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第1部
第11話 隣村のエンリー②
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「村長!役人に届けましょうよ!」
「そうですよ!俺たちのサウナをめちゃくちゃにしたんだ。」
「うん……。そうだなあ……。
エンリー、それでいいかね?」
ちゃんと謝れば考えなくもない、と思っている様子の村長が、エンリーに最後にもう一度尋ねる。
エンリーは力強くそっぽを向いた。村長はやれやれとため息をついた。
役人にエンリーを突き出してサウナの現状を見に来て貰ったが、役人の判断に村人はがっかりするしかなかった。
エンリーに課せられた罪は、村に侵入して建造物であるサウナを壊したことに対する弁償金のみだった。
エンリーの言う通り、魔物は討伐すべきものという扱いで、損害賠償の対象に入らないのだ。
石を焼いて置いても別にサウナは再開出来る。だが燃料が高過ぎて、俺たちのサウナの規模ではやる事ができない。
実質もう無理だった。
役人に連れて行かれながらも、最後まで、ざまあみろ、と俺たちを煽るエンリーに、村人たちはやり場のない怒りと、これからの生活に対する不安で皆表情を暗くした。
「どうだった?」
「駄目だ、まだ巣箱に巣は作られてなかった。」
「そうか……。」
せめてスイートビーの巣が巣箱に作られていないか確認に行ったジャンが、落ち込んだ表情で戻って来る。
皆もつられて落ち込む。
村はまた、貧乏な村に戻ってしまった。
「どうにかならないの?アスガルド。」
「魔物も自然の一部なんだ、俺に出来ることは限られてるよ。」
俺は詰め寄る村人をなだめるので精一杯だった。
村人たちといても気が滅入るので、俺は川まで散策にやって来た。するとサウナからトンテンカンテン音がする。
覗いてみると、口に釘をくわえ、トンカチを振るうアントの姿があった。
「何をしてるんだ?」
「ああ、アスガルドか。
いや……。ラヴァロックはいなくなっちまったけどさ。
またひょっこり、湧いて出るかも知れねーじゃん?
そんとき、すぐに移せるように、今のうちにサウナを直しておこうかと思ってさ。
俺……やっぱり、サウナで働くの、好きだからさ。」
「そうか。」
俺は暫くサウナの壁によりかかり、アントの振るうトンカチの音を聞いていた。
数日がたち、村が今までの生活に戻った頃、突然エンリーが村に飛び込んで来て、俺の前に土下座した。
「村に……村にスパイダーシルクの群れが現れて、村を毎日めちゃくちゃにするんだ。
頼む……頼む助けてくれ!」
貧乏なのでギルドに討伐依頼を出せず、顔見知りの冒険者の俺のところにやってきたのだろう。
都合のいいエンリーの言葉に、村人たちが一気に激高する。
「あんた、役人に連れてかれる時の自分の態度を忘れたのかい!?」
「俺たちに謝んのがまず先だろうが!」
「都合のいい時だけ頼ってくんじゃねえよ!」
「……ごめん謝る……謝るから……。
スパイダーシルクの糸でベタベタで、ドアも窓も開かなくなって、家も畑もメチャメチャで、俺たちじゃどうしようも……。
頼む、退治してくれよぉ……。」
「家が糸でベタベタ?
──って、いやいや、それ、退治しなくとも、何とかなるぞ?」
え?とエンリーが俺を見上げる。
「隣村のよしみだ、一回だけ手伝ってやる。
ただし条件と、用意して貰いたいもんがある。」
「何でもするよぉ、何でもするからあ。」
「言ったな?
よし、みんなにもエンリーの村まで来て貰おう。」
俺は納得がいかなそうな村人たちを集めて、ある事を話して聞かせたのだった。
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「そうですよ!俺たちのサウナをめちゃくちゃにしたんだ。」
「うん……。そうだなあ……。
エンリー、それでいいかね?」
ちゃんと謝れば考えなくもない、と思っている様子の村長が、エンリーに最後にもう一度尋ねる。
エンリーは力強くそっぽを向いた。村長はやれやれとため息をついた。
役人にエンリーを突き出してサウナの現状を見に来て貰ったが、役人の判断に村人はがっかりするしかなかった。
エンリーに課せられた罪は、村に侵入して建造物であるサウナを壊したことに対する弁償金のみだった。
エンリーの言う通り、魔物は討伐すべきものという扱いで、損害賠償の対象に入らないのだ。
石を焼いて置いても別にサウナは再開出来る。だが燃料が高過ぎて、俺たちのサウナの規模ではやる事ができない。
実質もう無理だった。
役人に連れて行かれながらも、最後まで、ざまあみろ、と俺たちを煽るエンリーに、村人たちはやり場のない怒りと、これからの生活に対する不安で皆表情を暗くした。
「どうだった?」
「駄目だ、まだ巣箱に巣は作られてなかった。」
「そうか……。」
せめてスイートビーの巣が巣箱に作られていないか確認に行ったジャンが、落ち込んだ表情で戻って来る。
皆もつられて落ち込む。
村はまた、貧乏な村に戻ってしまった。
「どうにかならないの?アスガルド。」
「魔物も自然の一部なんだ、俺に出来ることは限られてるよ。」
俺は詰め寄る村人をなだめるので精一杯だった。
村人たちといても気が滅入るので、俺は川まで散策にやって来た。するとサウナからトンテンカンテン音がする。
覗いてみると、口に釘をくわえ、トンカチを振るうアントの姿があった。
「何をしてるんだ?」
「ああ、アスガルドか。
いや……。ラヴァロックはいなくなっちまったけどさ。
またひょっこり、湧いて出るかも知れねーじゃん?
そんとき、すぐに移せるように、今のうちにサウナを直しておこうかと思ってさ。
俺……やっぱり、サウナで働くの、好きだからさ。」
「そうか。」
俺は暫くサウナの壁によりかかり、アントの振るうトンカチの音を聞いていた。
数日がたち、村が今までの生活に戻った頃、突然エンリーが村に飛び込んで来て、俺の前に土下座した。
「村に……村にスパイダーシルクの群れが現れて、村を毎日めちゃくちゃにするんだ。
頼む……頼む助けてくれ!」
貧乏なのでギルドに討伐依頼を出せず、顔見知りの冒険者の俺のところにやってきたのだろう。
都合のいいエンリーの言葉に、村人たちが一気に激高する。
「あんた、役人に連れてかれる時の自分の態度を忘れたのかい!?」
「俺たちに謝んのがまず先だろうが!」
「都合のいい時だけ頼ってくんじゃねえよ!」
「……ごめん謝る……謝るから……。
スパイダーシルクの糸でベタベタで、ドアも窓も開かなくなって、家も畑もメチャメチャで、俺たちじゃどうしようも……。
頼む、退治してくれよぉ……。」
「家が糸でベタベタ?
──って、いやいや、それ、退治しなくとも、何とかなるぞ?」
え?とエンリーが俺を見上げる。
「隣村のよしみだ、一回だけ手伝ってやる。
ただし条件と、用意して貰いたいもんがある。」
「何でもするよぉ、何でもするからあ。」
「言ったな?
よし、みんなにもエンリーの村まで来て貰おう。」
俺は納得がいかなそうな村人たちを集めて、ある事を話して聞かせたのだった。
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