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第1部
第5話 公爵家のお願い①
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俺は娘のリリアと連れ立って、街の道具屋に来ていた。二人だけでどこにも出かけたことがなかったのと、一度街を見せておきたいと思ったからだ。
ここの道具屋はとにかくデカい。既に完成している道具から、釘や金槌などの日曜大工品、飼料まで。
5階建ての建物の中に、ジャンル別に分かれて様々な商品が並べられ、冒険者から街の人達まで、様々な利用者がいる。
ケイヨーデイツーという大型のホームセンターを知っている人なら、どんなところかイメージしやすいかも知れない。
冒険者をしていた時、色んな街を回ったが、王宮に近いこの店より品揃えの多い店はない。
見て回るだけでも男からすると楽しいのだが、果たしてリリアがどう感じるかは分からなかった。
だが心配はいらないようだ。前を小走りに駆けるリリアを嗜めなくてはいけない程度には、この店に興味を持ったようだった。
俺は巣箱に使う材料の他に、身隠しのローブを数枚手に取った。これはDランクのダンジョンまでなら、魔物から完全に姿を隠すことができる。
初心者が魔物から逃げる時にも使えるし、これを使った一般人向けのダンジョン探索ツアーも人気だ。
これを使えば誰でもスイートビーの巣箱に近付けるようになる。スイートビーの養蜂には欠かせないアイテムだ。
俺が身隠しのローブを選んでいると、リリアより少し年上くらいの、贅沢な服に身をを包んだ男の子が、悲しげな目でローブを見上げていた。
すぐに白髪の執事のような男性が迎えに来たので、恐らくどこかの裕福な商人か、貴族のお坊ちゃんなのだろう。
俺が選んだものを会計に持って行くと、俺が来た事を店員が伝えに行き、奥から顔馴染みの店長、ニマンドが現れた。
「久し振りだな、元気そうじゃないか。
冒険者をやめたって本当なのか?」
「ああ、そちらこそ息災で何よりだ。
……まあ、ここらが潮時だと思ってな。
今は村に戻ってるよ。」
「その子がリリアちゃんかい?
こんにちは。おじさんはお父さんの友達なんだよ?」
リリアがコクッと小さく頷いて挨拶する。
人見知りは相変わらずのようだ。
「それで?今日は何を買うつもりなんだ?」
「実はスイートビーの養蜂を始めようと思ってな。
既に蜂蜜は取れているから、それをこれから売りに行くつもりだ。
済まないが、金を払うのはその後でもいいか?」
「ああ、もちろんだ。
こちらで預かっておくよ。」
ニマンドが受付に並べた品物を、奥で管理しておくよう、店員に告げる。
「……おじさん、魔物を飼ってるの?」
声のした方を振り返ると、さっきの身隠しのローブを悲しげに見上げていた男の子だった。
「飼ってるわけじゃないんだが、おじさんたちのお仕事に使うんだ。」
「そっか……。
飼ってるなら話が聞きたかったの。
ごめんね。」
あまりに悲しそうなその様子に、俺とニマンドは顔を見合わせる。
俺は男の子の目線までしゃがむと、
「……何が聞きたいんだ?」
と優しく訪ねた。
「ルクシャ様!
こんなところにいらしたのですね?
じいから離れてはいけませんと申し上げたではないですか。」
先程男の子を迎えに来た、執事のような服装の男性が、慌てた様子でこちらに駆けてくる。
「ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。
私はガウリス、ベルエンテール公爵にお仕えしている執事です。
この方は小公爵のルクシャ様です。」
やはりいいとこの子だったか。
「いや、特に迷惑はかけられてないぞ。
何か俺に聞きたい事があるようなんだが、話を聞いてやってもいいだろうか?
俺はSランク冒険者のアスガルドだ。」
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ここの道具屋はとにかくデカい。既に完成している道具から、釘や金槌などの日曜大工品、飼料まで。
5階建ての建物の中に、ジャンル別に分かれて様々な商品が並べられ、冒険者から街の人達まで、様々な利用者がいる。
ケイヨーデイツーという大型のホームセンターを知っている人なら、どんなところかイメージしやすいかも知れない。
冒険者をしていた時、色んな街を回ったが、王宮に近いこの店より品揃えの多い店はない。
見て回るだけでも男からすると楽しいのだが、果たしてリリアがどう感じるかは分からなかった。
だが心配はいらないようだ。前を小走りに駆けるリリアを嗜めなくてはいけない程度には、この店に興味を持ったようだった。
俺は巣箱に使う材料の他に、身隠しのローブを数枚手に取った。これはDランクのダンジョンまでなら、魔物から完全に姿を隠すことができる。
初心者が魔物から逃げる時にも使えるし、これを使った一般人向けのダンジョン探索ツアーも人気だ。
これを使えば誰でもスイートビーの巣箱に近付けるようになる。スイートビーの養蜂には欠かせないアイテムだ。
俺が身隠しのローブを選んでいると、リリアより少し年上くらいの、贅沢な服に身をを包んだ男の子が、悲しげな目でローブを見上げていた。
すぐに白髪の執事のような男性が迎えに来たので、恐らくどこかの裕福な商人か、貴族のお坊ちゃんなのだろう。
俺が選んだものを会計に持って行くと、俺が来た事を店員が伝えに行き、奥から顔馴染みの店長、ニマンドが現れた。
「久し振りだな、元気そうじゃないか。
冒険者をやめたって本当なのか?」
「ああ、そちらこそ息災で何よりだ。
……まあ、ここらが潮時だと思ってな。
今は村に戻ってるよ。」
「その子がリリアちゃんかい?
こんにちは。おじさんはお父さんの友達なんだよ?」
リリアがコクッと小さく頷いて挨拶する。
人見知りは相変わらずのようだ。
「それで?今日は何を買うつもりなんだ?」
「実はスイートビーの養蜂を始めようと思ってな。
既に蜂蜜は取れているから、それをこれから売りに行くつもりだ。
済まないが、金を払うのはその後でもいいか?」
「ああ、もちろんだ。
こちらで預かっておくよ。」
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「……おじさん、魔物を飼ってるの?」
声のした方を振り返ると、さっきの身隠しのローブを悲しげに見上げていた男の子だった。
「飼ってるわけじゃないんだが、おじさんたちのお仕事に使うんだ。」
「そっか……。
飼ってるなら話が聞きたかったの。
ごめんね。」
あまりに悲しそうなその様子に、俺とニマンドは顔を見合わせる。
俺は男の子の目線までしゃがむと、
「……何が聞きたいんだ?」
と優しく訪ねた。
「ルクシャ様!
こんなところにいらしたのですね?
じいから離れてはいけませんと申し上げたではないですか。」
先程男の子を迎えに来た、執事のような服装の男性が、慌てた様子でこちらに駆けてくる。
「ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。
私はガウリス、ベルエンテール公爵にお仕えしている執事です。
この方は小公爵のルクシャ様です。」
やはりいいとこの子だったか。
「いや、特に迷惑はかけられてないぞ。
何か俺に聞きたい事があるようなんだが、話を聞いてやってもいいだろうか?
俺はSランク冒険者のアスガルドだ。」
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