスフォルの木が吸ってくれるので問題ありません。」
 フォトンベルト公爵は目を丸くしながら、
「山はきれいに保たれ、タタオピがいついても問題ない。
 こんなやり方があったとは……。」

「タタオピの出す油は、髪にとても良く、美しい髪が約束されます。
 これだけの量をタタオピから直接集めるのは難しいですが、この山であれば、タタオピから流れた油を、勝手にペスフォルの木が集めてくれる。
 これを貴婦人たちに売れば、大儲け間違いないでしょう。
 ぜひ一度、奥様に試してみていただきたいのですが。」

「なんですと?
 それで木を植え替えても、むしろ儲かるとおっしゃったのですね。
 国中の女性を虜にする魔物ですか……。
 ──おい、エリンシアを呼んで来なさい。
 若い女性の感想を聞くのが一番だ。」
 そうエンスリーに声をかけると、呼ばれて来たのは若くて美しいお嬢さんだった。
「娘のエリンシアです。」
「エリンシアと申します。」
 丁寧にスカートを摘んでお辞儀をするエリンシアに、俺は座ったまま会釈をした。

「娘に使い方を教えてやって欲しいのですが。」
「簡単です。
 いつものように髪を洗った後で、タタオピの油を髪につけて、5分以上放置して下さい。それで見違えるように生まれ変わるでしょう。」
 エリンシアが早速お供を連れて風呂に行き、俺たちは戻って来るのを待った。

 ドアが開くなりエリンシアが叫ぶ。
「お父様!わたくし、これが欲しいわ!」
「何だね、はしたない。」
「これを見ていただきたいの。
 私の言っていることが、お分かりいただけると思います。」
 エリンシアが後ろを向いて髪を見せた。
 艷やかにきらめき、さらさらとこぼれる髪。その美しさに、我が娘ながら、フォトンベルト公爵は、思わず、ホウ……とため息を漏らす。

「これは……期待以上だ。
 売れる。間違いなく売れるでしょう。」
「タタオピはそのままにしておいても?」
「もちろん構いません!
 むしろずっといて欲しいくらいだ。
 ニクスナブル領には申し訳ないが、幸運が舞い込んで来たとしか思えない。
 アスガルドさん、あなたの仕事ぶりも期待以上でした。
 私からもぜひ、あなたの仕事を広めさせていただきます。」
 フォトンベルト公爵が右手を差し出す。

 俺はそれを握り返す前に、フォトンベルト公爵に頼みたいことがあった。
「じつは……お願いがあるのですが。」
「──何でしょう?」
「うちにも、まだチビですが、娘がおりまして。
 こういうものをきっと喜ぶと思うのです。
 少し、俺の分も分けていただけるとありがたいのですが。」
 フォトンベルト公爵は笑顔になった。

「そんなことでしたか、もちろん構いませんよ。
 何でしたら、必要になれば、いつでもおっしゃって下さい。
 アスガルドさんの分は、最優先で取り分けておかせていただきます。
 お互い娘へのプレゼント選びには難儀しますな。」
「まったくです。」
 俺たちは娘を持つ父親にしか分からない苦労を思いつつ、苦笑いと幸せを混ぜたような笑顔で握手した。

 今日取った分の油を、フォトンベルト公爵が、プレゼント用にと、メイドに命じてキレイに包んでくれたものを抱えて、俺はウキウキと自宅に戻った。
 相変わらずあまり表情を見せないリリアが、一応俺を出迎えてくれた。
「リリア、お父さんからプレゼントだ。」
 リリアは不思議そうに包みと俺を見比べる。

「これはな、お風呂で使うんだ。
 今日は贅沢に風呂に入ろう。」
 そう言って、久し振りの風呂に入って、リリアの髪を洗ってやり、タタオピの油をつけて、しばらくタオルで濡髪を巻いてやった。
「明日になったらびっくりするぞ?」
 俺はリリアの反応を想像して、ワクワクが止まらなかった。

「おーい、リリア、ご飯が出来たぞ?降りて来なさい!」
 次の日の朝、朝食の支度が終わり、リリアに声をかけても反応がない。確かに俺のすぐ後に起きた筈なのだが。
「──リリア?」
 リリアは鏡の前にいた。
 キレイになった自分の髪を見て、嬉しくて笑い出しそうになる顔を我慢しながら、それでも恥ずかしそうに笑ってしまっている。
「……もう少し待ってやるか。」
 俺は朝食が冷めないよう、フライパンに目玉焼きを戻しに、階段を降りたのだった。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...