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第1部
第12話 スパイダーシルクの価値②
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今もまだ、どこか納得のいかない表情で、分かったよ、と口にはするが、恐らく分かってはいないだろう。
それでもこれだけの証言者がいるのだ。これで俺もようやく仕事に取りかかれるというものだ。
「じゃあまず、スパイダーシルクを一体ずつ風呂に入れるぞ。」
「風呂!?」
一応沸かしはしたものの、まさか魔物を入れるとは思っていなかったエンリーが目をむく。
「ああそうだ。風呂に入れないと、糸が解けないからな。」
俺はスパイダーシルクが仲間を呼ぶ時の鳴き声を真似、風呂に誘導して丁寧に湯をかけて温めた。
スパイダーシルクは、恐ろしげな名前とは異なり、フラミンゴのような淡桃色の鳥の魔物だ。
ちなみに鳥の姿形でも、魔物はすべて1体2体と数える。
なぜそのような名前がついたかというと、スパイダーシルクの出す糸に特性がある。
スパイダーシルクは、鳥と蚕の繭を足したような魔物で、その羽が粘着質の糸で出来ており、ダチョウのように地面を走る。
糸が触れ、それが乾くと貼り付いて簡単には取れない。そして体に張り付いたものを餌として食べる。
そのさまが蜘蛛の餌の取り方と似ている為にこの名がついた。
年に2回ある換毛期には、それがごっそりと入れ替わるのだが、蚕と違って内側から繭を溶かす事の出来ないスパイダーシルクは、体を木などに擦りつけて糸を取ろうとする。
だが粘着質のある糸はしっかりと体に貼り付きなかなか取ることが出来ない。
そんな時は群れをなして人里に降りてきて、人の家の角や窓枠に体を擦り付けるのだ。
換毛期は痒くて仕方がないらしく、糸がすべて取れるまで毎日続く。
だからスパイダーシルクが現れた街や村は、粘着質の糸が貼り付き乾いたせいで、窓もドアも開かなくなってしまうのだ。
糸の解き方は蚕の繭と同じだ。死んでいれば高い温度の湯で一気にほぐすが、今回は生きているので普通の風呂の温度だ。
蚕の場合70度で40~50分煮るが、スパイダーシルクは10分もあればいける。35度でも20分だ。
繭の外側には切れた糸が巻き付いているので、箒草で繭を軽く突いたりこすったりして、糸を引っ掛けて取り除く。
何度かたぐって、切れずに一本になって外れてくるまでこれを繰り返す。どうしても外れない場合は、もう一度短時間湯につける。
一本に手繰り寄せられるようになったら、厚手の板や紙に一度巻き取ってやる。この作業が実に楽しい。
美しい淡桃色の糸が、キラキラと光に反射しながら、美しいスパイダーシルクの体から剥がれていく不思議な光景。
実際村の子どもたちがやりたそうだったので、巻き取るだけの段階になったところで、俺は子どもたちにそれをやらせてあげることにした。
スパイダーシルクの地肌が透けて見え始めたら巻取り終了だ。地肌に近い部分は細く切れやすいので、巻取りは出来ない。
何体かのスパイダーシルクから外した糸を、厚手の板から剥がしながら、糸巻き機で目的の太さ、長さの一本の糸にしていく。
これを乾燥させると、再び粘着物質が蘇り、よられた糸が接着し、強くて美しい糸になるのだ。
「さ、やり方は見せたんだ。あとは俺でなくても誰でも出来る。
ただ、一応魔物だからな、安全の為にテイマーにそばについて貰って作業してくれ。
魔物をテイムしてないか、テイムしてても手放して、いざとなった時スパイダーシルクをテイム出来る奴なら誰でもいい。
まあ、Fランクもあれば充分だろう。」
「え、全部やってくれないのかよ?」
エンリーが不満げに口を尖らせる。
「──オイオイ、何体いると思ってるんだ?
3体分巻き取るだけでもこれだけ時間がかかったんだ、100体以上の群れを全部やってたら、一体何週間俺はこの村に滞在しなきゃいけないと思ってる?
冒険者ギルドへの依頼料なら、スパイダーシルクの糸は高値で売れるんだ。
今日俺がよった分だけでも充分さ。」
そう言って立ち上がると、何事か考えている風のエンリーに、
「あんまり派手にやるなよ?
痛い目を見るぞ?」
と忠告した。分かっていないようだったがな。
そうして、やはり、というか、当然のようにというか、このスパイダーシルクを使って、エンリーがもうひと騒動巻き起こすのであった。
────────────────────
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それでもこれだけの証言者がいるのだ。これで俺もようやく仕事に取りかかれるというものだ。
「じゃあまず、スパイダーシルクを一体ずつ風呂に入れるぞ。」
「風呂!?」
一応沸かしはしたものの、まさか魔物を入れるとは思っていなかったエンリーが目をむく。
「ああそうだ。風呂に入れないと、糸が解けないからな。」
俺はスパイダーシルクが仲間を呼ぶ時の鳴き声を真似、風呂に誘導して丁寧に湯をかけて温めた。
スパイダーシルクは、恐ろしげな名前とは異なり、フラミンゴのような淡桃色の鳥の魔物だ。
ちなみに鳥の姿形でも、魔物はすべて1体2体と数える。
なぜそのような名前がついたかというと、スパイダーシルクの出す糸に特性がある。
スパイダーシルクは、鳥と蚕の繭を足したような魔物で、その羽が粘着質の糸で出来ており、ダチョウのように地面を走る。
糸が触れ、それが乾くと貼り付いて簡単には取れない。そして体に張り付いたものを餌として食べる。
そのさまが蜘蛛の餌の取り方と似ている為にこの名がついた。
年に2回ある換毛期には、それがごっそりと入れ替わるのだが、蚕と違って内側から繭を溶かす事の出来ないスパイダーシルクは、体を木などに擦りつけて糸を取ろうとする。
だが粘着質のある糸はしっかりと体に貼り付きなかなか取ることが出来ない。
そんな時は群れをなして人里に降りてきて、人の家の角や窓枠に体を擦り付けるのだ。
換毛期は痒くて仕方がないらしく、糸がすべて取れるまで毎日続く。
だからスパイダーシルクが現れた街や村は、粘着質の糸が貼り付き乾いたせいで、窓もドアも開かなくなってしまうのだ。
糸の解き方は蚕の繭と同じだ。死んでいれば高い温度の湯で一気にほぐすが、今回は生きているので普通の風呂の温度だ。
蚕の場合70度で40~50分煮るが、スパイダーシルクは10分もあればいける。35度でも20分だ。
繭の外側には切れた糸が巻き付いているので、箒草で繭を軽く突いたりこすったりして、糸を引っ掛けて取り除く。
何度かたぐって、切れずに一本になって外れてくるまでこれを繰り返す。どうしても外れない場合は、もう一度短時間湯につける。
一本に手繰り寄せられるようになったら、厚手の板や紙に一度巻き取ってやる。この作業が実に楽しい。
美しい淡桃色の糸が、キラキラと光に反射しながら、美しいスパイダーシルクの体から剥がれていく不思議な光景。
実際村の子どもたちがやりたそうだったので、巻き取るだけの段階になったところで、俺は子どもたちにそれをやらせてあげることにした。
スパイダーシルクの地肌が透けて見え始めたら巻取り終了だ。地肌に近い部分は細く切れやすいので、巻取りは出来ない。
何体かのスパイダーシルクから外した糸を、厚手の板から剥がしながら、糸巻き機で目的の太さ、長さの一本の糸にしていく。
これを乾燥させると、再び粘着物質が蘇り、よられた糸が接着し、強くて美しい糸になるのだ。
「さ、やり方は見せたんだ。あとは俺でなくても誰でも出来る。
ただ、一応魔物だからな、安全の為にテイマーにそばについて貰って作業してくれ。
魔物をテイムしてないか、テイムしてても手放して、いざとなった時スパイダーシルクをテイム出来る奴なら誰でもいい。
まあ、Fランクもあれば充分だろう。」
「え、全部やってくれないのかよ?」
エンリーが不満げに口を尖らせる。
「──オイオイ、何体いると思ってるんだ?
3体分巻き取るだけでもこれだけ時間がかかったんだ、100体以上の群れを全部やってたら、一体何週間俺はこの村に滞在しなきゃいけないと思ってる?
冒険者ギルドへの依頼料なら、スパイダーシルクの糸は高値で売れるんだ。
今日俺がよった分だけでも充分さ。」
そう言って立ち上がると、何事か考えている風のエンリーに、
「あんまり派手にやるなよ?
痛い目を見るぞ?」
と忠告した。分かっていないようだったがな。
そうして、やはり、というか、当然のようにというか、このスパイダーシルクを使って、エンリーがもうひと騒動巻き起こすのであった。
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