まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

文字の大きさ
上 下
17 / 134
第1部

第11話 隣村のエンリー②

しおりを挟む
「村長!役人に届けましょうよ!」
「そうですよ!俺たちのサウナをめちゃくちゃにしたんだ。」
「うん……。そうだなあ……。
 エンリー、それでいいかね?」
 ちゃんと謝れば考えなくもない、と思っている様子の村長が、エンリーに最後にもう一度尋ねる。
 エンリーは力強くそっぽを向いた。村長はやれやれとため息をついた。

 役人にエンリーを突き出してサウナの現状を見に来て貰ったが、役人の判断に村人はがっかりするしかなかった。
 エンリーに課せられた罪は、村に侵入して建造物であるサウナを壊したことに対する弁償金のみだった。
 エンリーの言う通り、魔物は討伐すべきものという扱いで、損害賠償の対象に入らないのだ。
 石を焼いて置いても別にサウナは再開出来る。だが燃料が高過ぎて、俺たちのサウナの規模ではやる事ができない。
 実質もう無理だった。
 役人に連れて行かれながらも、最後まで、ざまあみろ、と俺たちを煽るエンリーに、村人たちはやり場のない怒りと、これからの生活に対する不安で皆表情を暗くした。

「どうだった?」
「駄目だ、まだ巣箱に巣は作られてなかった。」
「そうか……。」
 せめてスイートビーの巣が巣箱に作られていないか確認に行ったジャンが、落ち込んだ表情で戻って来る。
 皆もつられて落ち込む。
 村はまた、貧乏な村に戻ってしまった。
「どうにかならないの?アスガルド。」
「魔物も自然の一部なんだ、俺に出来ることは限られてるよ。」
 俺は詰め寄る村人をなだめるので精一杯だった。

 村人たちといても気が滅入るので、俺は川まで散策にやって来た。するとサウナからトンテンカンテン音がする。
 覗いてみると、口に釘をくわえ、トンカチを振るうアントの姿があった。
「何をしてるんだ?」
「ああ、アスガルドか。
 いや……。ラヴァロックはいなくなっちまったけどさ。
 またひょっこり、湧いて出るかも知れねーじゃん?
 そんとき、すぐに移せるように、今のうちにサウナを直しておこうかと思ってさ。
 俺……やっぱり、サウナで働くの、好きだからさ。」
「そうか。」
 俺は暫くサウナの壁によりかかり、アントの振るうトンカチの音を聞いていた。

 数日がたち、村が今までの生活に戻った頃、突然エンリーが村に飛び込んで来て、俺の前に土下座した。
「村に……村にスパイダーシルクの群れが現れて、村を毎日めちゃくちゃにするんだ。
 頼む……頼む助けてくれ!」
 貧乏なのでギルドに討伐依頼を出せず、顔見知りの冒険者の俺のところにやってきたのだろう。
 都合のいいエンリーの言葉に、村人たちが一気に激高する。

「あんた、役人に連れてかれる時の自分の態度を忘れたのかい!?」
「俺たちに謝んのがまず先だろうが!」
「都合のいい時だけ頼ってくんじゃねえよ!」
「……ごめん謝る……謝るから……。
 スパイダーシルクの糸でベタベタで、ドアも窓も開かなくなって、家も畑もメチャメチャで、俺たちじゃどうしようも……。
 頼む、退治してくれよぉ……。」

「家が糸でベタベタ?
 ──って、いやいや、それ、退治しなくとも、何とかなるぞ?」
 え?とエンリーが俺を見上げる。
「隣村のよしみだ、一回だけ手伝ってやる。
 ただし条件と、用意して貰いたいもんがある。」
「何でもするよぉ、何でもするからあ。」
「言ったな?
 よし、みんなにもエンリーの村まで来て貰おう。」
 俺は納得がいかなそうな村人たちを集めて、ある事を話して聞かせたのだった。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...