まもののおいしゃさん

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

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第1部

第6話 まもののおいしゃさん②

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 ガラファンはとてもパートナー思いの魔物で、生涯同じパートナーとしか子を成さない。
 恋愛成就や安産祈願の守り神として祀っている地域もあるくらいだ。
 弱ったメスと、生まれたばかりの子どもを守る為、オスは気が立っていたという訳だ。
「これでガラファンのメスは他のものを食べるようになる筈だ。」
 俺はすべての葉を切り終えると、ガラファンのところへと戻った。

 俺はボウルの中に、牛の乳を半分と、売り物にする為に持ってきたスイートビーの蜂蜜をたっぷりと入れ、お玉でかき混ぜる。
 何でもいいから混ぜるのに使えるものをと言ったらお玉を持って来られただけで、特にお玉に意味はない。
「フォウッ!フォウッ!フォウッ!」
 俺は、敵じゃないぞ、攻撃の意思はないぞ、というのをアピールする時の、ガラファンの鳴き声を真似た。
 ゆっくりと近付き、オスの前に蜂蜜入りの牛の乳の入ったボウルを置いた。

 オスのガラファンがビクッとする。スイートビーの蜂蜜は、栄養が豊富なガラファンの大好物だ。味方をアピールされた後でこれを出されたらたまらない。
 ガラファンのオスがボウルに頭を突っ込んで牛の乳を飲み始めた。これなら大丈夫だ。
 俺はオスのガラファンの後ろに回ると、背の高い草を掻き分けた。

 そこは洞穴だった。奥に進むと、メスのガラファンと2頭の幼体がいた。メスはかなり弱っているのか、ぐったりと横になっている。
 俺は再び味方だぞ、と鳴き声を真似る。残りの牛の乳とスイートビーの蜂蜜をボウルに混ぜ、メスの顔の前に置いてやった。
 よろよろとメスが立ち上がり、ふんふんとボウルの匂いを嗅ぐ。
 やがて頭を突っ込むと、牛の乳を飲み始めた。初めは警戒していた子どもたちも、母親が飲んでいるのを見て、争うようにボウルに頭を突っ込んだ。

 俺は洞穴から出ると、
「もう大丈夫だ。
 これで普通の食事も取るようになる。」
 と言った。
「あの蜂蜜は……売り物だったのでは?」
 ガリウス餓申し訳なさそうに言う。
「なに、俺に解決出来る方法に必要だっただけさ。
 だがあんまり魔物を飼うのは関心しないな。
 ガラファンは自分のテリトリーに侵入されない限り襲ってこない魔物だが、それでも魔物は魔物だ。
 いつこのお坊ちゃんが危ない目に合うとも限らないんだならな。」

 肝に銘じておきます、とガリウスは言った。
 ガリウスとルクシャに見送られ、道具屋に戻ると、会計はベルエンテール公爵家で持つことになったと聞かされた。
 おまけに丈夫でデカい木の板付きだ。
 板まで買うと高いので、森の木を切り出すつもりでいたのだが、これなら森を傷めずスイートビーの巣箱を作ることが出来る。
 ベルエンテール公爵家に向かう途中で、スイートビーを何の仕事に使うのかとルクシャに尋ねられ、答えたのをガリウスが聞いていて手を回してくれたらしい。

 後で届けておくよ、とニマンドに言われて、俺はリリアを肩車しながら、村への道を歩いていた。
「……お父さん。」
 ふいにリリアが呟いた。
「何だ?」
 結局、今日もあまり話せなかったな、と、思いながら尋ねる。
 仲良くなるには、まだまだ時間がかかりそうだ。放っておいたツケなのだから仕方がない、と思った。

「──お父さん、まもののおいしゃさんみたいだった。
 ……カッコよかった。」
 リリアが嬉しそうな声で言う。初めて自分から、こんなにたくさん話しかけてくれた。
 俺は泣きそうになり鼻をすすった。
「そうか、カッコよかったか。」
 まもののおいしゃさん、か。
 リリアが喜んでくれるなら、それも悪くないかも知れないな。

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