19 / 134
第1部
第12話 スパイダーシルクの価値②
しおりを挟む
今もまだ、どこか納得のいかない表情で、分かったよ、と口にはするが、恐らく分かってはいないだろう。
それでもこれだけの証言者がいるのだ。これで俺もようやく仕事に取りかかれるというものだ。
「じゃあまず、スパイダーシルクを一体ずつ風呂に入れるぞ。」
「風呂!?」
一応沸かしはしたものの、まさか魔物を入れるとは思っていなかったエンリーが目をむく。
「ああそうだ。風呂に入れないと、糸が解けないからな。」
俺はスパイダーシルクが仲間を呼ぶ時の鳴き声を真似、風呂に誘導して丁寧に湯をかけて温めた。
スパイダーシルクは、恐ろしげな名前とは異なり、フラミンゴのような淡桃色の鳥の魔物だ。
ちなみに鳥の姿形でも、魔物はすべて1体2体と数える。
なぜそのような名前がついたかというと、スパイダーシルクの出す糸に特性がある。
スパイダーシルクは、鳥と蚕の繭を足したような魔物で、その羽が粘着質の糸で出来ており、ダチョウのように地面を走る。
糸が触れ、それが乾くと貼り付いて簡単には取れない。そして体に張り付いたものを餌として食べる。
そのさまが蜘蛛の餌の取り方と似ている為にこの名がついた。
年に2回ある換毛期には、それがごっそりと入れ替わるのだが、蚕と違って内側から繭を溶かす事の出来ないスパイダーシルクは、体を木などに擦りつけて糸を取ろうとする。
だが粘着質のある糸はしっかりと体に貼り付きなかなか取ることが出来ない。
そんな時は群れをなして人里に降りてきて、人の家の角や窓枠に体を擦り付けるのだ。
換毛期は痒くて仕方がないらしく、糸がすべて取れるまで毎日続く。
だからスパイダーシルクが現れた街や村は、粘着質の糸が貼り付き乾いたせいで、窓もドアも開かなくなってしまうのだ。
糸の解き方は蚕の繭と同じだ。死んでいれば高い温度の湯で一気にほぐすが、今回は生きているので普通の風呂の温度だ。
蚕の場合70度で40~50分煮るが、スパイダーシルクは10分もあればいける。35度でも20分だ。
繭の外側には切れた糸が巻き付いているので、箒草で繭を軽く突いたりこすったりして、糸を引っ掛けて取り除く。
何度かたぐって、切れずに一本になって外れてくるまでこれを繰り返す。どうしても外れない場合は、もう一度短時間湯につける。
一本に手繰り寄せられるようになったら、厚手の板や紙に一度巻き取ってやる。この作業が実に楽しい。
美しい淡桃色の糸が、キラキラと光に反射しながら、美しいスパイダーシルクの体から剥がれていく不思議な光景。
実際村の子どもたちがやりたそうだったので、巻き取るだけの段階になったところで、俺は子どもたちにそれをやらせてあげることにした。
スパイダーシルクの地肌が透けて見え始めたら巻取り終了だ。地肌に近い部分は細く切れやすいので、巻取りは出来ない。
何体かのスパイダーシルクから外した糸を、厚手の板から剥がしながら、糸巻き機で目的の太さ、長さの一本の糸にしていく。
これを乾燥させると、再び粘着物質が蘇り、よられた糸が接着し、強くて美しい糸になるのだ。
「さ、やり方は見せたんだ。あとは俺でなくても誰でも出来る。
ただ、一応魔物だからな、安全の為にテイマーにそばについて貰って作業してくれ。
魔物をテイムしてないか、テイムしてても手放して、いざとなった時スパイダーシルクをテイム出来る奴なら誰でもいい。
まあ、Fランクもあれば充分だろう。」
「え、全部やってくれないのかよ?」
エンリーが不満げに口を尖らせる。
「──オイオイ、何体いると思ってるんだ?
3体分巻き取るだけでもこれだけ時間がかかったんだ、100体以上の群れを全部やってたら、一体何週間俺はこの村に滞在しなきゃいけないと思ってる?
冒険者ギルドへの依頼料なら、スパイダーシルクの糸は高値で売れるんだ。
今日俺がよった分だけでも充分さ。」
そう言って立ち上がると、何事か考えている風のエンリーに、
「あんまり派手にやるなよ?
痛い目を見るぞ?」
と忠告した。分かっていないようだったがな。
そうして、やはり、というか、当然のようにというか、このスパイダーシルクを使って、エンリーがもうひと騒動巻き起こすのであった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
それでもこれだけの証言者がいるのだ。これで俺もようやく仕事に取りかかれるというものだ。
「じゃあまず、スパイダーシルクを一体ずつ風呂に入れるぞ。」
「風呂!?」
一応沸かしはしたものの、まさか魔物を入れるとは思っていなかったエンリーが目をむく。
「ああそうだ。風呂に入れないと、糸が解けないからな。」
俺はスパイダーシルクが仲間を呼ぶ時の鳴き声を真似、風呂に誘導して丁寧に湯をかけて温めた。
スパイダーシルクは、恐ろしげな名前とは異なり、フラミンゴのような淡桃色の鳥の魔物だ。
ちなみに鳥の姿形でも、魔物はすべて1体2体と数える。
なぜそのような名前がついたかというと、スパイダーシルクの出す糸に特性がある。
スパイダーシルクは、鳥と蚕の繭を足したような魔物で、その羽が粘着質の糸で出来ており、ダチョウのように地面を走る。
糸が触れ、それが乾くと貼り付いて簡単には取れない。そして体に張り付いたものを餌として食べる。
そのさまが蜘蛛の餌の取り方と似ている為にこの名がついた。
年に2回ある換毛期には、それがごっそりと入れ替わるのだが、蚕と違って内側から繭を溶かす事の出来ないスパイダーシルクは、体を木などに擦りつけて糸を取ろうとする。
だが粘着質のある糸はしっかりと体に貼り付きなかなか取ることが出来ない。
そんな時は群れをなして人里に降りてきて、人の家の角や窓枠に体を擦り付けるのだ。
換毛期は痒くて仕方がないらしく、糸がすべて取れるまで毎日続く。
だからスパイダーシルクが現れた街や村は、粘着質の糸が貼り付き乾いたせいで、窓もドアも開かなくなってしまうのだ。
糸の解き方は蚕の繭と同じだ。死んでいれば高い温度の湯で一気にほぐすが、今回は生きているので普通の風呂の温度だ。
蚕の場合70度で40~50分煮るが、スパイダーシルクは10分もあればいける。35度でも20分だ。
繭の外側には切れた糸が巻き付いているので、箒草で繭を軽く突いたりこすったりして、糸を引っ掛けて取り除く。
何度かたぐって、切れずに一本になって外れてくるまでこれを繰り返す。どうしても外れない場合は、もう一度短時間湯につける。
一本に手繰り寄せられるようになったら、厚手の板や紙に一度巻き取ってやる。この作業が実に楽しい。
美しい淡桃色の糸が、キラキラと光に反射しながら、美しいスパイダーシルクの体から剥がれていく不思議な光景。
実際村の子どもたちがやりたそうだったので、巻き取るだけの段階になったところで、俺は子どもたちにそれをやらせてあげることにした。
スパイダーシルクの地肌が透けて見え始めたら巻取り終了だ。地肌に近い部分は細く切れやすいので、巻取りは出来ない。
何体かのスパイダーシルクから外した糸を、厚手の板から剥がしながら、糸巻き機で目的の太さ、長さの一本の糸にしていく。
これを乾燥させると、再び粘着物質が蘇り、よられた糸が接着し、強くて美しい糸になるのだ。
「さ、やり方は見せたんだ。あとは俺でなくても誰でも出来る。
ただ、一応魔物だからな、安全の為にテイマーにそばについて貰って作業してくれ。
魔物をテイムしてないか、テイムしてても手放して、いざとなった時スパイダーシルクをテイム出来る奴なら誰でもいい。
まあ、Fランクもあれば充分だろう。」
「え、全部やってくれないのかよ?」
エンリーが不満げに口を尖らせる。
「──オイオイ、何体いると思ってるんだ?
3体分巻き取るだけでもこれだけ時間がかかったんだ、100体以上の群れを全部やってたら、一体何週間俺はこの村に滞在しなきゃいけないと思ってる?
冒険者ギルドへの依頼料なら、スパイダーシルクの糸は高値で売れるんだ。
今日俺がよった分だけでも充分さ。」
そう言って立ち上がると、何事か考えている風のエンリーに、
「あんまり派手にやるなよ?
痛い目を見るぞ?」
と忠告した。分かっていないようだったがな。
そうして、やはり、というか、当然のようにというか、このスパイダーシルクを使って、エンリーがもうひと騒動巻き起こすのであった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
824
お気に入りに追加
1,299
あなたにおすすめの小説

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。


転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる