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幼馴染は魔法使いの弟子
黄色い薔薇の物語編 11
しおりを挟む久しぶりの故郷は、懐かしくも温かくアニエスを迎えてくれた。
けれど同時に、アニエスの知らない時間を否応なく思い知らされる。
変わってしまった生家。
朽ち果てていた、再会を望んでいた人達の住処。
アニエスは、その朽ち果てた家の中を覗いてみたけれど、長く使われていなかったようで、埃まみれに汚れていた。
いつも窯に仕掛けてあったクラウドの大鍋が無くなっていたから、引っ越したのかもしれない。それでも、思い出の場所がまた一つ変わってしまったことに、アニエスは少なからずショックを受けていた。
「待っていてくれるって、言ってたのに…」
自分を嫌っていたかもしれないサフィールには会えないかもしれない。そう思っていた。
けれど、そう約束してくれたクラウドにまで会えないとは、思っていなかった。
(どこかへ引っ越したのかしら…。それとも…)
嫌な想像が、頭をよぎる。
(…ううん。そんなのまだ、わからないわ)
アニエスはひとまず、宿屋に帰ることにした。
今日はゆっくり休んで、明日からはパン屋の出店に向けて動き出さなければならない。
帰る道すがら、真っすぐ宿には戻らずに、少しだけ街中を歩く。
昔と同じ店。新しくできた店。
見知った顔の人々。
見知らぬ顔の人々。
懐かしい街。
知らない、街。
「あ…」
坂の中腹に、小さな花屋があった。
アニエスが住んでいた頃には無かった店だ。
店の外までたくさんの生花が並んでいる。
「綺麗…」
アニエスは花に吸い寄せられるように、その店に近付く。
よくプレゼントに使われる、薔薇の花がいっぱいに飾られていた。
赤や白やピンク。その中に、
「…黄色い薔薇…」
他の色より数は少なかったけれど、黄色い薔薇の花もあった。
「いらっしゃいませ。…黄色い薔薇をお求めですか…?」
じいっと見入っていたアニエスに、店員がそう声を掛ける。
「あっ、ごめんなさい…。ただ、珍しいなぁと思って…」
「そうですよね。黄色い薔薇は、花言葉があれだから、どうしても売れにくくって…」
あまり仕入れないんですけど、とその店員は言った。
案の定、売れ残ってしまっていると。
花は自分のためでなく、誰かのために買われることが多い。
その花言葉に、自分の気持ちを乗せて。
だから、黄色い薔薇のようにあまり良くない花言葉を持つ花は、自然と避けられる。
「『嫉妬』に『薄れゆく愛』。他人に贈るのには、向かない花ですからね~」
綺麗なんですけど、と店員は言う。
アニエスも、頷いた。
綺麗な花。黄色い色の薔薇の花。
かつてアニエスが欲しかった、花。
サフィールが、一人前の魔法使いになったらたくさんくれると約束してくれた花。
その花の意味を知ったのは、アニエスが王都へ移ってからだった。
思い出の花。約束の花。
(…薄れゆく愛…なんて…)
それが持つ意味を知って、余計に悲しくなったのを覚えている。
(…もしかしたら、私達にはぴったりなのかもしれないけれど…)
「? お嬢さん?」
「あっ。ご、ごめんなさい。ぼうっとしちゃって…」
アニエスは店員にそう謝ると、「今度は買いに来ます」と微笑んで、店を後にした。
この島は、どうにも思い出が多すぎて。
ふとした拍子に、記憶が甦る。
楽しかった記憶も。
切なかった記憶も。
そしてそれに、どうしようもなく掻き乱される。
(私は何をしにここへ来たの…。夢を、叶えるためでしょう…!)
アニエスは落ち込む気持ちを奮い立たせるように、そう自分に言い聞かせた。
(…美味しい料理を食べて、熱いお風呂に入って、ぐっすり休もう…。そうしたら…)
きっとまた、明日から頑張れるはずだ、と。
************************************************
どうしても感傷に沈んでしまう帰郷となりました。変わってしまったものを目の当たりにするのは、少なからずショックだよなあというお話です。再会まで長引いてすみません!!
そして黄色い薔薇の花言葉。これ以外にも色々あるんですが、とりあえずこの二つをまず使わせてもらっています。作中では「悪い意味の花言葉が印象強くてあまり人気の無い花」として黄色い薔薇を使っていきます。
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