旦那様は魔法使い

なかゆんきなこ

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第四章 二人の日常3

魔法の薬編 1

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 その日、魔法使いサフィールは自分の店の奥にしつらえた調合台の前で、魔法書と睨みあいながら並べた薬草やトカゲの干物などの怪しげな材料を隣の炉にかけた鍋に次々と投入していった。
 長い匙で鍋の中をかき混ぜながら、魔法書に書いてある通りの反応になっているか確かめる。
(…次は……)
 次に鍋に投入する材料を手に取ろうとして、サフィールの手は調合台の上を彷徨う。
「ん…?」
 しかし、目当ての物は調合台の上には無かった。
 最初に全ての材料を用意しておいたと思ったのだが、忘れていたらしい。
 他の材料は全て揃っていることを確認してから、サフィールは店内にある薬種棚の前で薬草の整理作業をしていた使い魔、縞猫のアクアに声を掛けた。
「アクア、その棚にあるアオココモダケを一本持ってきてくれ」
「はいですにゃー」
 アクアは元気よく右手を上げ、「アオココモダケ~」と口ずさみながら薬種棚の引き出しを一つ一つ見て行く。
 サフィールの薬種棚は様々な大きさの引き出しがたくさんあり、一つの引き出しに一種類ずつ薬草や鉱石、魔道具などが収められている。引き出しにはそれぞれ見出しがついており、サフィールの几帳面な字で薬草などの名前が書かれていた。
「えーっと、アオココモダケ…アオココモダケ…。あれれ…?」
 アクアは首を傾げる。どこにも、「アオココモダケ」と書かれた見出しが無い。
「んむむむむ…」
 代わりに、名前の所が擦り切れて読めなくなっている引き出しが何個かあった。
 おそらく、この中のどれかがアオココモダケの入っている引き出しだろう。
 アクアは一つずつ引き出しを開けていった。
 名前のわからない引き出しの中で、キノコの干物が入っていた引き出しは二つ。
 しかしそのキノコの干物は、どちらも似たような形をしていた。
「んむむむむ…」
 片方は、カサが青くなっているもの。
 もう片方は、カサが赤くなっている。
(アオココモダケっていうくらいだから、きっと青いにゃ!!)
 アクアはそう納得し、カサの青いキノコの干物を手に握ってサフィールの元へ駆けよった。
「持ってきましたにゃー!!」
「ん…。ありがとう」
 サフィールは魔法書から目を離さないまま、アクアにそのキノコの干物を鍋に入れるよう手で示す。
 アクアは「にゃー」と頷いて、キノコの干物をぼちゃんと鍋に投入した。
(…しばらく掻き混ぜると、色が赤に変わって…)
 魔法書を見たまま手だけは匙を動かして鍋の中身を掻き混ぜていたサフィールが、反応を見ようと鍋に視線を向ける。
「えっ…」
 が、赤に変わっているはずの魔法薬は真っ青に染まっており、ぐつぐつと煮立っていた鍋ががたがたと揺れたかと思うと。
「しまっ…」
 ボワンっと音を立てて、真っ青な煙が鍋から溢れ出て来る。
「ご主人様!?」
 鍋から溢れ出た煙をもろに被ってしまったサフィールに、再び薬種棚の整理に戻っていたアクアが慌てて駆け寄る。
「げほっ、ごほっ…」
 煙はすぐに霧散したのだが。

「たっ、大変にゃー!!」

 煙の中から現れた自分の主人の姿を見て、アクアは絶叫した。


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