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第1部

第6話 まもののおいしゃさん①

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 俺がガリウスに頼んだのは、大きめのボウルが2つと牛の乳を2リットル程、お玉、そして剪定バサミだった。
「そんなものを何にお使いで?」
 ガリウスは不思議そうにしながら、俺にそれらを手渡した。
「まずはナナカンの木の群生地に案内してくれ。」
 俺は草木を掻き分け、ナナカンの木の群生地の前に立つと、
「本当に切り落としていいんだな?」
「奥様に許可はいただきました。ルクシャ様の為であれば、切ってしまっても構わないとのことです。」

 丁寧に葉のついている枝だけを切り落とす。
「……この木が原因なのですか?」
「これも原因の1つだな。
 ……ナナカンの木は、とある薬の材料になるんだが、それを出産後のガラファンのメスが食べることがあるんだ。」
「薬……ですか。
 メスは何の病気にかかっているのですか?」
「──いや、ダイエットだ。」
「ダイエット!?」

 ガラファンの発情期は秋だ。生まれた幼体は、親の巨体に似合わず、わずか500g程度で生まれてくる。
 交尾から半年程度で出産するのだが、それなのに子どもがとても小さいのは、ガラファンは一見ゾウに似ているが、その性質がヒグマにとても近いことによる。
 ガラファンの妊娠時には、受精卵がある一定のところまで成長すると成長が止まり、着床しないまま子宮を漂う。
 その後たっぷり栄養を蓄えた後で着床し、再び成長する。
 着床遅延という、交尾をしてから出産までの時期を遅らせる、ヒグマなどと同じ妊娠の仕方をするのだ。

 出産にそなえてたくさん食べて脂肪を蓄え、蓄えた脂肪を使いながら、冬の間巣穴に籠もって春先に出産する。
 溜めた脂肪から母乳を作る為、必要なエネルギーの割合を減らす必要があり、それでとても小さな赤ん坊が生まれてくるのだ。実際には2ヶ月程度しか妊娠の期間がない。
 だがその時蓄えた脂肪が減らない個体が存在する。人間も妊娠時に増えた体重が、出産後に減る人と、そうでない人が存在するのだが、ガラファンもそうなのだ。

 ガラファンの妊娠時、増える体重はなんと200kg。半年飲まず食わずなのだから、妊娠時の頭数が多いとそれでも足りないくらいだ。
 だが冬ごもりで栄養を使い、母乳に脂肪を使っても、体重が半分も減らなかった場合、自重を筋肉が支えられなくなってしまう。
 そこでナナカンの木だ。
 そう、ナナカンの木の葉っぱは、俺たちの世界でいう、サノレックスという薬の成分ととても近い。

 この薬は向精神薬に分類され、精神科で主に処方されるものだが、太り過ぎの人に内科などでも処方されることがある。
 満腹中枢を刺激し、食べる量を減らす効果がある。最大でも3ヶ月程度までしか処方せず、効果があってもなくても、一度そこでやめなくてはならない。
 頭を騙すものなので、それ以上飲み続けても、一度効果がなかったり、薬に慣れてくると意味がなくなる。
 この国でも貴族の女性に人気で、自宅に植えて専属の薬師に調合させている貴族も多い。

 これを食べることで、ガラファンは体重を元に戻すのだ。
 体重が戻れば通常は食べるのをやめるのだが、妙にナナカンの木の葉を好む個体がいる。普通は食べ続けることで効果を失うが、まれに効き続けてしまう個体がいるのだ。
 ナナカンの葉は薬草に分類されるので、栄養にあたるものが殆どない。
 ましてやナナカンの効果で腹いっぱいだと勘違いしている為、他の物を食べない。しばらくは脂肪があるから大丈夫だが、やがて倒れてしまう。

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